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51.遺物
しおりを挟むラインハルトの披露した怪談……ではなく泉の由来に、最初はビクビクしていたけど、次第にわたしは緊張を解いた。
というのも、この泉、実に平和な場所だったからだ。
泉の周囲には美味しそうな果物の生る木が何本もあり、中には以前、エスターが採ってきてくれたチャルテの実もあった。
昼食後のデザートにチャルテを食べながら、わたしはのんびり泉を眺めていた。
あー、この森に入ってからというもの、ずっと緊張の連続だった。魔獣にビクつくことなく休めるって素晴らしい。……うん、まあ、ちょっと夜が来るのがコワいけど。
エスターは岸辺に座って剣を磨き、ラインハルトは地図を確認している。わたしも装備の点検をしよう、と側に置いておいた荷物に、座ったまま手を伸ばした。
その時、腰に差していた短剣が草に引っかかり、わたしはべしゃっと地面に倒れ込んでしまった。
結構な音がしたらしく、二人は顔を上げてわたしを見た。
が、すぐにわたしが赤面して起き上がったことから、コイツ何もないところで転んだんだな、と納得したらしく、見なかったフリをしてくれた。……恥ずかしい。
なぜこんなとこに引っ掛かったんだ、と倒れ込んだ場所の草を触ると、
「……ん?」
なんか、この場所にはそぐわない派手な色がちらりと見えた。目に鮮やかな蛍光イエロー。これは……。
「ええええっ!?」
わたしは思わず大声を上げた。
再び二人が顔を上げ、わたしを見る。
わたしは二人を見、そして手にした物体に視線を落とした。
鮮やかな蛍光イエロー色の、フェルトの球体。表面には、よく知られたメーカーの表記が……。
「ウソ」
それは、テニスボールだった。
元の世界でわたしも使ったことのあるメーカー品だから、間違いない。
「どうした、ユリ」
「ユリ様、どうかなさいましたか」
二人が訝しげにわたしに問いかける。
「こ、これ……」
動揺のあまり、テニスボールを持つ手が震えた。
わたしと同じ世界から来た人が、この泉を訪れていた。
どういうこと。
なんで異世界の人間が、惑いの泉と呼ばれるこの場所に、わざわざ来なきゃならなかったんだ。……いや、わたしも来てるけど。
しかも、なんでテニスボール……、いや、……そういやわたしもテニスラケット持ってる……、けど。
わたしは、ぶるっと体を震わせた。
な、なんか……、ちょっと、怖い。
まさか、テニス用品持ってると異世界召喚されやすいとか、そんなバカな話ない……よ、ね?
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