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64.闇の魔術と祝福の光
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中央神殿に到着すると、神殿内は騒然となっていた。
祈りの場には大勢の神官達が集まり、何やら激しく言い合っている。
「聖女さま!」
神官の一人が私の姿に気づき、走り寄ってきた。
「おいでいただき、感謝いたします! 先ほど、中央広場に緊急転移で騎士が」
「ええ、伺っております。その騎士様は負傷されているとか」
「は、それが……」
「聖女様!」
紫色の帯をつけた神官長が祈りの場に現れ、さっと神官達が道を開けた。
「聖女様、こちらへ。どうぞ」
神官長に先導され、私は中庭をほとんど走るように突っ切った。
前回はこのまま控室に通されたが、そこを更に通り越し、宝庫近くの奥まった部屋へと私は案内された。
……こ、こんな場所、初めて見る。
前回、聖女鑑定を行った神殿地下にも驚いたけど、神殿ってちょっとダンジョンっぽい。
通された部屋はそれほど広くなかっが、貴人用の部屋なのか、寝台をはじめすべての調度品が豪華だった。
そして、その寝台の上に、全身包帯を巻かれた騎士が横たわっていた。
顔半分近くが包帯で覆われていて、表情は見えなかったが、あの柔らかそうな茶色の髪は、間違いない。
「ラッシュ!」
私は思わず叫ぶように名を呼んだ。
ひどい怪我だ。
全身を切り刻まれたような状態で、無事なところがほとんどない。
「……マリー、さん?」
ラッシュが苦しそうに言い、なんとか上体を起こそうともがいた。
「起きないで、そのまま! いま治癒を」
「いえ、これに治癒術は効きません。これは恐らく、闇の魔術によるものです」
神官長の言葉に、私は驚いて手を止めた。
「……闇の魔術? でも、そんな。フォール地方に、闇の魔術の使い手など」
「砦の……、魔術師が」
ラッシュが苦しそうに言った。
「彼が……、いきなり、砦の騎士を」
言いかけて、傷が痛むのか、ラッシュが呻いた。
闇の魔術による怪我なら、祝福の光が効くはずだ。
私はひざまずき、真剣に祈った。
不安な心を鎮め、ただラッシュの怪我を癒すことだけを願う。
瞬間、強力な神力があふれ、私の全身からまばゆい光がほとばしった。
すべてを圧倒するようなその光の強さに、神官長を含め、部屋にいた神官全員が膝をついた。
「おお……、聖女様」
神官長がうやうやしく私に首を垂れる。
いや、今そういうの、いらないから!
私は寝台に近寄り、ラッシュの状態を確かめようとした。
「ラッシュ、怪我はどう? 痛みは?」
「……これは」
ラッシュは包帯で覆われていないほうの目を、ぱちぱちと瞬きさせ、確かめるように両手を閉じたり開いたりした。
「動く……、痛みもない。これは……」
私を見るラッシュの目に、どこか恐れのような色が浮かんだ。
「聖女さま……」
「痛みはありませんか?」
私はつとめて事務的に聞いた。
ラッシュにまで、神官のように私を恐れ敬う態度を取られたら、けっこう傷つくと思ったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「痛みは……ありません、ええ、大丈夫です。体も動くようです」
ラッシュは上体を起こし、私をしげしげと見つめた。
「聖女さま……、いえ」
ラッシュはにこっと、あの人好きのする笑顔を浮かべて言った。
「マリーさん、ありがとう」
その懐かしい、気安い口調に、私はほっと胸を撫で下した。
良かった。
ラッシュは変わらない。
私のほうこそ、ありがとうだよ、ラッシュ!
祈りの場には大勢の神官達が集まり、何やら激しく言い合っている。
「聖女さま!」
神官の一人が私の姿に気づき、走り寄ってきた。
「おいでいただき、感謝いたします! 先ほど、中央広場に緊急転移で騎士が」
「ええ、伺っております。その騎士様は負傷されているとか」
「は、それが……」
「聖女様!」
紫色の帯をつけた神官長が祈りの場に現れ、さっと神官達が道を開けた。
「聖女様、こちらへ。どうぞ」
神官長に先導され、私は中庭をほとんど走るように突っ切った。
前回はこのまま控室に通されたが、そこを更に通り越し、宝庫近くの奥まった部屋へと私は案内された。
……こ、こんな場所、初めて見る。
前回、聖女鑑定を行った神殿地下にも驚いたけど、神殿ってちょっとダンジョンっぽい。
通された部屋はそれほど広くなかっが、貴人用の部屋なのか、寝台をはじめすべての調度品が豪華だった。
そして、その寝台の上に、全身包帯を巻かれた騎士が横たわっていた。
顔半分近くが包帯で覆われていて、表情は見えなかったが、あの柔らかそうな茶色の髪は、間違いない。
「ラッシュ!」
私は思わず叫ぶように名を呼んだ。
ひどい怪我だ。
全身を切り刻まれたような状態で、無事なところがほとんどない。
「……マリー、さん?」
ラッシュが苦しそうに言い、なんとか上体を起こそうともがいた。
「起きないで、そのまま! いま治癒を」
「いえ、これに治癒術は効きません。これは恐らく、闇の魔術によるものです」
神官長の言葉に、私は驚いて手を止めた。
「……闇の魔術? でも、そんな。フォール地方に、闇の魔術の使い手など」
「砦の……、魔術師が」
ラッシュが苦しそうに言った。
「彼が……、いきなり、砦の騎士を」
言いかけて、傷が痛むのか、ラッシュが呻いた。
闇の魔術による怪我なら、祝福の光が効くはずだ。
私はひざまずき、真剣に祈った。
不安な心を鎮め、ただラッシュの怪我を癒すことだけを願う。
瞬間、強力な神力があふれ、私の全身からまばゆい光がほとばしった。
すべてを圧倒するようなその光の強さに、神官長を含め、部屋にいた神官全員が膝をついた。
「おお……、聖女様」
神官長がうやうやしく私に首を垂れる。
いや、今そういうの、いらないから!
私は寝台に近寄り、ラッシュの状態を確かめようとした。
「ラッシュ、怪我はどう? 痛みは?」
「……これは」
ラッシュは包帯で覆われていないほうの目を、ぱちぱちと瞬きさせ、確かめるように両手を閉じたり開いたりした。
「動く……、痛みもない。これは……」
私を見るラッシュの目に、どこか恐れのような色が浮かんだ。
「聖女さま……」
「痛みはありませんか?」
私はつとめて事務的に聞いた。
ラッシュにまで、神官のように私を恐れ敬う態度を取られたら、けっこう傷つくと思ったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「痛みは……ありません、ええ、大丈夫です。体も動くようです」
ラッシュは上体を起こし、私をしげしげと見つめた。
「聖女さま……、いえ」
ラッシュはにこっと、あの人好きのする笑顔を浮かべて言った。
「マリーさん、ありがとう」
その懐かしい、気安い口調に、私はほっと胸を撫で下した。
良かった。
ラッシュは変わらない。
私のほうこそ、ありがとうだよ、ラッシュ!
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