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12章
12章①
しおりを挟む「……なにこれ」
アナスタシスに着いた途端、杏奈にちょっと来て、と奥のカウンターに案内された。
「もう、なにこれじゃないわよ。ついさっき来たと思ったら、いきなりガブ飲み始めちゃって。やめときなさいって言ったんだけど、止めたら怒るのよ。……あんまり酒癖よくないわね、この子」
それは出会ったときから知っている。
「……あんま飲むなっていつも言ってんのに」
カウンターに突っ伏している光希の肩を揺する。
「……おい、起きろ」
「ん~……?」
すっかり出来上がっているようだ。智弥はため息をついた。当の本人はのろのろと顔を半分だけこちらに向けて、ニヘラと笑った。
「あ~、ともやだ」
そうつぶやくと、ニヤケ顔を反対側に向けた。
「おい、飲みすぎだろ。もうやめとけ」
「……やだ」
ワガママな上に、妙なところで頑固だ。
「とりあえずここで寝るな。変なやつに襲われるぞ」
冗談でなく、こんな泥酔状態では本気でお持ち帰りされる可能性がある。
光希は、本人は自覚がないようだが綺麗な顔をしている。艶やかな黒髪、大きな漆黒の瞳。スーツ姿でなければ、女の子に間違われてもおかしくない。
実際、この店で演奏しているときに光希のテーブルに近づこうとする輩が目について、演奏に集中できない場面が過去に何度かある。
「ああもう。今から仕事だってのに。――いいか、ここ動くなよ。誰か声かけてきても無視しろよ」
そう言うと、不満そうな顔が腕の間から少しのぞいた。
「……別に関係ないだろ、智弥には」
「は?」
カチンときて強い口調になってしまった。――心配して言ってやってんだぞ、こっちは!
「……俺が誰とどうなろうと関係ないだろ。智弥は、どうせ女の子と仲良くする方が楽しいんだろうし。俺のことなんかほっとけばいいだろ」
「……? いきなり、何言ってんだ?」
ステージではギターの演奏が終わり、店内は拍手に包まれた。次はギターと智弥のピアノのセッションだ。
いつまでも酔っ払いの戯言に付き合ってはいられない、と顔を背けてしまった光希を置いて、智弥はステージに上がった。
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