32 / 88
29.王様からのご招待
しおりを挟む「恐れながら陛下」
わたしの隣で膝をついていたエスターが、ずいと前に進み出た。
「こちらの魔法使い様は、ハティスの森の魔獣を討伐された後、元の世界に戻られる予定でございます」
「エスター」
王様がわずかに目を見開き、エスターに視線を向けた。
「……魔女を封印した後、体調を崩したと聞いたが。こたびは同行しても問題ないのか?」
「はっ」
エスターは頭を垂れ、淀みなく答えた。
「ご心配をおかけし、申し訳ございません。この通り復調し、ハティスの森へ同行を許されました」
「ふむ、そうか」
王様は顎に手をあて、何かを思案している様子だった。
「そなたの快癒は誠に喜ばしいことだ。そなたとラインハルトなくして、魔女の封印は果たせなかっただろうからな」
「過分な仰せにございます」
王様はエスターをじっと見つめ、それから再びわたしに視線を移した。
わたしは慌てて、王様の視線から逃げるように頭を下げた。
「……ラインハルト」
王様がラインハルトに声をかけた。
「そなた達は、神殿から神託を受けた後、すぐハティスの森に入るのだったか」
「その予定ですが」
ラインハルトが戸惑ったように言った。
「何か問題でもありますでしょうか?」
「いや。……ただ、そなたは異世界からの召喚という禁術をおこない、そこの娘を無理やりこの世界へと呼び寄せた」
「は……」
「その償いをすべきではないのか?」
王様の言葉に、わたしは驚いて顔を上げた。
えええ……、なぜ今、このタイミングでその発言?
ラインハルトが異世界召喚をおこなったことなんて、もう何週間も前の話だ。王様もそれは把握してたみたいなのに、なんで今になってそんな。
「償いとは……、どのような」
ラインハルトが戸惑ったような声で言った。すると、かすかに笑ったような気配の後、王様が答えた。
「ふむ、そうだな。……例えば、リオンの側室としてこの娘を王家に迎えるというのはどうだ?」
王様の笑えない冗談再び! ていうかリオンって誰。
想定外の展開にわたしが凍りついていると、
「陛下」
わたしの隣で膝をついていたエスターが、低く言った。
「ご無礼をお許しください。……先ほど申し上げました通り、魔法使い様は元の世界に戻ることを切望されております。どうぞそれをお汲み取りいただきたく」
「エスター、控えよ」
即座に王様の後ろから咎めるような声が飛んだが、エスターはひるまず言いつのった。
「償うと言うなら、魔法使い様の望むものを差し出すべきです。陛下、どうぞご再考を」
「まだ言うか!」
苛立たしげな声が飛び、空気がピリついた。
わたしは身を縮こまらせ、ぎゅっと目をつぶった。
あああ、どうなってるんだ。何がどうなって側室とか……、いや冗談、冗談に決まってるけど、でも冗談でも怖い。国のトップに立つ王様の言葉だもん。どう転がるのか予想がつかない。
わたしはちらっと、隣でひざまずいているエスターを見た。わたしが固まってる間、エスターだけがわたしを守ろうとしてくれた。
エスターありがとう、さっきは心の中で文句言ってごめんなさい! 殿下もなんか言って! エスターを援護射撃してくれ!
「ふむ……」
王様が考え込むように顎を撫でた。
「そうだな。たしかに、魔法使い殿の意見も聞かねばならんな」
ふふ、と笑いながら王様が言った。
「ラインハルト、神殿へ行くのは延期せよ。今宵の王家主催の晩餐会へ、魔法使い殿を伴って出席するのだ。そこで魔法使い殿の望みを聞こうではないか」
「っ!」
王様の言葉に、ラインハルトが息をつめたのがわかった。
「陛下!」
エスターが声を上げたが、王様はそれをさえぎるように言った。
「エスターは病み上がりゆえ、出席せず体を厭うように」
王様は呆然とするわたしを見て、ニヤリとした。
「大儀であった。下がって良い」
いや、あの、待って。どういうことですか。
なぜに晩餐会!?
0
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる