アマービレ・ブリオーソ・アモローソ amabile,brioso,amoroso.

椎葉ユズル

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7章

7章①

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「成瀬、こっちこっち」

 ビルの裏にある搬入口を見上げていた智弥に、今日のバイト先である植木屋の社長が手招きする。

「おはようっす。今日はよろしくお願いします」
 帽子を脱いで、お辞儀する。おう、頼むなと軍手をした手で肩をたたかれる。

 この植木屋のバイトは不定期ではあるが、もう長いことお世話になっているバイト先だ。オフィスビルに観葉植物をレンタルし、メンテナンス、交換等を行う。今日は大々的に交換作業があるとのことで、智弥にも声がかかったのだ。

 どこかで見たことあるビルだと思ったら、光希の働いているビルだ。
 心なしか、気持ちが浮き立つのを感じる。

 ――いや、こんな広いビルの中で会えるわけないって。
 自分を叱咤し、智弥は深呼吸した。

「このビルの17階から19階までのオフィス、全面的に交換だから、ちょっと重労働だけど、よろしくな。そんじゃフロアごとにチーム分けするぞ」

 他のバイトや社員らと円陣を組むように輪になって社長の広げたフロアマップを取り囲む。指示を頭に叩き込んで、同じチームになった者たちとも挨拶を交わす。智弥はツナギのポケットから軍手を取り出して嵌めた。

 搬入口の大きなエレベーターに乗って、17階を目指す。人間より植物の方が幅を利かせて、さながらジャングルの中にいるかのようだ。

「おっし、成瀬それ頼む」
 指でさされたベンジャミンの植木鉢が乗った台車に手をかける。ここで働くようになって、植物の種類にも詳しくなってきた。

 エレベーターを出ると、全く違う空気感に包まれる。スーツを着たサラリーマン。ヒールの音を響かせる女性たち。
 自分とは住む世界が違う。そう感じてしまう。この雰囲気の中で光希も働いているのかと思うと、不思議な気持ちになる。


 

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