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11.異世界召喚の実情
しおりを挟むわたしの疑問に気づいたのか、エスターが苦笑して言った。
「……異世界召喚は禁術ですが、過去、何度か行われております。文献にも残っておりますし、個人的にそうした記録に触れる機会もございましたので……」
へー。わたしの他にも、こっちの世界に召喚された人がいたのかあ。どんな人だったんだろう。
「わたしは、エスターの呪いを解くために召喚されたんですよね? 他の人も、何かこちらの世界の人ではできない、呪いの解除とかそういうことのために召喚されたんですか?」
わたしの質問に、エスターは困ったような表情になった。
「召喚の理由は様々ですが……、ユリ様がお望みなら、文献を取り寄せます。私もいくつか所有していますが、ご覧になりますか?」
「いいんですか? あ、でもわたし、こっちの世界の文字読めるかな?」
「たぶん問題ないかと。召喚された方々は、各国すべての言語を理解し、古代文字さえ解読できたと記録にありますから」
へー! それはすごくありがたい! ていうか楽しみ! 世界中の本をすべて原語で読めるってことだよね!
「あの、王城には図書室みたいなものはありますか? そこで本を読んだりできるでしょうか?」
わたしの質問に、エスターは頷いて言った。
「ええ。これから向かう地下に蔵書室がありますが、王城勤務の者なら誰でも利用が可能です。ユリ様がご覧になっても問題ないかと」
やった! とわたしは飛び上がった。
「じゃあ、ぜひ! 訓練の後、その蔵書室に案内してもらえますか?」
「ええ、もちろん」
エスターはやわらかく微笑んでわたしを見た。
「ユリ様は、勉強熱心なお方なのですね」
「あ、いえ、そういう訳ではありません!」
エスターには、ただでさえ過大評価されているっぽいので、ここはきちんと言っておかねば、とわたしはエスターに向き直った。
「勉強したいとかそういうことじゃなくて、たんに異世界召喚について知りたいというだけです。それにわたし、元の世界では英文科……、あの、異国の文学や文化を学んでいたので、せっかくだからこっちの世界の本も読めたらなあって、それだけで」
「そうなのですか、異国の文化を」
エスターはわたしを見て、少しためらってから言った。
「……わたしの祖父は商人だったのですが、商売柄、外国を訪れることも多く、異国の文化に深く魅せられたようでした。書物もそうですが、祖父が持ち帰った遺物などもいくつか家に残っております。よろしければご覧になりますか」
「へー! 遺物がお家にあるなんてすごいですね!」
わたしは驚いてエスターを見た。
こっちの世界では、文化財を保護する条約とかはないのか。外国から持ち帰った遺物が家にあるってすごい。
エスターは、次のお休みの日にそれらを見せると約束してくれた。
「ありがとうございます、楽しみです!」
元の世界に戻るため、もちろん頑張るつもりだけど、それはそれだ。こっちにいる間は、こっちの世界も楽しみたい。異世界の遺物とか、すごく気になる。
浮かれるわたしに、エスターが優しく微笑んだ。
エスターって、ほんと優しく面倒見のいいイケメンって感じ。
わたしは何となく、元の世界で新入生に大人気だったサークルの先輩を思い出した。イケメンで、履修登録の相談に親身になってアドバイスしてくれた、優しい先輩。エスターが元の世界にいたら、あの先輩と同じように男女問わず大人気だったろう。
でもこっちの世界では、冷たい騎士様扱いされてるんだよね……。どこら辺が近寄りがたいと思われてるんだろう。謎だ。
王城の中庭を抜け、奥にある礼拝室のさらに奥に小さな部屋があり、そこに地下へと通じるらせん階段があった。壁にはランプみたいな灯りが所々に取り付けられてたけど、ちょっと薄暗い。
「ユリ様、足元にお気をつけ下さい」
先を歩くエスターに手を取られ、階段を下りてゆく。
しばらくすると広々とした地下空間が見えた。
初めてこちらに召喚された時の広間と、ちょっと似ている。
ただ、床は大理石みたいなつるつるの白い石で覆われていて、靴音がやけに響く。
そして床の中央には大きな円が描かれ、淡い金色の光を放っていた。円の中には不思議な文様が描かれ、生物のように動いている。
「来たか」
円の中央で腕組みし、ラインハルトがわたしとエスターを待っていた。
可愛いんだけど、その態度。王弟殿下というより、ダンジョンのラスボスっぽい雰囲気がただよっている。
子どもながら、貫禄十分です、ラインハルト様。
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