(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!

倉本縞

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28.謁見

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「時間がない、その話は後だ」
 ラインハルトの言葉に、わたしはハッと我に返った。

「あ、う、……エエスター」
 さりげなく握られた手を引き抜こうとしたけど、かえって力を込めて握り返された。いやあの、謁見! これから謁見が!

 うろたえるわたしを見て、エスターは立ち上がり、手を放してくれた。
「驚かせてしまい申し訳ありません、ユリ様。……後でお時間をいただけますか?」
「え、あ……、はい……」
 呆然としたまま、わたしは頷いた。
 後で説明してくれるつもりなんだろうか。
それとも、ごめんね実は冗談でしたー! とか……、いや、それはなさそうだな。エスターだし。

 しかし、ウソでも冗談でもないなら、本当にエスターはわたしを……。
 いや、ウソ! なんでわたし!?
 ……うーん。自分のせいで異世界から召喚させてしまった、っていう罪悪感がこじれちゃったとか? ありそう。エスターって責任感強そうだし。

 ちらりと隣に立つエスターを見上げると、すぐに気づいて見つめ返された。
「ユリ様?」
 翡翠のように綺麗な瞳にドキドキしてしまい、わたしは顔を背けた。

 こんな素敵な騎士様に、たとえ勘違いでも告白されることなんて、これから一生ないだろう。ていうか、リアル騎士様と関わり合いになる事自体、ないだろうし。
 でも、だからって、好きになってくれてありがとー! なんて喜べ……るわけない! 無理!

 だって、わたしはそもそもこの世界の人間じゃない。ハティスの森にある円にたどり着いたら、元の世界に帰るのに。エスターとは、二度と会えなくなるのに。
 そんな状態で告白されたって、嬉しいなんて思えない。

 なんでエスターは告白なんてしたんだろう。
 髪紐について指摘されたから? ていうか、どうしてそんな誤解されそうなアクセサリーを、わたしに贈ろうなんて考えたんだろう。もう、エスターの気持ちがぜんぜんわからない。

 謁見の間の前に立っていた兵士が扉を開け、私たちを中へ通した。

 なんか、あれだけ不安に思っていた国王陛下との謁見なのに、エスターの告白のせいで、全く集中できない。
 謁見の間に入ると、玉座に座る王様やその周囲に立つ人達が、一斉にこちらに視線を向けた。

 ラインハルトが足を止め、膝を折って恭しく頭を垂れた。
 後ろの私たちも、それにならってひざまずく。そのまま頭を下げてればいい、って言ってたし、後は殿下が何とかしてくれるだろう。
 自分でも清々しいくらいの丸投げだとは思うけど、王様との謁見なんて、わたしのキャパを越えている。対応しろと言われても無理です、無理。

「ラインハルトか。こたびはハティスの森へ向かうと聞いたが」
 王様から声をかけられ、ラインハルトが顔を上げた。
「はい。魔女が眠りについてから魔獣の数も減少しております。今の内に森の魔獣を狩り、魔女の城への行程を確保しようかと」
「ふむ」
 王様は考え込むような気配で、少し黙った。

「同行者は、騎士エスターと……、異世界の魔法使いか」
 ドキリとした。
 わたしのこと、だよね。わたしを召喚した魔法は禁術だって言ってたけど、やっぱり国の上層部には知られてるのか。いやまあ、王宮内の人とも顔見知りになってるし、ぜんぜん存在を隠されてる感じはしないけど。

「まだ年若いようだな」
 ラインハルトとまったく同じ感想だ。さすが兄弟。ていうかわたしが幼く見えるだけかも。こっちの世界の人達は、元の世界の北欧系に近い姿形をしている。骨太で肩幅が広く、体の厚みも半端ないから、東洋系の細く薄い体つきのわたしは、それだけで若く……というより子どもっぽく見えるんだろう。

「異世界の魔法使いとやら」
 王様の声に、わたしは頭を下げたまま、びくっと体を震わせた。
 こ、声かけられた。王様に。
 え……え、どどうすれば。

「頭を上げよ」
 なにー !? いや、ウソ、待って! ラインハルト、頭下げてるだけでいいって言ったくせに! これどうすれば!

 心の中で盛大にうろたえた後、わたしは恐る恐る顔を上げた。王様の言葉を無視するような度胸なんて、わたしにはない。

 王様は、ラインハルトと顔がそっくりだった。ラインハルトが成長したら、こんな風になるんだろうな。ただ、王様は金髪に緑の瞳だけど。
 貫禄はあるけどまだ十分若々しいというか、気力体力みなぎってる感じだ。見た目四十代半ばって感じだけど、もしかしたらもっと若いのかもしれない。大変麗しいお顔立ちなのだが、それよりも威圧オーラのほうが強い。美しいというより怖い。

「ほう」
 王様が面白がるような笑みを浮かべ、わたしを見た。え、え、なになになんですか。わたしの顔、なんかおかしいですか?

「異世界からわざわざ召喚した偉大なる魔法使いと聞いたが、ずいぶんとまあ、可愛らしい娘ではないか。……リオン、そなたの側室にどうだ?」
 王様が笑いながら、後ろに立つ青年に声をかけた。

 ちょっ、ちょっと待て、笑いながら何言ってるんですか。
 王様ジョーク、心臓に悪い!

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