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第2章 王への道
十二話 【三猿騎】
しおりを挟む俺と盗賊たちとの一方的な戦いの最中で現れた謎の三人組。それぞれ目、耳、口を手で隠した見た目のマスクを被った彼女たちは、得体の知れない凄みを放っていた。
彼女たちのマスクに隠された視線の先にいるのは単眼の巨人、俺が斬り殺そうとした盗賊のリーダーである虎の獣人の魔剣より出現した魔物だ。
ガァァアアアアァアァァ!!!
キュクロプス・キングと呼ばれたその魔物は【再生】と思われるスキルで三人組のうちのいずれかのもである攻撃で受けたダーメジを癒し、怒りの咆哮を上げていた。
肌をビリビリと震わせるその咆哮に、しかし目の前にいる三人組の背中に怯えはかけらも感じられず、むしろ堂々としている。
それどころか、三人の身体から静かに発せられるオーラはまるで鋭利な刃のような、そんな洗礼され、研ぎ澄まされたものだった。
一流の暗殺者もかくやという無機質……いや、冷徹な殺気を放つ彼女たちは怒りの声を上げるキュクロプス・キングにスタスタと歩み寄っていく。
ヴゥン……
するとそれに伴うように背中の機械から駆動音が鳴り始めた。表面に走ったラインが発光したかと思うと先ほどドロドロの液体状になったジェットが穴の蓋がスライドし、再び流体金属が流れ出てくる。
それに合わせるように、彼女たちもまとうプロテクターにも変化が訪れた。まるでSF映画のようなその光景に、俺はいつの間にか見入ってしまう。
まず最初に、真ん中にいる見猿の戦士が右腕を掲げる。電子音を立てながら手の甲のプロテクターが展開、円形のアタッチメントが現れた。
そこにある程度固形化し、長い銀色のチューブの形になった流体金属の先端が結合、ガチンッとロック音が鳴る。するとプロテクターに走った線が淡く光った。
見猿の開かれた手から突如真っ赤に赤熱したドロドロとした物体が伸びていき、細長い棒状になったかと思うとキュィィイ!と音を立てて急激に冷却、片側に刃が形成され禍々しい緑色の槍となった。
次に、白い軽装プロテクターの言わ猿の戦士の両腕の前腕部分が蒸気を吹き出しながら展開、見猿と同じようにアタッチメントと間に何かを挟み込むような形状の固定具が現れる。
見猿同様にチューブ型になった流体金属がアタッチメントに接続、焼き直しのようにドロドロと粘着質な物体が固定具の間から溢れ出して形を成していった。
それは先の丸いギザギザとした刃……純白のチェーンソーを形作り、ガチンッ!と両側から固定される。そして甲高い音を立てて回転し産声をあげた。
その二人に追随するように、重装甲の聞か猿の戦士の装備がひときわ派手な変形をし始める。なんと背中に背負った機械そのものが分割され、アームのついた六つの機械になったのだ。
その部分とは分離している穴から伸びた6本のチューブは機械にそれぞれ一本ずつ接続し、そうするともはや見慣れたドロドロとした物体が機械の先端から伸長、細長い銃身を作り上げる。見えるだけでも砲身は六門、まさかあれは、マシンガン?
この世界にあるはずのない武器に俺が目を見開いていると、それぞれの装備を装着した三人組はキュクロプス・キングめがけ走り始める。
ゴアァアアアアァアァァァアアァ!
自分に走り寄ってくる三人組に、キュクロプス・キングはひときわ大きな咆哮をした。それに答えるように三人組は跳躍し、そうして三人組とキュクロプス・キングの戦いが始まる。
次の瞬間、ヒュッ!風を切るような音がしたと思えばチェーンソーを胸の前でクロスして構えていた言わ猿の姿が視界から消えた。
いや、正確には神化した俺の目ですら追えないほど高速で移動したと言うべきか。あまりの速度に思わず息を飲む。
ヴィィィィィィィイイイイイ!
次に俺が言わ猿を見た時、彼女?はけたたましいチェーンソーの音とともにキュクロプス・キングの胸に飛びかかっていた。いつの間にあんな高さまで!
驚異の跳躍力でキュクロプス・キングに接近した言わ猿は両腕に携えたチェーンソーを見失うほどの速度でふるった。するとチェーンソーがキュクロプス・キングの胸板をえぐり、鮮血と肉片が宙を舞う。
それだけにとどまらず、キュクロプス・キングが声を上げる暇もなく言わ猿は足のプロテクターから放射した魔力を足場にして回転、横薙ぎにチェーンソーを叩きつける。
既にバツの字に大きな傷の付いていた胸板が横一文字に切り裂かれ、大量の血が噴水のように吹き出した。それがかかる前に言わ猿の姿が消える。
その代わりにとでも言うように、今度は見猿が地を蹴って跳躍した。たった一飛びで見猿はキュクロプス・キングの頭部まで到達する。
そして腕をひきしぼり、神速で巨大な眼球に刺突を繰り出す。それだけにとどまらず、一瞬の間に十字に切り裂く。
再び視界を潰されたキュクロプス・キングは怒りの咆哮を上げながら巨腕を振り上げ、見猿を叩き潰そうと自分の顔に手のひらをたたきつけようとする。
だが、それは失敗に終わった。何故なら持ち上げた瞬間、巨腕は肘から先が無数の赤い線が入って弾け飛んでしまったのだから。
苦悶の叫び声をあげるキュクロプス・キングの肩に、言わ猿の姿が現れる。遠目から見るそのチェーンソーには、ドス黒い血がべっとりと付着していた。
その隙に見猿は槍を目玉から引き抜いて後退、足のプロテクターから魔力を噴射してサマーソルトキックをキュクロプス・キングの鼻にお見舞いする。
ブチリと嫌な音を立てて千切れ飛ぶキュクロプス・キングの鼻。容赦のない攻撃を繰り出した見猿は魔力噴射をやめて落下、再生しかけていた胸の傷に槍を突き刺すことで停止した。
見猿は両腕で槍の長い柄を掴んでぐるぐると体を回転、なくなった鼻を抑えようと俯いていたキュクロプス・キングの頭に弾丸のように飛んで思い切りぶん殴った。
九十度横に曲がったキュクロプス・キングに、待ってましたと言わんばかりに顔の向いた方の肩に乗っていた言わ猿のチェーンソーの突きが鼻のあった場所に炸裂。ガリガリと骨を削る音が森に響く。
絶叫をあげるキュクロプス・キング。混乱状態に陥り、片手で顔を押さえ、我武者羅に再生しかけの腕を振り回す。二人は華麗にそれを回避していた。
魔力噴射と体術で回避しながら、瞬間移動にも思える高速移動でのチェーンソーの連続攻撃と手に戻した槍での、残像が残るほどの刺突を一身に受けるキュクロプス・キングの上半身はすでにぼろぼろだった。
そこに、さらに追い討ちをかけるように俺の目の前で地上を両足で踏みしめ、腰を落として構えていた聞か猿のマシンガンが火を噴いた。
パバパバパパパッ!と音を立てながら、一本で六つの砲身、合計三十六にも登る数の銃口から一斉に弾丸が射出される。もはや目では追えきれないほどの数百発の弾丸はキュクロプス・キングの丸太のように太い両足を蜂の巣にした。
アァアアアァアアァァァアアァ!
突然、それまでやられっぱなしだったキュクロプス・キングがひときわ大きな殺意のこもった雄叫びをあげた。それにより生じた衝撃波から逃れる見猿と言わ猿。
咆哮を上げたキュクロプス・キングの体から、どす黒い赤色のオーラが膨れ上がる。それが体の表面を覆っていくとそれまで以上の速度で傷が再生し始めた。
それどころか、そのオーラは肌にしみ込んでいき、キュクロプス・キングを赤く染める。筋肉が膨張し、ひとまわり大きくなったように見えた。
そしてパワーアップを果たしたキュクロプス・キングは自分より矮小なものにいいようにやられていたことに対する怒りの咆哮をーー。
ドゴォンッ!
ーーあげる前に、代わりに大きく開けたその口の中にぶち込まれた巨大な砲弾が爆発して轟音を立てた。まるで最初の焼き直しのようだ。
まったく容赦のない攻撃に、ただでさえ圧倒されていた俺は唖然とする。そしてその顔のまま、砲撃の主を見た。
キュクロプス・キングに爆弾をぶっ放したのは……それまでマシンガンで下半身をズタズタにしていた聞か猿である。彼女の武器は先ほどとは違うものへと変わっていた。
それまで六つだった機械が二つに統合されており、砲身が太い大砲に変わっていたのだ。銃口からは硝煙が立ち上っている。
そうして出鼻をくじかれたキュクロプス・キングを、退避していた見猿と言わ猿は完璧な連携でまた蹂躙し始めた。再生が追いつかなくなるのも時間の問題だろう。
「ふむ……まさかあやつらが来るとはの」
目の前で繰り広げられている光景に呆然としていると、隣に立ったエクセイザーがそう呟いた。
「あいつらを知ってるのか、エクセイザー?」
「? 何を言っておる。お主も知っておるぞ?」
「えっ?」
何をバカなことを、といった顔をしているエクセイザーに、俺はばっと戦場へと視線を戻して三猿を見る。
シュトトトト!
一人は槍を用いて身体中に穴を開け、
ヴィィィィィィィイイイイイ!
一人は無慈悲に両腕のチェーンソーでありとあらゆるところをミンチに変え、
パパパパパパッ!
一人はもはや光っているようにしか見えない速度で何千発もの弾丸をぶちまけている。
「……うん、俺あんな奴ら知らないんだけど」
《少なくとも、各区画の統括者以外にあのような強さを持つ使い手はいなかったですね》
シリルラの言う通りだ。むしろどうやったら俺とあんな化け物じみた強さの三人組がお知り合いになるのだろうか?
「…まあ、仕方があるまい。十年も経てばわからなくもなるか」
「十年も経てば……? ってことは、十年前知り合いだった誰かってことか?」
《……ああ、なるほどですね》
「まあ、そう言うことじゃ。シリルラはわかったようじゃな。龍人よ、頑張って思い出してみるがよい」
これ以上は言わないぞ、と言外に言うエクセイザーとネタバレはしませんと言うシリルラ。仕方がないので自分で考える。
うーん、と首をひねるが、さっぱりわからん。これほどの強者……それもあんな奇抜な格好なら絶対に忘れなさそうなものだが。
いや、待て。エクセイザーは十年も経てばわからなくなる、と言ってた。ということは、十年前は子供だった、とか?とすると、俺に近しい子供だったということに……。
そこまで考えたところで、かなーり嫌な予想が浮かび上がってきた。もしそれが当たっていた場合、俺は失神するかもしれない。
「……いや、それはないな。うん、それはない」
まるで自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く。そうだ、この予想はあくまで俺の頭が導き出した仮定にすぎない。あってるなんて保証はどこにもない。
でもどうしてだろう、となりのエクセイザーがとっても悪い笑みを浮かべてらっしゃるような気がしてならない。
ダラダラと冷や汗を背中にかきながら必死にエクセイザーの方を見ないようにし、その思考をかき消す。もうこれ以上はやめよう、俺の心がもたない。
というか、それはそれとして……だ。一つ、俺は今非常に言いたいことがある。
「なんじゃ?」
《なんですかね?》
あれ……めちゃくちゃカッコよくね?
《……え、ああ。まあ、そうですね、はい》
おい、なんだその微妙な反応。いや、仕方のないことか。これはSFに憧れる男、あるいはオタクの女性にしかわからないものだろう。
陰陽師である以前に、俺とて一人の男。創作物の中の未知なる存在には当然のように憧れてしまう。例えばラ◯トセイバーとか某宇宙金属生命体とか。
そんな中で、あの三猿のような戦士が使っている武器は俺の心に衝撃を与えた。あの機会はなんなのか、流体の金属はどうやって武器に固形化しているかなど興味は尽きない。
俺の両目は今、きっととても輝いていることだろう。シリルラには脳内でため息をつかれ、エクセイザーにはしょうがないなと苦笑されるが、ここは譲れない。
もしあの三人組が敵じゃないのなら、是非ともあれの秘密を知りたい。そして願わくば自分の手で再現してみたい。
神になった今ならば、きっと死ぬほど頑張れば錬金術でどうにかなるだろう。というかだろうじゃなくて絶対に作る。男のロマンとはそういうものだ。
そんなふうに内心はしゃぎながらも、キュクロプス・キングと三猿の戦闘に目線を戻す。するともう終わるところだった。
言わ猿が両腕を振るってキュクロプス・キングの首を切り落とし、見猿が魔力を纏った槍で胸に大きく風穴をあける。明らかに致命傷だ。
再生が追いつかないほどのダメージを受けたのか、首のないキュクロプス・キングの胴体は、よろよろとよろめいたあと大きな音を立てて地面に倒れた。
キュクロプス・キングを仕留めた見猿と言わ猿は跳躍し、聞か猿のところに着地する。そして背を向けて見猿が一言、静かな声で言い放った。
「任務ーー完了」
戦いの終わりを宣言した見猿。それに呼応するように手の中の槍が溶解し、背中の機会に戻っていく。後の二人も同様に装備が解除された。
「くそっ、なんで【三猿騎】がここに……」
ずっと腰を抜かしていた元盗賊のリーダーが、焦ったように呟く。それに【三猿騎】と呼ばれた三人組が振り返って近づいていく。
「我々の本来の任務はこの『始まりの森』の警備、および侵入者の排除。あなたはそれに該当しています」
「加えて、あなた方には賞金がかけられていますので統率府から捕縛命令が出ていました。すでに協力者の区画統率者は逮捕しましたので、もう隠れ蓑はありません」
「……おとなしく、お縄につく」
「くっ……」
淡々となされた盗賊のリーダーは、悔しそうな顔をしながら顔をうつむかせた。そんなリーダーに言わ猿が腰のプロテクターを展開、そこから丸い宝石のようなものを取り出す。
それを元リーダーにかざすと、その体を光の輪が現れて拘束し、さらに地面に魔法陣が出現したかと思うとその姿が消えた。どうやら転移の魔法だったらしい。
元リーダーの姿が消えた後には、【三猿騎】と俺たち、そして盗賊たちとキュクロプス・キングのしたいだけが残った。あたりを静寂が支配する。
しばらく沈黙が続くと思われたが、突然【三猿騎】は踵を返してこちらに歩いて着た。一糸乱れぬその動きはその名の通り訓練された騎士を思わせる。
まさか盗賊を勝手に殺したことで攻撃されるのかと身構えると、エクセイザーがそれを手で制す。彼女を見れば、その目には大丈夫という意思が宿っていた。
そして、【三猿騎】が俺たちの前に立つ。どうくるかと密かに警戒していると…なんと【三猿騎】が三人同時に跪いた。
「任務の遂行、無事に完了いたしました」
「うむ、ご苦労」
平坦な声で言う見猿に、かつての統率者としての雰囲気をまとったエクセイザーが鷹揚に頷く。切り替えの早さはさすがだな。
「そうじゃ、おぬしらにちと頼みがあるのじゃが……」
「了解しました。盗賊の死体とキュクロプス・キングの処理は我々でやっときます…聞か猿、言わ猿」
「了解」
「…ん」
皆まで言う前にエクセイザーの言うことを理解した【三猿騎】は、見猿以外の二人が立ち上がって先ほどのものとは色違いの宝石を出して死体を回収し始めた。今度は収納の魔法か。ていうか、本当に名前三猿だったのかよ。
全ての死体を回収し終えると、聞か猿と言わ猿は流体金属をジェットに変形させてそのままどこかに行ってしまった。おそらく死体の処理をする場所に行ったのだろう。
さて。というわけで、今度は俺とエクセイザー、見猿の三人になってしまった。いや、シリルラも含めると全部で四人か。
今度は先ほどとは違い、静寂が舞い降りた。どうにかしようにも、俺は見猿のことを知らないのでどうにもできない。
とにかくこの場をなんとかしなくてはと思っていると、タイミングよくエクセイザーが見猿に話しかけた。ほっと胸をなでおろす。
「…もう良いぞ。普通に戻れ」
「……わかりました」
エクセイザーがそう行った途端、それまでどこまでも機械的だった見猿の声音に抑揚が生まれた。先ほどまでのは【三猿騎】の時だけのものだったのか。
そうして起伏のある声を出した彼女は立ち上がって、胸部のプロテクター中央に埋まったクリスタルに触れる。すると武器同様、その体を覆っていた全てが誘拐する。
クリスタルに触れた右手を中心として、装備が流体に変わってクリスタルに吸い込まれていく。てっきり背中の機会が本体かと思ってたが、違ったらしい。
体を覆っていた全ての装備がクリスタルに収納され、最後に目を覆っていた手が解けてマスクも溶解する。するとふわり、と艶やかな黒髪が中から溢れてきた。
そして全てが取り払われ、それまで固定されていたクリスタルが落ちて首にかかった鎖とともに揺れる。スーツを脱いだ見猿は、ゆっくりと顔を上げた。
彼女は、目がさめるほどの美少女だった。ボブカットの先端が赤い黒髪は艶やかで、すっきりとした目鼻立ちをしている。日本だったら間違いなく目を引く容姿だ。
ウィピールによく似た緑色のワンピースを着ていて、すらりとした四肢が一部見えている。それは無駄を排除した、極限まで鍛え込まれているが故の細さ。
これが、見猿の正体。先ほど容赦なく目をえぐっていたのがこんなうら若い女の子だとは思いもしなかった。
うーん…それにしても、やはりこの女性と俺が知り合いだと言われてもいまいちピンとこなかった。先ほどの予想を除いて、だが。
《えてして、事実というのは想像をかけ離れていることがほとんどですね。まあ、私もまさか彼女がそうだとは思いませんでしたが》
どうやらシリルラは彼女が誰なのかわかっているらしい。いや、俺もわかってはいるけど粘っているというか、認めようとしてないだけっていうか。
「はぁ…やっぱりわからないか」
そんな俺の心を見透かしたかのように、それまで黙りこくっていた女性がそう呟きながらため息をついた。
「ご、ごめん。わからないっていうか、なんていうか、その……」
「なにその答え…まあいいや。それじゃあ、自己紹介でもしようかな」
ちょっと呆れたような顔をしながらも、女性は後ろで手を組んで話をする体制に入った。sれを見た瞬間、俺の中で警報が鳴り始める。
まるでこの先は聞いてはいけないと、聞けば命の危機になるぞとでもいうかのように警鐘がけたたましくなる。一体なんだ、この不安感は。
そうして謎の危機感を覚えている俺にかまわず、女性は自分の名を名乗る。後に俺にとって甚大なダメージを与える、それを。
「私の名前は……レイ。【三猿騎】リーダーにして、軍部〝特級班〟班長。そして…かつてあなたに助けられた兎人族」
名乗った瞬間、彼女の髪に隠されていたウサギ耳がぴょこんと姿を現した。思わず息を飲む。
「……!」
「十年ぶりだね…おかえり、龍人さん」
「ゴフゥッ!!!」
それを聞いた瞬間、俺は吐血した。
「龍人!?」
《センパイ!?》
「りゅ、龍人さん!?」
比喩ではない、マジで口から血が飛び出た俺に、流石にこの反応は想定外だったのか、三人が驚く。
なんの前触れもなく血を吐いた俺は、震える両手でオロオロとしているレイの肩をガシッと掴む。そして我ながら呪詛のような声を出す。
「…レイ………」
「りゅ、龍人さん…?」
困惑した声を上げるレイに俺はガバッと顔を上げ、目尻に涙をためながら。
「頼む……頼むから、リュー兄って呼んでくれ!!!!!」
そう、目覚めてから一番大きな声で叫んだ。
「……え、っと。リュー兄?」
「レイィィィ!」
「ちょっ!」
レイに抱きつく俺。殺気立つエクセイザーとシリルラ、これまで以上にオロオロとするレイ。
そんな中、俺は歓喜の涙を流しながらレイを抱きしめ続ける。しばらく慌てていたレイだったが、しばらくすると大人しくなったのでもっと抱きしめた。
そうして、大切な家族の一人であるレイとの再会はそんな締まりのないものになったのだった。
ーーー
また文字数が増えてきました。書く時間が長くなるとまた更新が遅れるので、一定数まで減らしていきます。
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