三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞

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18.共寝のお誘い

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『それでは、国境側の取り決めについては、こちらの内容で双方合意ということでよろしいでしょうか』
 詳細について記した文書を渡し、問いかけると、ラーディンが頷いた。

『ああ、それでかまわぬ。……検問の設置については、私から陛下に奏上しよう』
『よろしくお願いいたします』
 俺は頭を下げ、椅子から立ち上がった。テーブルについていた他の面々も、ほっとした様子で席を立った。

 交渉はスムーズに進んだ。
 元々、大筋では合意していたし、後は細かい詰めの作業が残っていただけだしな。そこにちょちょっと小細工をするくらいなら、問題ないだろうと踏んだのだが、予想通りだった。良かった、助かった。

 後は、アンクスガットの剣士を非常時に兵として運用できるよう、なんらかの制度を定めることができたら完璧なんだけど。……そこまで踏み込むのは難しいかなあ。なんでそんな制度が必要なんだって邪推されそうだ。
『……アンスフェルム、少し話があるのだが』
『はい』
 ラーディンの言葉に、俺は上の空で頷いた。

 アンクスガットの剣士を非常時に徴兵するには、国務卿たちの承認がいる。どうつつけば、彼らを動かすことができるだろう。

『後で部屋を訪ねてもかまわぬか?』
『はい』
 国務卿は四人いるが、その内、二人は武門の出で、ラーディンに心酔している。この二人はラーディンに頼めば、何とかできるかもしれない。一人は猫獣人で、バルミラ妃の実家に連なる一族の者だから、難しいだろう。残る一人は……。

『……泊まっても?』
『はい』
 たしか狐獣人で、ヤシル王の弟、ラーディンにとっては叔父にあたる方だ。中立派で、ヤシル王のラーディンへの態度を諫めたこともあったような……。えーっと、名前なんだっけ。サーディクとかザフィールとか、そんな感じの名前だった気がする。ラーディンなら知ってるだろうし、聞いてみるか。

『本当にかまわぬのか?』
『え?』
 ラーディンに顔を覗き込まれ、俺ははっとした。しまった、話聞いてなかった。
『えと、……あの』
『イヤか?』

 俺は困ってラーディンを見上げた。
 どうしよう、何を聞かれたんだ? 頷いても問題ないだろうか。いや、まさかそんなことはないと思うが、エルガー王国からパルダン王国へ何がしかの貢物を寄こせとか、そんな要求だったら飲むわけにはいかない。

『あー、あの……、俺一人では判断がつきかねますので、ロルフ様と協議させていただければと思います。ロルフ様にも、もう一度お話しいただけますか?』
 そうすれば、再度ラーディンの話を聞けるしな!
『わかった。ロルフ殿も婚約者の一人だからな。こうしたことは、はっきりさせておいたほうがいいだろう』
 ラーディンは頷き、ロルフ様に近づいた。

 ロルフ様は、国境に関する交渉がうまくいったせいか、安堵した様子で椅子に座ったままだ。
「ロルフ殿、そなたの了承を得たいのだが」
 ラーディンが大陸語でロルフ様に話しかけた。
 ロルフ様は首をかしげ、ラーディンを見上げた。
「なんでしょう、検問についてでしょうか?」
「いや、そうではない」

 ラーディンは俺をちらりと見やり、言った。

「アンスフェルムと褥を共にしても、問題ないか?」

「…………え?」
「はぁあああああ!?」
 ロルフ様の声と俺の絶叫が重なった。

「あ、いえ、……その、アンスフェルム殿が合意しておられるなら、わたしに異論はありませんが」
「そうか。感謝する」
「いえいえ、どうぞ良い夜をお過ごしください」
 にこにこと友好的に会話を交わす二人に、俺は叫んだ。

「なにを! 話して! おられるのか! 夜……、褥って!」
「先ほど言っただろう。何を慌てている?」
 ラーディンが不思議そうな表情で言った。

「おまえの部屋に泊まってもよいかと尋ねたら、おまえは『はい』と答えた。本当に良いのかと確認したら、ロルフ殿の了承をとれと」
「いや、そっ……、了承とか、そういう意味では」
 俺は赤くなり、ついで青くなった。

 どどどどうしよう。そんな話をしてたのか!? 俺、頷いたのか!? そんなバカな。ていうか、真面目な会議の直後に、そんなエロい誘いをかけてくるなよ!

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