67 / 88
63.遭遇
しおりを挟むニート生活が数日過ぎ、やっとわたしの傷口も塞がった。ルーファス謹製の傷薬、アリーも絶賛してたけど、ほんとに良く効く。
神経をやられてたらどうしようと心配してたけど、指も問題なく動くし、一安心だ。
わたしの傷口をチェックしたラインハルトも、満足そうに頷いて言った。
「よし、もういいだろう。今日、ユニコーンからたてがみを採取しろ」
採取って……、いやまあ、その通りなんだけど。
エスターがわたしの手を握り、真剣な表情で言った。
「ユリ様、今度こそあなたをお守りいたします。どうぞご安心ください」
いや、危ないのはエスターのほうでは……。
とにかく、
「わたしは座って、ユニコーンを待ってればいいんですか?」
「そうだ。……まあ、ユニコーンは音楽好きと言われているから、歌や楽器を奏でれば、より遭遇率が上がると聞くが」
楽器……、わたしが弾けるのはピアノくらいだしなあ。歌、歌かあ……。
わたしは二人に言った。
「じゃ、わたし、歌を歌うので、二人は聴こえないように遠くに離れててください」
「何故ですか!」
エスターが間髪入れずに抗議した。
「あまり離れれば、ユリ様をお守りできません!」
「ユニコーンは女性には無害なんでしょ?」
「万一ということがあります!」
わたしはラインハルトを見た。
「ラインハルト様、エスターを連れて離れててくれますか?」
「……何故だ」
不満げなラインハルトに、わたしは驚いて言った。
「いや、なんでって……、エスターがユニコーンに襲われたら危ないでしょ。それに、歌を聴かれたくないし」
「何故、聴かれたくないのだ」
ラインハルト、真顔だ。
「誰かに歌を聴かれるなんて、恥ずかしいじゃないですか」
「おまえの羞恥心は理解できんな。歌とは、他人に聴かせるためにあるのではないか」
そうとばかりは言い切れません! わたしの世界には一人カラオケというものがあり、そこそこ人気なんです!
「私もユリ様の歌を聴きたいです」
エスターが目をキラキラさせて言った。
そんな期待されると、ますます歌いたくなくなる。だが、
「ここで無為に時間を過ごすのは、おまえも本意ではあるまい。最短でユニコーンからたてがみを手に入れる為だと思って、歌え、ユリ」
それに、とラインハルトは続けた。
「異世界の歌というものに、興味がある。どのようなものなのか、じっくり聴いて、検証したい」
検証って何を!
イヤだイヤだと盛大にごねたが、平原の真ん中で座っている内に、わたしはだんだん諦めというか、ヤケくそ気味になってきた。
ラインハルトの言う通り、ここでいたずらに時間を失うわけにはいかない。わたしのせいで遠回りをさせているんだから、時間短縮ができるならするべきだ。
歌を聴かれるくらい、どうってこと……、な、ない、はず、だ。
立ち上がると、少し離れた場所にしゃがんでいるエスターとラインハルトの姿が見えた。
……歌を聴かれたって死にはしない! ユニコーンのたてがみの為だ、いけ、わたし!
わたしは目をつぶり、息を吸い込んで歌い始めた。
異世界の歌なんだし、音を外したって気づかれない……といいな、と思いながらわたしは歌った。目を開けてちらりと確認すると、遠くからでもエスターが目を輝かせてこっちを見てるのがわかる。
うう……、もう、もう、好きにすれば! なにこの羞恥プレイ! 異世界まで来て、さしてうまくもない独唱を披露とか、いったい何の罰ゲームなんだ!
一曲歌い終える頃には、わたしはすっかり開き直っていた。
聴きたいなら聴けばいい! さあどうぞ! お代はいらないよ!
一応、ユニコーンを誘い込むという目的を考えると、男女の三角関係を歌ったドロドロ愛憎の歌とかは避けたほうが無難だろう。全年齢対象の童謡や聖歌を続けて歌っていると、
ふわっと空気が動いた、ような気がした。
横目で確認すると、先ほどまで何もなかった場所に、忽然と一頭のユニコーンが立っている。
驚きのあまり、歌が途切れた。わたしは唖然として、目の前に現れたユニコーンを見つめた。
額から真っすぐに、長い一本の角が生えたいる。わたしの世界で言い伝えられている通りの、ユニコーンの姿形をしていた。淡いクリーム色の被毛に、金色のたてがみをしている。綺麗だけど、なんかすっごい派手……。
驚きで立ちすくむわたしに、ユニコーンが近寄ってきた。
鼻先を寄せられ、フンフンと匂いを嗅がれる。硬直していると、
《乙女よ》
頭に直接、不思議な声が響いた。
《異世界の乙女よ。我に何を望む?》
11
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる