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29.王様からのご招待
しおりを挟む「恐れながら陛下」
わたしの隣で膝をついていたエスターが、ずいと前に進み出た。
「こちらの魔法使い様は、ハティスの森の魔獣を討伐された後、元の世界に戻られる予定でございます」
「エスター」
王様がわずかに目を見開き、エスターに視線を向けた。
「……魔女を封印した後、体調を崩したと聞いたが。こたびは同行しても問題ないのか?」
「はっ」
エスターは頭を垂れ、淀みなく答えた。
「ご心配をおかけし、申し訳ございません。この通り復調し、ハティスの森へ同行を許されました」
「ふむ、そうか」
王様は顎に手をあて、何かを思案している様子だった。
「そなたの快癒は誠に喜ばしいことだ。そなたとラインハルトなくして、魔女の封印は果たせなかっただろうからな」
「過分な仰せにございます」
王様はエスターをじっと見つめ、それから再びわたしに視線を移した。
わたしは慌てて、王様の視線から逃げるように頭を下げた。
「……ラインハルト」
王様がラインハルトに声をかけた。
「そなた達は、神殿から神託を受けた後、すぐハティスの森に入るのだったか」
「その予定ですが」
ラインハルトが戸惑ったように言った。
「何か問題でもありますでしょうか?」
「いや。……ただ、そなたは異世界からの召喚という禁術をおこない、そこの娘を無理やりこの世界へと呼び寄せた」
「は……」
「その償いをすべきではないのか?」
王様の言葉に、わたしは驚いて顔を上げた。
えええ……、なぜ今、このタイミングでその発言?
ラインハルトが異世界召喚をおこなったことなんて、もう何週間も前の話だ。王様もそれは把握してたみたいなのに、なんで今になってそんな。
「償いとは……、どのような」
ラインハルトが戸惑ったような声で言った。すると、かすかに笑ったような気配の後、王様が答えた。
「ふむ、そうだな。……例えば、リオンの側室としてこの娘を王家に迎えるというのはどうだ?」
王様の笑えない冗談再び! ていうかリオンって誰。
想定外の展開にわたしが凍りついていると、
「陛下」
わたしの隣で膝をついていたエスターが、低く言った。
「ご無礼をお許しください。……先ほど申し上げました通り、魔法使い様は元の世界に戻ることを切望されております。どうぞそれをお汲み取りいただきたく」
「エスター、控えよ」
即座に王様の後ろから咎めるような声が飛んだが、エスターはひるまず言いつのった。
「償うと言うなら、魔法使い様の望むものを差し出すべきです。陛下、どうぞご再考を」
「まだ言うか!」
苛立たしげな声が飛び、空気がピリついた。
わたしは身を縮こまらせ、ぎゅっと目をつぶった。
あああ、どうなってるんだ。何がどうなって側室とか……、いや冗談、冗談に決まってるけど、でも冗談でも怖い。国のトップに立つ王様の言葉だもん。どう転がるのか予想がつかない。
わたしはちらっと、隣でひざまずいているエスターを見た。わたしが固まってる間、エスターだけがわたしを守ろうとしてくれた。
エスターありがとう、さっきは心の中で文句言ってごめんなさい! 殿下もなんか言って! エスターを援護射撃してくれ!
「ふむ……」
王様が考え込むように顎を撫でた。
「そうだな。たしかに、魔法使い殿の意見も聞かねばならんな」
ふふ、と笑いながら王様が言った。
「ラインハルト、神殿へ行くのは延期せよ。今宵の王家主催の晩餐会へ、魔法使い殿を伴って出席するのだ。そこで魔法使い殿の望みを聞こうではないか」
「っ!」
王様の言葉に、ラインハルトが息をつめたのがわかった。
「陛下!」
エスターが声を上げたが、王様はそれをさえぎるように言った。
「エスターは病み上がりゆえ、出席せず体を厭うように」
王様は呆然とするわたしを見て、ニヤリとした。
「大儀であった。下がって良い」
いや、あの、待って。どういうことですか。
なぜに晩餐会!?
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