33 / 88
30.制御できない
しおりを挟む「ラインハルト様! 黙って頭下げてればいいって言ったじゃないですか! なのに晩餐会って……、側室って、どういうことですか!?」
「私に聞くな!」
謁見を終えたわたしは、半泣き状態でラインハルトに詰め寄った。
ラインハルト、エスター、わたしの三人はいったんラインハルトの私室に戻り、変更された今後の予定について話し合うことになったのだが、わたしは混乱の極みにいた。
ラインハルトも混乱している様子だったが、それに配慮する余裕などない。
「……兄上の申し出は、私にも予想外だった。おまえの存在は、兄上は既に把握済みだ。その上で何の動きもなかったということは、つまり見て見ぬふりをされていたということだ。なぜ今になってこのような……」
「リオン殿下の側室に、というお話ですが、これは何としても阻止せねばなりません」
険しい表情でエスターが言う。
「あの、リオン殿下って誰なんですか」
質問すると、二人が勢いよくわたしを見た。
いやだって、わたし異世界人ですから。皆さんの常識は通用しませんから。
「……そう言えばおまえは、我が国について無知であったな」
「ユリ様は異世界から召喚されたのです。ご存じなくて当然です」
エスターが庇うように言ってくれたが、ラインハルトは、ふう、と疲れたようにため息をついた。
「リオン殿下は……、私の甥だ。ここロージャ国の王太子であり、次期国王として陛下を補佐されている」
「……ひょっとして、王様の後ろにいた方ですか?」
「そうだ」
よく覚えていないけど、なんか金髪の人がいたような。
「なんでその方の側室に……っていうか、たぶんリオン殿下にはもう正妃様がいらっしゃるんですよね?」
「一昨年、隣国の王女アデリナ様を娶られている」
「そんなとこにわたしをねじ込まれても困るんですけど!」
わたしはほとんど悲鳴のように言った。
いやほんと無理。異世界で顔もよく知らない王子様の側室にされるとか、地獄だ。
「わかっている」
ラインハルトは仏頂面で言った。
「私とて、おまえを王家に迎えるのはごめんだ」
理由はともかく利害は一致した! 共に戦おう同志よ!
「いざとなれば、ハティスの森に入ってしまえばよいのです」
エスターが真顔で言った。
「ハティスの森に入れば、いかな陛下と言えど手出しはできません」
「その代わり城へは戻れんぞ」
ラインハルトは難しい顔で言ったが、
「かまいません。ユリ様を元の世界にお帰しできればよいのですから」
いや、わたしはいいけど、エスター達はマズいことになるのでは。陛下の命を無視してわたしを元の世界に帰らせました!なんてことになったら、なんらかの罰を受けるんじゃないか。
わたしは希望的観測を述べてみた。
「王様は、わたしの意見をきく、とおっしゃって下さったから、晩餐会で元の世界に帰りたいって話せば、きっと……」
「わかっていただければよいのだが」
ラインハルト、頭痛がするのか額を押さえている。
「ともかく、陛下直々にお誘いいただいたのだ。晩餐会には出席せねばならん」
「……わたし、マナーとかわかりませんよ」
「なにか言われたら、これが異世界のマナーだと言い返せ」
乱暴だけど、実際そうするしかないな、うん。
「……ユリ様、今すぐにでもハティスの森へ参られますか? お供いたしますが」
「おいエスター」
ラインハルトが咎めるように言ったが、エスターはわたしをじっと見つめた。
「あなたは、こちらの世界の都合で無理やり召喚されてしまいました。この上、あなたの意思を無視して婚姻を強要するなど、あってはならぬことです」
エスターがいつも通り、正論を口にした。
その通りなんだけど、わたしは何故かイラっとした。
「じゃ、じゃあ……、なんでエスターは、わたしに、その……、あんな事言ったんですか」
エスターは虚をつかれたようにわたしを見た。
「わたしはもうすぐ、元の世界に帰っちゃうのに。なんであんなこと」
「ユリ様」
「もう会えなくなるのに、あんな事言うなんて。わたしがどう思うかなんて、どうでも良かったんですか」
「ユリ様……」
エスターが悲しそうにわたしを見た。
ズキリと胸が痛んだけど、言葉を止められずにわたしは言った。
「エスターは勝手です!」
違う。エスターほど他人を気遣う人はいない。エスターが勝手なら、わたしを含め全人類が天上天下唯我独尊野郎だ。
でも、この時は心の中がぐちゃぐちゃで、自分で自分をコントロールできなかった。
ひどい事を言っているとわかっているのに、言葉を止められなかった。
わたし、どうしちゃったんだろう。
自分で自分がわからない。
なんでこんな八つ当たりみたいなこと、エスターに言っちゃうんだろう?
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる