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73.心開いて

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「ユリ様……」
 エスターが頬を赤く染め、わたしを見ている。

 いたたまれずわたしが顔を背けると、エスターが足早にやってきて、わたしの前に立った。
「ユリ様」
「いや、あの、今はちょっと……」
 ラケットで顔を隠すようにしたけど、エスターは気にも留めずに、ぐいとわたしを抱き寄せた。
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。

「エスター」
「幸せにします」

 耳元でささやかれ、わたしは硬直した。
 日常会話がプロポーズのエスターだけど、これは……。
「エ、エスター、さっきの……」
「はい」
「あの、どこから聞いてたの……?」
「……私が、いつも優しいと」

 ああああそこから! いっちばん恥ずかしいところからか!

「忘れてください!」
「一生忘れません」

 エスターがかすれた声でささやいた。
「ユリ様が、あれほど私を想ってくださっているとは、想像もしておりませんでした。……私ばかりが想っているものと」
「そ……、それは、違い……ます」
 わたしはしどろもどろに言った。
 顔が真っ赤になって、汗まで出てくる。

「たぶん、エスターより、わたしのほうが……」
「ユリ様」
 エスターの手がわたしの顎をつかみ、上向かされた。そのままエスターの顔が近づいてきて、
「そこまでだ!」
 ラインハルトが大声で言った。

「……わかった、よーくわかった。もうおまえ達の間に割り込もうなどと、バカなことは考えぬ! ……が、せめて私の目の前でそういう振る舞いはするな! それくらいの配慮はしろ!」

 ふう、と大きく息を吐くラインハルトに、わたしは気まずくなってエスターから離れた。……離れようとした、けど、エスターは逃げるわたしの手を取り、指をからめてきた。
「いや、あのエスター……」
「口づけはいたしません」
「くち……」
「殿下の前では」
 エスターはにっこり笑った。

「……きさま、いい度胸だな」
「申し訳ありません、殿下」
 晴れやかな笑顔を浮かべ、エスターが言った。
「ユリ様のお気持ちを知り、喜びが抑えられないのです」
 素直すぎるエスターの言葉に、わたしは思わずうつむいた。

 ……うう……。
 エスター、なんでそんなオープンマインドなんですか……。恥ずかしいとか、そういうのないんですか……。

「ユリ様」
 まぶしすぎる笑顔でエスターがわたしを見た。
「ユリ様が私を想ってくださるのは嬉しいのですが、一つだけ訂正をさせてください」
「エスター……」
「あなたが私に釣り合わないなど、そのようなことはあり得ません」
 エスターが力強く言い切る。

「どうぞ、お心のままに私を求めてください。……ユリ様の世界へ、私が共に行くことをお許しください」

 繋がった手を強く握られ、わたしは泣きそうになった。
 一緒に。エスターと一緒に、元の世界に帰る。
 それを望んでも、いいんだろうか。
 エスターの人生を変えることを、許してもらえるんだろうか。

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