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68.お兄様のお願い
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わたしの妻になってくれ、というお兄様のセリフが、頭の中でリフレインしている。
いや、うん、もう婚約しているし、その先は結婚だ、と理解はしているけど、でも、展開早すぎないですか。
「爵位は……」
「挙式と同時に継承する」
「ミルは……」
「卒業まで、仕事は全てわたしが代行する」
「そ、そうですか……」
さあどうする、もう何の言い訳も出てこない!
おたおたする私に、お兄様がもどかしそうに言った。
「もう待てぬ。本当は、今すぐにでもおまえをわたしのものにしたいくらいだ」
「えええ……」
なんでそんな切羽詰まってるんですか。
「婚約していても、おまえを望む者は後をたたぬ。王太子殿下はいまだにおまえを諦めてはいない上、フォール地方の騎士までが」
「ち、ちょっと待ってください!」
お兄様のとんでもない誤解に、私は思わず声を上げた。
「王太子殿下はともかく、ラッシュは違いますよ!」
私はお兄様に力説した。
「ラッシュはただ、治療院によく来てくれた親切な騎士様ってだけで。そもそも私もラッシュも」
「……おまえは、フォール地方にいた時、そのパトラッシュなる騎士と、街で逢引を楽しんだのだろう」
「あい……!?」
ラス兄様の言葉に、私は目を剝いた。
何を言っているんだこのラスカルは。
「逢引って」
「言い訳しても無駄だ。調べはついている」
なんですかその犯罪者扱いは。
「ラッシュは街を案内してくれただけです!」
「そう思っているのはおまえだけだ。相手はおまえを……」
言いかけて、お兄様は顔を歪めた。
「……おまえのことを、相手がどのように思っていたのかなど、手に取るようにわかる。おまえに笑いかけられ、優しくされて、相手は喜んだだろう。おまえの気持ちが自分にあるのかもしれぬと、そうぬか喜びして思いをつのらせたはずだ。わたしのようにな」
ぬか喜びって。
「私……、私は、お兄様のことが、す、す……き、です、よ……」
「マリア」
お兄様は私の顎を持ちあげ、じっと見つめた。
「……あの、お兄様……」
お兄様の顔が近づいてきて、キスされる。
「……おまえに触れられるのは、わたしだけだ。おまえはわたしの、わたしだけのものだ……」
熱に浮かされたようにお兄様が言う。
そのまま、何度もくり返しキスされ、頭がぼうっとしてくる。
「おまえを閉じ込めてしまいたい。……おまえがわたしを想ってくれている内に、他の誰にも会えぬようにしてしまいたいのだ」
ぅおっ。
闇属性の本領発揮なセリフに、私はちょっと引いた。
お兄様、ほんとに監禁大好きなんだな。
私はお兄様を見上げた。
お兄様は顔を歪め、どこか痛むような目で私を見つめている。
うーん。
そんなに私を監禁したいんだろうか。
まあ、そもそも私はインドア派だし、積極的に社交界で遊びまわりたいという欲求もない。
夜遊び大好き貴族からすれば、私は、普段から自主的監禁生活を送っているように見えるかもしれない。
「……あの、週一くらいで王都の人気カフェのスイーツを楽しめるなら、私、監禁されてもかまいませんよ」
そう言ってお兄様を見上げると、お兄様は虚をつかれたように瞬きして私を見つめ返した。
「……なに?」
「あの、お兄様は私を監禁したいんですよね? それは別にかまわないんですけど、でもやっぱり、週一くらいはカフェでスイーツを……」
まじまじとお兄様に見つめられ、私は居心地悪く視線をさまよわせた。
食い意地張ってるって思われただろうか。
週一じゃなく、月一くらいにしとくべき? しかしこれは譲れない一線!
「カフェにはラス兄様も一緒にきて、注文もラス兄様がして下されば、私は誰とも話さないで済みますし」
「マリア」
「そもそもカフェには女性しかいませんから」
必死に説得する私をさえぎり、強引にお兄様が口づけてきた。
普段の軽いキスとは違い、がっつり舌を絡めてくる。
うわ、うわわ。
と、突然どうしたんですかお兄様。
いや、お兄様はいっつもいきなりこういう行為をしてくるんだけど!
口腔内を探られ、舌を吸われ、私は必死になってお兄様に縋りついた。
激しいキスに、息が上がる。
舌が絡みあう音が妙に生々しくて、頭が沸騰しそうだ。
しばらく荒々しく唇を貪った後、お兄様は、はあ、と息を吐いた。
「……悪かった」
くたっと力の抜けた私を抱きしめ、お兄様が小さく言った。
「え」
「埒もないことを言った。……どうかしているな、わたしは」
お兄様はため息をつき、私の首筋に顔を埋めた。
「おまえと離れたくない。ずっと一緒にいたい……」
珍しく子どものように駄々をこねるお兄様に、私はちょっとだけ和んだ。
うん、表現がちょっと極端なだけで、お兄様と私は、フツーに両想いのカップルだよね。たぶん。
「私もお兄様と一緒にいたいです」
「本当に?」
「本当ですよ」
なだめるようにお兄様の頭を撫でると、
「……では、フォール地方の叛乱を制圧したら、私と結婚してくれるか?」
「………………」
いかなる状況においても当初の目的を忘れず、執念深く本懐を遂げようとするお兄様に、私はもういろいろと諦めることにした。
「……はい、結婚します……」
「マリア!」
ぎゅうう、とお兄様が感極まったように私を抱きしめた。
「一月以内にこの叛乱を鎮めてみせる。王都に戻ったら、すぐに式を挙げよう」
「……はい……」
さっきまでの不安そうな表情とか、もしかして演技だったのでは?と疑いたくなるほど、晴れやかな笑顔でお兄様が言った。
うん、まあ……、いっか。
私達、両想いなんだし。婚約してるんだし。
なんか、すべてがお兄様の思い通りにスケジューリングされてるような気もするが、そこら辺は深く考えないでおこう……。
いや、うん、もう婚約しているし、その先は結婚だ、と理解はしているけど、でも、展開早すぎないですか。
「爵位は……」
「挙式と同時に継承する」
「ミルは……」
「卒業まで、仕事は全てわたしが代行する」
「そ、そうですか……」
さあどうする、もう何の言い訳も出てこない!
おたおたする私に、お兄様がもどかしそうに言った。
「もう待てぬ。本当は、今すぐにでもおまえをわたしのものにしたいくらいだ」
「えええ……」
なんでそんな切羽詰まってるんですか。
「婚約していても、おまえを望む者は後をたたぬ。王太子殿下はいまだにおまえを諦めてはいない上、フォール地方の騎士までが」
「ち、ちょっと待ってください!」
お兄様のとんでもない誤解に、私は思わず声を上げた。
「王太子殿下はともかく、ラッシュは違いますよ!」
私はお兄様に力説した。
「ラッシュはただ、治療院によく来てくれた親切な騎士様ってだけで。そもそも私もラッシュも」
「……おまえは、フォール地方にいた時、そのパトラッシュなる騎士と、街で逢引を楽しんだのだろう」
「あい……!?」
ラス兄様の言葉に、私は目を剝いた。
何を言っているんだこのラスカルは。
「逢引って」
「言い訳しても無駄だ。調べはついている」
なんですかその犯罪者扱いは。
「ラッシュは街を案内してくれただけです!」
「そう思っているのはおまえだけだ。相手はおまえを……」
言いかけて、お兄様は顔を歪めた。
「……おまえのことを、相手がどのように思っていたのかなど、手に取るようにわかる。おまえに笑いかけられ、優しくされて、相手は喜んだだろう。おまえの気持ちが自分にあるのかもしれぬと、そうぬか喜びして思いをつのらせたはずだ。わたしのようにな」
ぬか喜びって。
「私……、私は、お兄様のことが、す、す……き、です、よ……」
「マリア」
お兄様は私の顎を持ちあげ、じっと見つめた。
「……あの、お兄様……」
お兄様の顔が近づいてきて、キスされる。
「……おまえに触れられるのは、わたしだけだ。おまえはわたしの、わたしだけのものだ……」
熱に浮かされたようにお兄様が言う。
そのまま、何度もくり返しキスされ、頭がぼうっとしてくる。
「おまえを閉じ込めてしまいたい。……おまえがわたしを想ってくれている内に、他の誰にも会えぬようにしてしまいたいのだ」
ぅおっ。
闇属性の本領発揮なセリフに、私はちょっと引いた。
お兄様、ほんとに監禁大好きなんだな。
私はお兄様を見上げた。
お兄様は顔を歪め、どこか痛むような目で私を見つめている。
うーん。
そんなに私を監禁したいんだろうか。
まあ、そもそも私はインドア派だし、積極的に社交界で遊びまわりたいという欲求もない。
夜遊び大好き貴族からすれば、私は、普段から自主的監禁生活を送っているように見えるかもしれない。
「……あの、週一くらいで王都の人気カフェのスイーツを楽しめるなら、私、監禁されてもかまいませんよ」
そう言ってお兄様を見上げると、お兄様は虚をつかれたように瞬きして私を見つめ返した。
「……なに?」
「あの、お兄様は私を監禁したいんですよね? それは別にかまわないんですけど、でもやっぱり、週一くらいはカフェでスイーツを……」
まじまじとお兄様に見つめられ、私は居心地悪く視線をさまよわせた。
食い意地張ってるって思われただろうか。
週一じゃなく、月一くらいにしとくべき? しかしこれは譲れない一線!
「カフェにはラス兄様も一緒にきて、注文もラス兄様がして下されば、私は誰とも話さないで済みますし」
「マリア」
「そもそもカフェには女性しかいませんから」
必死に説得する私をさえぎり、強引にお兄様が口づけてきた。
普段の軽いキスとは違い、がっつり舌を絡めてくる。
うわ、うわわ。
と、突然どうしたんですかお兄様。
いや、お兄様はいっつもいきなりこういう行為をしてくるんだけど!
口腔内を探られ、舌を吸われ、私は必死になってお兄様に縋りついた。
激しいキスに、息が上がる。
舌が絡みあう音が妙に生々しくて、頭が沸騰しそうだ。
しばらく荒々しく唇を貪った後、お兄様は、はあ、と息を吐いた。
「……悪かった」
くたっと力の抜けた私を抱きしめ、お兄様が小さく言った。
「え」
「埒もないことを言った。……どうかしているな、わたしは」
お兄様はため息をつき、私の首筋に顔を埋めた。
「おまえと離れたくない。ずっと一緒にいたい……」
珍しく子どものように駄々をこねるお兄様に、私はちょっとだけ和んだ。
うん、表現がちょっと極端なだけで、お兄様と私は、フツーに両想いのカップルだよね。たぶん。
「私もお兄様と一緒にいたいです」
「本当に?」
「本当ですよ」
なだめるようにお兄様の頭を撫でると、
「……では、フォール地方の叛乱を制圧したら、私と結婚してくれるか?」
「………………」
いかなる状況においても当初の目的を忘れず、執念深く本懐を遂げようとするお兄様に、私はもういろいろと諦めることにした。
「……はい、結婚します……」
「マリア!」
ぎゅうう、とお兄様が感極まったように私を抱きしめた。
「一月以内にこの叛乱を鎮めてみせる。王都に戻ったら、すぐに式を挙げよう」
「……はい……」
さっきまでの不安そうな表情とか、もしかして演技だったのでは?と疑いたくなるほど、晴れやかな笑顔でお兄様が言った。
うん、まあ……、いっか。
私達、両想いなんだし。婚約してるんだし。
なんか、すべてがお兄様の思い通りにスケジューリングされてるような気もするが、そこら辺は深く考えないでおこう……。
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