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17章
17章③
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***
「はぁ……」
「あいつ、二枚くらい上手だったな」
ニヤニヤしながら岳大が言ってきたが、言い返す気力もなかった。
「どうせ、俺はまだガキですよ」
客のいなくなった店内で、カウンターに座ってスマホをいじりなから拗ねていると、いきなり振動したので思わず取り落とすところだった。
画面には待ち遠しかった文字。
「……もしもし?」
「あ、智弥? ごめん、スマホの電源入れるのすっかり忘れてて」
いつも通りの光希の声に、ひとまずほっとする。
「光希くーん、フィッシュ&チップス! 美味しいよ!」
一緒に耳に入ってきたざわめきの中から聞き覚えのある声がした。イヤな予感に苛まれながら、恐る恐る確認してみる。
「……あんた、今どこにいるんだよ」
「え? ……イギリス?」
「はあ!?」
思わず勢いよく立ち上がり、カウンターの脚の長い椅子が倒れそうになるのをかろうじて支えた。
「な、なんで急にそんなとこ……!」
「んー、なんか颯さんがね。演奏会のついでに一緒に行かない? って誘ってくれて。もうバタバタ準備してさあ。ホテルとか颯さんに手配してもらえて助かったけど」
颯が何のために光希を誘ったのか。絶対に届かないと分かっていたが、脳裏であの口髭をぎりぎり引っ張ってやる。
「……ったく……なんであんたがそこまでやるんだよ……」
「だって、きみはまだ間に合うから」
「え」
一瞬、意味を掴みかねて間抜けな声が出た。
「俺はもう家族とやり直すのは無理だけど……智弥は、まだお父さんとやり直せるよ。俺が勝手にそう思って、俺のためにやってるだけだから。きみは気にしなくていい」
「気にすんなって……そんなわけいくか!」
「絶対、お父さん連れて帰るから。ちゃんと仲直りするんだよ。いい?」
電話を切ったあと、智弥は脚に力が入らず椅子に座り込んだ。カウンターに突っ伏して独り言ちる。
「……何なんだ、あいつ……」
体中が熱くてたまらない。
なんで、そこまで。
「いいヤツじゃねえか、光希」
岳大の声に、柊吾が珍しく口を開く。
「……光希くんが迎えに行くって? 和鷹を」
「そうらしい。颯さんが唆したんだぜ、ったく……なんであいつ巻き込むんだよ……仕事休ませてまで」
「でも行くって言ったのはアイツなんだろ? 智弥のために、ねえ」
ニヤニヤしながら、カウンター越しに岳大がつむじを指でつついてくる。
その腕を乱暴に払って「うるさい」と小さくつぶやいた。
――そんなことされたら。……期待しちまうだろうが。
火照った顔を見られたくなくて、また俯いて、大きく息をついた。
「はぁ……」
「あいつ、二枚くらい上手だったな」
ニヤニヤしながら岳大が言ってきたが、言い返す気力もなかった。
「どうせ、俺はまだガキですよ」
客のいなくなった店内で、カウンターに座ってスマホをいじりなから拗ねていると、いきなり振動したので思わず取り落とすところだった。
画面には待ち遠しかった文字。
「……もしもし?」
「あ、智弥? ごめん、スマホの電源入れるのすっかり忘れてて」
いつも通りの光希の声に、ひとまずほっとする。
「光希くーん、フィッシュ&チップス! 美味しいよ!」
一緒に耳に入ってきたざわめきの中から聞き覚えのある声がした。イヤな予感に苛まれながら、恐る恐る確認してみる。
「……あんた、今どこにいるんだよ」
「え? ……イギリス?」
「はあ!?」
思わず勢いよく立ち上がり、カウンターの脚の長い椅子が倒れそうになるのをかろうじて支えた。
「な、なんで急にそんなとこ……!」
「んー、なんか颯さんがね。演奏会のついでに一緒に行かない? って誘ってくれて。もうバタバタ準備してさあ。ホテルとか颯さんに手配してもらえて助かったけど」
颯が何のために光希を誘ったのか。絶対に届かないと分かっていたが、脳裏であの口髭をぎりぎり引っ張ってやる。
「……ったく……なんであんたがそこまでやるんだよ……」
「だって、きみはまだ間に合うから」
「え」
一瞬、意味を掴みかねて間抜けな声が出た。
「俺はもう家族とやり直すのは無理だけど……智弥は、まだお父さんとやり直せるよ。俺が勝手にそう思って、俺のためにやってるだけだから。きみは気にしなくていい」
「気にすんなって……そんなわけいくか!」
「絶対、お父さん連れて帰るから。ちゃんと仲直りするんだよ。いい?」
電話を切ったあと、智弥は脚に力が入らず椅子に座り込んだ。カウンターに突っ伏して独り言ちる。
「……何なんだ、あいつ……」
体中が熱くてたまらない。
なんで、そこまで。
「いいヤツじゃねえか、光希」
岳大の声に、柊吾が珍しく口を開く。
「……光希くんが迎えに行くって? 和鷹を」
「そうらしい。颯さんが唆したんだぜ、ったく……なんであいつ巻き込むんだよ……仕事休ませてまで」
「でも行くって言ったのはアイツなんだろ? 智弥のために、ねえ」
ニヤニヤしながら、カウンター越しに岳大がつむじを指でつついてくる。
その腕を乱暴に払って「うるさい」と小さくつぶやいた。
――そんなことされたら。……期待しちまうだろうが。
火照った顔を見られたくなくて、また俯いて、大きく息をついた。
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