アマービレ・ブリオーソ・アモローソ amabile,brioso,amoroso.

椎葉ユズル

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14章

14章②

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「あの……」
「あ、おはよ。よく眠れた?」

 光希がドアをそっと開けて、顔をのぞかせた。颯が寄りかかっていたピアノから離れ、光希に微笑みかけた。
 光希はふらふらしながら、壁に手をついた。智弥が駆け寄って肩を支える。

「……飲みすぎだろ。少しは加減しろよな」
「……ごめん……」
「楽しかったもんね。懲りずにまた来てくれると嬉しいな」
「はい……ありがとうございます」
「まだ寝てた方がいいんじゃねえの?」
「ううん……大丈夫」
 ソファに座ると、青白い顔でにっこり微笑んだ。だがその後すいっと顔を逸らす。そして肩に回された智弥の手に気づいてはっとしたように体をずらした。

「も、大丈夫だから」
「……?」
 ぎこちない光希の態度に違和感を覚える。二日酔いのせいだけではなさそうだ。

「……もしかして聞いてたのか? さっきの話」
 びくりと肩をすくませた。

「あ……あの、ごめんっ、ドア開けたら話し中で、声かけるタイミングが分かんなくて、その……」
 ごめん、とまたささやくように言って俯いた。

「別に謝ることじゃねえよ。母親は病死して、父親が家にいないってだけで」
「智弥……」

 自嘲気味に笑う智弥を今にも泣きそうな顔で見つめてくる。そこに颯がぱん、と軽く手を叩いた。

「さてと。遅めの朝食にしようかな。光希くん、準備ができるまで智弥になんか弾いてもらったら? リクエストある?」

 自分が弾くわけでもないのに勝手に話を進めてしまう。心の中でため息をついてから、促すように光希に向かって、ん、と顎でピアノを示した。
 光希が気を取り直したように笑顔を見せたのでほっとする。

「えーとじゃあ……あ、そうだ」
 少しだけ考え込んでから、

「こないだテレビで見たんだけど……小犬のワルツっていうの、聴きたい」

 一瞬、颯ともども身を固くした。張りつめた空気を感じたのか、光希は慌てて言葉を紡いだ。

「それか、初めて会ったときに弾いてた……ノクターンがいいかも」
「――分かった」

 ごめん、光希。
 俺にはその曲は荷が重い。

 光希が不安げに眉をひそめるのが分かったが、気づかないふりをして、智弥は鍵盤に向かった。
 

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