48 / 52
ー if story ー レコルト薬師
しおりを挟む 「襲われないようにする方法ないんですか?」
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
118
お気に入りに追加
4,833
あなたにおすすめの小説

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。

婚約破棄ですか。お好きにどうぞ
神崎葵
恋愛
シェリル・アンダーソンは侯爵家の一人娘として育った。だが十歳のある日、病弱だった母が息を引き取り――その一年後、父親が新しい妻と、そしてシェリルと一歳しか違わない娘を家に連れてきた。
これまで苦労させたから、と継母と妹を甘やかす父。これまで贅沢してきたのでしょう、とシェリルのものを妹に与える継母。あれが欲しいこれが欲しい、と我侭ばかりの妹。
シェリルが十六を迎える頃には、自分の訴えが通らないことに慣れ切ってしまっていた。
そうしたある日、婚約者である公爵令息サイラスが婚約を破棄したいとシェリルに訴えた。
シェリルの頭に浮かんだのは、数日前に見た――二人で歩く妹とサイラスの姿。
またか、と思ったシェリルはサイラスの訴えに応じることにした。
――はずなのに、何故かそれ以来サイラスがよく絡んでくるようになった。

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる