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15章
15章②
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「……おっす」
「久しぶり。元気だった?」
長い人工の睫毛をまたたかせ、彼女は真っ赤に塗った唇で笑った。
「莉子……久しぶり」
「ふふ。相変わらずカッコいいね」
肩にかかった栗色の髪を手で払い、もう片方の手を伸ばし智弥の横髪を耳にかける。
「やめろよ……」
一歩後ずさり距離を置く。莉子は、そのぶん一歩近づいて来た。
「何よ。元カノにはもう触られたくもないってこと?」
「そういうわけじゃねぇよ」
ちらりと後方を振り返る。光希が見ているかもしれない。そう思ってすぐに打ち消す。――自惚れも甚だしい。
「はあん、なるほど」
両腕を胸の前で組む。莉子の豊満なバストが強調され、襟ぐりの大きなニットから谷間が見えた。
かつてはこの身体と何度も肌を重ねたはずなのに。今は、光希に見られていないか、そればかりが気にかかる。
「もう新しいカノジョいるんだー。どんな子?」
「どうだっていいだろ、そんなこと。お前だって彼氏と来てるんじゃないのかよ」
「ま、そうなんだけど……」
と、後ろを振り返る。秀平たちと一緒に来たのだろう、集団の中に何人か見知った顔も見えた。
「智ちゃ~ん、いたいた!」
急に後ろから腕を掴まれてビクッとした。杏奈が智弥の腕に両手を絡めて、目を潤ませながら見上げてくる。
「もう、アタシを置いてどこ行ったかと思っちゃった。……だあれ?」
「いや、何でもねえから。もう行こうぜ」
目をぱちぱちさせている莉子を置いて、踵を返す。戻り際、杏奈が智弥の二の腕をこれでもかと抓ってきた。
「イテテテテ、何すんだよ」
「何すんだよじゃねえだろ」
杏奈の恰好で男の口調は、岳大が本気で怒っているときだ。ヤバイ、と背筋がピンと伸びる。
「テメエ、光希ほっぽって何オンナといちゃついてんだコラ。アイツ泣かせたらただじゃおかねえからな」
「いちゃついてなんかない、向こうから声かけて来たんだし。だいいち、そんなんであいつが泣くわけ……イテテテテ」
「言い訳すんじゃねえ!」
分かってはいたが、言い分はすべて却下され、ふん、と絡めていた腕を乱暴にほどかれた。抓られた二の腕を擦りながら、恨めしそうに杏奈を睨む。
「あの新入りのバーテンダー……大和ってんだが、アイツ、光希のこと狙ってるぞ」
擦っていた手が止まる。
「ま、お前に関係ないなら別にいいけどな」
お待たせ~と杏奈の口調に戻ってからスタッフの輪の中に戻って行く。その背中を見つめていると、ふと視線を感じた。
光希がじっと智弥を見つめていた。はらはらと桜の花びらが風にあおられ、舞い上がる。その薄紅色の幕が責めるような、それでいて寂寥感ただようその表情を一瞬、智弥の視界からかき消した。
次に見た光希の姿は、いつもの笑顔だった。隣の大和と笑い合う光希を見て、智弥は拳をぎゅっと握り込んだ。
「久しぶり。元気だった?」
長い人工の睫毛をまたたかせ、彼女は真っ赤に塗った唇で笑った。
「莉子……久しぶり」
「ふふ。相変わらずカッコいいね」
肩にかかった栗色の髪を手で払い、もう片方の手を伸ばし智弥の横髪を耳にかける。
「やめろよ……」
一歩後ずさり距離を置く。莉子は、そのぶん一歩近づいて来た。
「何よ。元カノにはもう触られたくもないってこと?」
「そういうわけじゃねぇよ」
ちらりと後方を振り返る。光希が見ているかもしれない。そう思ってすぐに打ち消す。――自惚れも甚だしい。
「はあん、なるほど」
両腕を胸の前で組む。莉子の豊満なバストが強調され、襟ぐりの大きなニットから谷間が見えた。
かつてはこの身体と何度も肌を重ねたはずなのに。今は、光希に見られていないか、そればかりが気にかかる。
「もう新しいカノジョいるんだー。どんな子?」
「どうだっていいだろ、そんなこと。お前だって彼氏と来てるんじゃないのかよ」
「ま、そうなんだけど……」
と、後ろを振り返る。秀平たちと一緒に来たのだろう、集団の中に何人か見知った顔も見えた。
「智ちゃ~ん、いたいた!」
急に後ろから腕を掴まれてビクッとした。杏奈が智弥の腕に両手を絡めて、目を潤ませながら見上げてくる。
「もう、アタシを置いてどこ行ったかと思っちゃった。……だあれ?」
「いや、何でもねえから。もう行こうぜ」
目をぱちぱちさせている莉子を置いて、踵を返す。戻り際、杏奈が智弥の二の腕をこれでもかと抓ってきた。
「イテテテテ、何すんだよ」
「何すんだよじゃねえだろ」
杏奈の恰好で男の口調は、岳大が本気で怒っているときだ。ヤバイ、と背筋がピンと伸びる。
「テメエ、光希ほっぽって何オンナといちゃついてんだコラ。アイツ泣かせたらただじゃおかねえからな」
「いちゃついてなんかない、向こうから声かけて来たんだし。だいいち、そんなんであいつが泣くわけ……イテテテテ」
「言い訳すんじゃねえ!」
分かってはいたが、言い分はすべて却下され、ふん、と絡めていた腕を乱暴にほどかれた。抓られた二の腕を擦りながら、恨めしそうに杏奈を睨む。
「あの新入りのバーテンダー……大和ってんだが、アイツ、光希のこと狙ってるぞ」
擦っていた手が止まる。
「ま、お前に関係ないなら別にいいけどな」
お待たせ~と杏奈の口調に戻ってからスタッフの輪の中に戻って行く。その背中を見つめていると、ふと視線を感じた。
光希がじっと智弥を見つめていた。はらはらと桜の花びらが風にあおられ、舞い上がる。その薄紅色の幕が責めるような、それでいて寂寥感ただようその表情を一瞬、智弥の視界からかき消した。
次に見た光希の姿は、いつもの笑顔だった。隣の大和と笑い合う光希を見て、智弥は拳をぎゅっと握り込んだ。
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