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17章
17章①
しおりを挟む「……智弥」
「んー?」
どすっとスニーカーの足が智弥の右足に勢いよく乗った。
「ってーなあ、何すんだよ岳大さん」
「心ここにあらずだな。お前、大事なスマホ洗おうとしてるけど止めなくてよかったか?」
「うおっ」
シンクにコーヒーカップを置こうとしたつもりだったのに。慌ててエプロンのポケットに仕舞う。
今日は喫茶店ブランカで朝からバイト、夕方は路上ライブの予定だ。
「まーだ連絡とれないのかよ。お前何やったんだよ。そんなに嫌われることしたのか?」
「そんなことはしてないっ……つもりだけど」
あの日、光希を抱きしめてしまってから。ふいっと帰ってしまったのが気になって、連絡をしたかったが口実を思いつかずやっと電話をかけたのが昨日の夜。
『電源が入っていないか……』
と無機質な女性の声を何度聞いたことか。もちろんメッセージも既読がつかないままだ。
「くそ……」
「そんなに気になるならあいつに訊けば? ――ほれ」
岳大がドアの向こうを顎で示すと、ちょうどベルを鳴らして、少し身をかがめながら山崎が入って来るところだった。
最近は、新しい取引先が近くにあるとかでブランカにしょっちゅう顔を出すようになった。軽やかに会釈して、カウンターから一番近いテーブルに腰かける。仕草のいちいちが様になっているところが腹立たしい。
「……いらっしゃいませ」
「こんにちは、智弥くん」
「……うす」
なんでこいつに訊かなきゃなんねーんだ。でも仕事関係だったらなんか知ってるかもしんねーしな。ああでもこいつに訊くのすっげーやだ!
「カフェラテ、ホットでお願いします」
「……かしこまりました」
注文票を握ったまま、にっこり微笑んでくる山崎の顔をじろっと眺める。
「何か?」
笑顔を崩さず、山崎も視線を合わせてきた。
「あー……今日は、お一人なんですか?」
「うん」
沈黙が二人の間を流れる。
「――羽根田のこと訊きたいなら、はっきりそう言えば?」
図星をさされて、思わず羞恥と動揺で頬が熱くなった。
「……あんた、結構いい性格してんな」
「そう?」
ニヤニヤ笑いかけてくる整った顔をふん、と鼻息荒く見下ろす。
「とりあえず注文お願いできる? あんまり油売ってるわけにもいかないからさ」
ひらひら大きな手を振って智弥を追い払う仕草をするのに、また気色ばみながらしぶしぶとカウンターに戻る。
「柊吾さん、オーダー……」
カウンター内で成り行きを見守っていた柊吾と岳大が顔を見合わせた。
「あいつの方が一枚上手みたいだな」
面白そうに岳大が片眉を上げる。悔しいが同意だったので、黙ってカップの用意を始めた。
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