(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!

倉本縞

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9.あなたと一緒に

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「すべてはあの悪しき魔女のせいだ!」
 ラインハルトが腹立たしげに吐き捨てた。
 そ、そうですね、あらゆる意味でひどい魔女ですね……。

「あの、あー……、その、アレでしたね、大変でしたね……」
 わたしはしどろもどろに言った。
 魔女に性的な呪いをかけられた騎士様に、なんと言葉をかければ正解なのか。そんな難題に見舞われる瞬間がやってくるとは、思いもしなかった。人生一寸先は闇。

「……これまで呪いの詳細を伏せていて、申し訳ありませんでした」
 エスターが暗い表情で言った。
「いやその、そういう呪いでしたら、口にしたくもないという気持ちもわかりますし、あの、お気になさらず、ねっ!」
 わたしだって、もし自分がそんな呪いをかけられたら、第三者に呪いの詳細を説明したくなんかない。

「……ともかく、このような呪いをかけられたまま、ユリ様と一緒にハティスの森に向かうことはできません」
 エスターがうつむいて言った。
 なんか、可哀想なくらいしょんぼりしている。どうしよう、とわたしがオロオロしていると、

「――わかった」
 ラインハルトがため息をついて言った。
「ならば、私も一緒に行こう」

 エスターが驚いたように顔を上げた。
「ラインハルト様、しかし」
「どのみち、魔女が眠りについている間に、魔獣退治もせねばと思っていたのだ。魔女の城までの行程も、確保せねばならんしな」
 相変わらず偉そうにふんぞり返っているが、これはひょっとして、エスターのためにラインハルトがひと肌脱いだってことなんだろうか。偉い。可愛い。

「ラインハルト様……、がんばって下さい!」
 わたしが思わず応援すると、
「他人事のように言うな。おまえも同行するのだ」
「えっ……」
 あ、やっぱりそうくるかー。

「そもそも私が同行するのは、おまえの安全のためだ。エスターが気にしているから、しかたない。もし呪いが発動し、おまえがそれを祓えなければ、私がエスターに拘束術をかける。そして無事、円にたどり着いたら、おまえを元の世界に戻す。それでいいだろう」
 ふんっと横を向くラインハルト。可愛くないけど可愛い。

「ユリ様……」
 困ったような表情でわたしを見上げる騎士様に、わたしは言った。
「あの……、ラインハルト様も来てくださるということですし、やっぱりわたしも一緒に……」
「ユリ様」

 エスターはわたしの言葉をさえぎるように言った。
「ハティスの森には、魔獣があふれています。危険は昨日の比ではありません」
「でも、どっちにしてもハティスの森に行かなきゃ、元の世界に戻れないんですよね?」
「いえ、このまま王城にとどまっていただいても、元の世界に戻ることは出来ます」
 エスターは真っ直ぐわたしの目を見て言った。

「おい、エスター!」
 ラインハルトがとがめるように言ったが、エスターはためらうことなく続けた。
「ハティスの森の円を起動させたら、ユリ様を転移陣で円に呼び、そして元の世界にお帰しすればよいのです。ユリ様が、わざわざ同行される必要はありません」
 余計なこと言うな、とラインハルトが後ろで怒っている。

「エスター……」
 わたしは密かに感動していた。

 こ、この人……、心が美しすぎる。
 わざわざ自分の不利になるようなことまで、洗いざらいすべて話してくれた。わたしの安全を一番に考えて、ぜんぶ正直に。
 すごい……、騎士の鑑じゃない? この人。
 見た目も心もイケメン。なんかまぶしすぎる。

「あの、わたし、一緒に行きます」
 わたしは思わずそう口にしていた。

 エスターもラインハルトもがんばってくれるんだし、とりあえずわたしも出来ることはやってみよう、うん。やっぱ出来ない、となったら……、まあその時考えよう。

「なるべく足手まといにならないよう、がんばりますから。だからあの、よろしくお願いします!」
 エスターに向かって勢いよく頭を下げると、

「……本当によろしいのですか?」
 エスターが戸惑ったように言った。
「ユリ様を元の世界にお戻しするのは、当然のことです。無理にこちらの世界に召喚したのは、私達なのですから。そのためにユリ様を、危険な目に遭わせるべきではありません」
 それはそうなんですけど。

「何もしないでただ待ってるだけっていうのも、気が引けるというか、性に合わないので。あの、魔法の訓練をして、それで大丈夫そうなら一緒に行くということでどうでしょうか?」
 わたしを見上げるエスターと目があった。
 本当に、宝石みたいに綺麗な緑色の瞳をしている。
「……わかりました」
 エスターがひざまずいたまま、わたしの手を取った。

「ユリ様をお守りし、ハティスの森にある円へ、無事にお連れすると誓います。……必ずユリ様を、元の世界にお帰しいたします」
 流れるように優雅に、エスターはわたしの手の甲に口づけた。

「えっ」
 手、手に。わたしの手に……。
 なにこの騎士様。イケメンが過ぎる!

 わたしが真っ赤になってうろたえていると、
「よし、決まったな。ユリ、魔法については私が直々に鍛えてやろう。音を上げるなよ」
 ラインハルトが不遜に言い放った。

 ……ラインハルトの特訓は不安だし、魔の森に行くのも、怖いけど。
 でも、なんかなんか……、わたしを見つめるエスターの、翡翠みたいにきれいな瞳を見てると、そういうのがぜんぶ吹っ飛んでしまうような気がする。
 騎士様、呪われてるけどカッコいい!

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