77 / 88
73.心開いて
しおりを挟む「ユリ様……」
エスターが頬を赤く染め、わたしを見ている。
いたたまれずわたしが顔を背けると、エスターが足早にやってきて、わたしの前に立った。
「ユリ様」
「いや、あの、今はちょっと……」
ラケットで顔を隠すようにしたけど、エスターは気にも留めずに、ぐいとわたしを抱き寄せた。
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
「エスター」
「幸せにします」
耳元でささやかれ、わたしは硬直した。
日常会話がプロポーズのエスターだけど、これは……。
「エ、エスター、さっきの……」
「はい」
「あの、どこから聞いてたの……?」
「……私が、いつも優しいと」
ああああそこから! いっちばん恥ずかしいところからか!
「忘れてください!」
「一生忘れません」
エスターがかすれた声でささやいた。
「ユリ様が、あれほど私を想ってくださっているとは、想像もしておりませんでした。……私ばかりが想っているものと」
「そ……、それは、違い……ます」
わたしはしどろもどろに言った。
顔が真っ赤になって、汗まで出てくる。
「たぶん、エスターより、わたしのほうが……」
「ユリ様」
エスターの手がわたしの顎をつかみ、上向かされた。そのままエスターの顔が近づいてきて、
「そこまでだ!」
ラインハルトが大声で言った。
「……わかった、よーくわかった。もうおまえ達の間に割り込もうなどと、バカなことは考えぬ! ……が、せめて私の目の前でそういう振る舞いはするな! それくらいの配慮はしろ!」
ふう、と大きく息を吐くラインハルトに、わたしは気まずくなってエスターから離れた。……離れようとした、けど、エスターは逃げるわたしの手を取り、指をからめてきた。
「いや、あのエスター……」
「口づけはいたしません」
「くち……」
「殿下の前では」
エスターはにっこり笑った。
「……きさま、いい度胸だな」
「申し訳ありません、殿下」
晴れやかな笑顔を浮かべ、エスターが言った。
「ユリ様のお気持ちを知り、喜びが抑えられないのです」
素直すぎるエスターの言葉に、わたしは思わずうつむいた。
……うう……。
エスター、なんでそんなオープンマインドなんですか……。恥ずかしいとか、そういうのないんですか……。
「ユリ様」
まぶしすぎる笑顔でエスターがわたしを見た。
「ユリ様が私を想ってくださるのは嬉しいのですが、一つだけ訂正をさせてください」
「エスター……」
「あなたが私に釣り合わないなど、そのようなことはあり得ません」
エスターが力強く言い切る。
「どうぞ、お心のままに私を求めてください。……ユリ様の世界へ、私が共に行くことをお許しください」
繋がった手を強く握られ、わたしは泣きそうになった。
一緒に。エスターと一緒に、元の世界に帰る。
それを望んでも、いいんだろうか。
エスターの人生を変えることを、許してもらえるんだろうか。
1
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる