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82.元の世界へ
しおりを挟む「ええ……」
神々しい光が自分の中に入っていくのを、わたしは呆然と見つめていた。
光が体の中に入るにつれ、炎に焼かれた右腕から、すーっと痛みが引いていくのがわかった。
「え、……この光、何なんですか? これ……」
痛みが引いたのはありがたいけど、これは一体どういうことなんだろう。わたしはちょっとビクビクしながらエスターとラインハルトを振り返った。
二人とも呆然としていたが、わたしの言葉にハッとしたような表情になった。
「……それは、祝福の光だ。神託を見事成就させたおまえに、神が祝福を授けられたのだろう」
ラインハルトがそう言った。
神託!
わたしは、あっと声を上げそうになった。
呪われた騎士を救いなさい。それが、わたしに下された神託だ。
そうか、ずっと神託の「呪われた騎士」ってエスターなのか、それともラインハルトなのかって思ってたけど、亡霊のことを指してたのか!
亡霊は言っていた、「僕を救ってくれてありがとう」と。
たしかに亡霊も、隣国の魔法騎士だ。亡霊を救えば、魔女も復活することはない。そうか、そういうことか……。
しかし、神の祝福って、授けられた側はどういうことになるんだろう。ラインハルトを見る限り、祝福と呪いは紙一重って感じがするんだけど。
「あの、祝福って……、大丈夫でしょうか? なんか寿命がめちゃくちゃ延びるとか、若返るとか、そういうのは……」
「……精霊の加護と神の祝福は違う。おまえの望まぬことを押し付けられることはない」
ラインハルトが肩をすくめて言った。
「そうです、今ならユリ様の願いを叶えられます」
エスターが言った。
「今なら元の世界に戻れるはずです、ユリ様」
エスターの言葉に、わたしはドキリとした。
元の世界に帰れる。
「……魔法陣もあります。あなたの中にある祝福の力を使い、陣を起動すれば、元の世界に戻れます。……ユリ様、どうか私も一緒に」
エスターが言いかけたその時、亡霊が淡く輝きながら言った。
《……君は、元の世界に戻りたいの? それなら、お礼に僕がその願いを叶えよう……》
「えっ……、え?」
次の瞬間、わたしの足元にふわりと黄金の魔法陣が浮かび上がった。
《ありがとう、君の幸せを祈っているよ……》
騎士の亡霊は優しくそう言うと、胸に抱きしめた銀色の靄を愛おしそうに撫でた。
亡霊もその胸に抱かれた靄も、徐々にその輪郭がぼやけ、キラキラと光りながら儚く消えていく。
ちょ、ちょっと待って!
まだエスターに何も言ってない。ラインハルトにお別れの言葉も。
「ユリ様!」
「待て、ユリ!」
慌てたように二人がわたしに腕を伸ばした。
その手を取ろうとして……、わたしは一瞬、ためらった。
いま、この手を取ったら、わたしと一緒に、決して戻れない世界へと連れていってしまうことになる。
そんなこと、許されるんだろうか。……本当に?
一緒に連れていって、そしていつか彼がそのことを後悔する時がきたら、そうしたらわたしは……。
「ユリ様!」
「ユリ!」
一瞬の迷いで、差し出された手を掴む、ただ一度のチャンスを逃してしまった。
わたしは、こちらの世界に召喚された時と同じように、まばゆい光に包まれた。
手を伸ばそうとしても、光がまぶしくて目を開けていられない。
かすかにわたしを呼ぶ声が聞こえたけれど、それ以上、意識を保っていることもできなかった。
わたしは、世界を渡る強烈な魔法に飲み込まれ、意識を失ってしまったのだった。
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