(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!

倉本縞

文字の大きさ
上 下
17 / 88

16.魔獣の悲鳴

しおりを挟む

 ぴょんぴょんと飛び跳ね、近づいてくる黒い兎の集団。いや、兎ではなく魔獣ツノウサギ。額に一本、大きな角がある以外は普通の兎と同じ見た目だ。
 可愛い……、モフモフしたい……、けどこれ、魔獣なんだよね。
 たしかにあの大きな角で思いっきり突かれたら、けっこう酷い怪我をしそうだ。

 わたしはテニスラケットを握り、ふうっと息を吐いた。盾、と考えるとイメージが湧きづらいので、もうちょっと大きめに壁をイメージして集中する。

『風の盾』
 軽くラケットを振ると、フッと目の前の空気が揺れる。
 ラケットから風が噴き出した。『龍』の時のように、風が生き物のように縦横無尽に動き回ったりはしない。循環する空気の層がわたしの前にあり、異物を跳ね飛ばしている感じ。

 すると、こちらに突進してきたツノウサギが、見えない壁にぶつかったようにころんと転がった。

 可愛い。可愛いけど、モフモフする訳にはいかない。あれは魔獣。
 ツノウサギは、どうにか盾を突破しようと、何度も突進してきては、ころころと転がっている。めちゃくちゃ可愛い。盾を壊そうとしているのか、ていっていっと後ろ足で蹴りを入れるツノウサギもいる……、可愛い……。

「よし、そのまま盾を維持しろ」
 いつの間に来たのか、ラインハルトとルーファスが側に立っていた。
「ユリ様、『盾』の魔法を習得されたようですな。おめでとうございます」
 ルーファスの言葉に、ほっと力が抜けた。

「ありがとうございます」
 その時だった。
 ラインハルトがローブから杖を取り出し、無造作にツノウサギに構えて言った。

『風の刃』

 ひゅん、と風がツノウサギの体を切り裂いた。
 ラインハルトの魔法は、かまいたちのように次々とツノウサギを切りつけ、殺していく。
 キューッとツノウサギが悲鳴を上げた。足元に飛んできた血しぶきを、わたしは呆然と眺めた。

 ……え、なにこれ。え、えっ? ちょっと……、え、待って。

「よし、全部始末できたな。ユリ、瘴気を祓えるか?」
 満足げなラインハルトの言葉に、わたしはハッと我に返った。
 気づくとツノウサギの死骸も血も消え、周囲にはモヤモヤとした黒い空気がただよっているだけだ。

「…………」
 わたしは無言で、ぱたぱたとラケットでその黒い靄を叩いた。
 すると、チリリッと小さな火花とともに、その黒い空気は消えてしまった。

「おお! エスター殿の言った通りですな! ユリ様は瘴気を消滅させることがお出来になるようです!」
「ふむ、にわかには信じられんが、実際に魔獣の気配も消えているようだな……」
 二人は興奮を隠せないように、弾んだ声で話しあっている。

 わたしは何とも言えない気持ちになり、うつむいた。

 いや……、うん、あれは魔獣だし。殺さないと、ハティスの森に行けないし、元の世界に帰れないし。
 外見モフモフの可愛い兎さんであったとしても、あれは魔獣。魔獣。魔獣……。

「……ユリ様? どうかなさいましたか?」
 不思議そうにこちらを見るルーファスとラインハルトに、わたしは慌てて「なんでもありません」と答えた。

 自分からハティスの森に行きたいって言って、訓練を受けることにしたんじゃないか。魔獣を殺すたびにいちいち落ち込んでたら、先に進めない。考えたり泣いたりするのは後だ、後。

 わたしは、最後に聞いたツノウサギの悲鳴を忘れるように頭を振った。
 キューッて鳴いてた……。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

処理中です...