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閑話休題
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ー ある日の薬師棟 ー
「トッレニアちゃ~ん!遊びに来たよ」
バンッと勢いよく薬師棟の扉を開いて入ってきたのはアインス・ラムダ第三騎士団副団長。ナザル薬師やターナ薬師とレコルト薬師も一斉にラムダ副団長に冷たい視線を送る。
「なになに~?歓迎されて無い感じ~?」
「ラムダ副団長、何か御用ですか?風邪薬なら騎士団医務室へどうぞ」
「レコルト、固いこと言うなって。俺とお前の仲だろう?ついでに俺とトレニアちゃんの仲を取り持ってくれても良いだろう?」
その言葉にターナ、レコルト、ナザル薬師の3人がピクリと反応する。
「俺とお前の仲?ただの同級生っていうだけだが。帰れ帰れ」
レコルト薬師はそのままラムダ副団長を扉の外に押し出そうとしている。
「あぁ、ごめんよ~騎士団医務官から薬が足りないって言われたからお使いで来たんだ」
レコルト薬師はチッと舌打ちしながらラムダ副団長を押し出すのを止めた。
「何の薬が足りないんだ?」
ターナ薬師は薬棚の前に立つ。
「胃薬や二日酔いに効く薬が欲しいんだよね。大量に。昨日さ、王宮で騎士団達のための祝賀会があっただろ?あれで酒が振る舞われて飲みまくったんだよね、俺ら。だから今日二日酔いが酷くて騎士団医務室にみーんな駆け込んだから足りなくなったってわけ」
「…あぁ。昨日外が騒がしかったのはそのせいか。薬の予備は3人分しか無いな。ナザル、レコルト、薬の調合を始める。100人分だ。すぐに取り掛かるぞ」
ナザル薬師は『えー。仕方がないなぁ』と調合を始める。レコルト薬師は無言のまま取り掛かっているわ。
昨日あったと言われる祝賀会。王宮の騎士達だけが集まり飲み食いをしたのは流石の私でも知っている。その祝賀会は規模が違うのよね。王宮騎士団に所属している数は500人程度いたと思う。それ以外の警備等の兵士達を合わせると数千人となるらしいけれど、実際のところ私には分からないわ。
私はというと、薬の調合はまだ出来ないのでラムダ副団長をソファへと案内し、お茶を淹れる。
「トレニアちゃんの淹れてくれたお茶。美味しいよ。ねねっ、今度デートしよう?俺、美味しい店知ってるんだ」
ラムダ副団長はニコニコと話しかけてくる。断りたいけれど、断って良いのか分からない。貴族だし、職場の人だからこれからも会う事もあるし… と、戸惑っていると、
「残念ながらそれは無理だ。ファーム薬師長をはじめとした俺達はトレニア薬師を大切にしている。誰彼構わずに声を掛ける輩には指一本触れさせない。あぁ、トレニア。俺にお茶を淹れてくれるか?」
そう言って私の代わりに答えてくれたのはターナ薬師。私はターナ薬師にお茶を急いで淹れるとターナ薬師は美味しいよと褒めてくれた。
「ターナ薬師、なんでお茶飲んでるのさ。薬は?」
「俺の分の調合は終わったからな。あとはナザルとレコルトの薬待ちだ」
相変わらず優秀だわ。ナザル薬師、レコルト薬師、ターナ薬師は3人で普段から調薬をしているけれど、3人の中で1番の年長者のターナ薬師は薬師の中でも特に優秀な薬師だと私は思っている。いつも尊敬しているわ。
「ターナ薬師は仕事が早いね。ねね、トレニアちゃん。どんなタイプが好みなの?」
「えっと、尊敬出来る人でしょうか…?あと、裏切らないとか、嘘を付かないとか。私だけを生涯愛してくれて、大切にしてくれる人、ですね」
「俺なんかお勧めなんだけどなぁ?」
「ふふっ、冗談が好きなのですね。この間、王宮侍女さん達が食堂で大声でお話ししていましたよ?デートで髪飾りをプレゼントしてくれたとか。大喜びで語っていました」
私は暗に無理だわと匂わせる笑顔でラムダ副団長に話をした。ラムダ副団長はグッと言葉に詰まっている様子。
「トレニアも髪飾りが欲しいのかい?女の子は装飾品が好きって聞いた事がある。俺と買いに行くか」
レコルト薬師が話をしながらターナ薬師の隣に座った。ナザル薬師も調薬を終えたらしく、ラムダ副団長の横にボスンと勢いよく座った。
「さぁ、薬は出来たよ。残念だったね。ラムダ副団長。デートの機会は無いみたい。さぁさぁ、みんなが待っている。急いで、急いで」
ナザル薬師はラムダ副団長が口を開く前に大量の薬の入った籠を渡し、部屋から追い出した。
「トレニア薬師は髪飾りをプレゼントされると嬉しいのか?」
ターナ薬師はラムダ副団長が居なくなって静かになったソファで聞いてきた。
「えっと、まぁ、私も一応女の子ですのでプレゼントされると嬉しいですね」
ターナ薬師は何か考え事をしながら
「… そうか。分かった」
と座っていたソファから立ち上がり、どこかへふらふらと出て行ってしまったわ。ナザル薬師もレコルト薬師も気にしていないみたい。『あーぁ。いつもの閃きが始まったんだよ』と言いながら2人とも仕事に戻って行った。
暫くしてからターナ薬師は仕事に戻り、変わらず仕事をしている。
何だったのかしら?
そう思いつつ私も仕事に戻っていった。
ー 1週間後 ー
私がおはようございます。と薬師棟へ出勤し薬師達の朝の打ち合わせの後、ターナ薬師が話しかけてきた。
「トレニア、先週の事覚えているか?」
ターナ薬師はいつになく真剣な顔をしているわ。
「先週?ラムダ副団長が薬師棟へ来た事ですか?」
「あぁ。あの時、君は髪飾りをプレゼントされると嬉しいと言っていた。だからこれを作ってみた。良かったら使ってくれ」
そう言ってターナ薬師は一つの箱を私に差し出した。開けてみると、可愛い花を付けた薬草の髪飾りだった。よく見ると本物のようだわ。でも生花とは違うみたい。
「ターナ薬師。とっても可愛いですね。嬉しいです。でも、これ、生花ですか?」
「いや、我が家に咲いている薬草を摘み、アルコールに漬けてから着色し直して髪飾りにしてある。長持ちすると思う」
淡々と話をしているけれど。
ターナ薬師のお庭の薬草!?
しかも手作りなの!?
その話を聞いていた他の薬師も目を丸くしている。
「ターナ薬師、ありがとうございます。こんなに素晴らしい髪飾り初めてみました。生花みたい。それにこの薬草の花、とても可愛いし。大切にしますね」
私は嬉しくなってその日から薬草の髪飾りを付けて出勤するようになった。
「トッレニアちゃ~ん!遊びに来たよ」
バンッと勢いよく薬師棟の扉を開いて入ってきたのはアインス・ラムダ第三騎士団副団長。ナザル薬師やターナ薬師とレコルト薬師も一斉にラムダ副団長に冷たい視線を送る。
「なになに~?歓迎されて無い感じ~?」
「ラムダ副団長、何か御用ですか?風邪薬なら騎士団医務室へどうぞ」
「レコルト、固いこと言うなって。俺とお前の仲だろう?ついでに俺とトレニアちゃんの仲を取り持ってくれても良いだろう?」
その言葉にターナ、レコルト、ナザル薬師の3人がピクリと反応する。
「俺とお前の仲?ただの同級生っていうだけだが。帰れ帰れ」
レコルト薬師はそのままラムダ副団長を扉の外に押し出そうとしている。
「あぁ、ごめんよ~騎士団医務官から薬が足りないって言われたからお使いで来たんだ」
レコルト薬師はチッと舌打ちしながらラムダ副団長を押し出すのを止めた。
「何の薬が足りないんだ?」
ターナ薬師は薬棚の前に立つ。
「胃薬や二日酔いに効く薬が欲しいんだよね。大量に。昨日さ、王宮で騎士団達のための祝賀会があっただろ?あれで酒が振る舞われて飲みまくったんだよね、俺ら。だから今日二日酔いが酷くて騎士団医務室にみーんな駆け込んだから足りなくなったってわけ」
「…あぁ。昨日外が騒がしかったのはそのせいか。薬の予備は3人分しか無いな。ナザル、レコルト、薬の調合を始める。100人分だ。すぐに取り掛かるぞ」
ナザル薬師は『えー。仕方がないなぁ』と調合を始める。レコルト薬師は無言のまま取り掛かっているわ。
昨日あったと言われる祝賀会。王宮の騎士達だけが集まり飲み食いをしたのは流石の私でも知っている。その祝賀会は規模が違うのよね。王宮騎士団に所属している数は500人程度いたと思う。それ以外の警備等の兵士達を合わせると数千人となるらしいけれど、実際のところ私には分からないわ。
私はというと、薬の調合はまだ出来ないのでラムダ副団長をソファへと案内し、お茶を淹れる。
「トレニアちゃんの淹れてくれたお茶。美味しいよ。ねねっ、今度デートしよう?俺、美味しい店知ってるんだ」
ラムダ副団長はニコニコと話しかけてくる。断りたいけれど、断って良いのか分からない。貴族だし、職場の人だからこれからも会う事もあるし… と、戸惑っていると、
「残念ながらそれは無理だ。ファーム薬師長をはじめとした俺達はトレニア薬師を大切にしている。誰彼構わずに声を掛ける輩には指一本触れさせない。あぁ、トレニア。俺にお茶を淹れてくれるか?」
そう言って私の代わりに答えてくれたのはターナ薬師。私はターナ薬師にお茶を急いで淹れるとターナ薬師は美味しいよと褒めてくれた。
「ターナ薬師、なんでお茶飲んでるのさ。薬は?」
「俺の分の調合は終わったからな。あとはナザルとレコルトの薬待ちだ」
相変わらず優秀だわ。ナザル薬師、レコルト薬師、ターナ薬師は3人で普段から調薬をしているけれど、3人の中で1番の年長者のターナ薬師は薬師の中でも特に優秀な薬師だと私は思っている。いつも尊敬しているわ。
「ターナ薬師は仕事が早いね。ねね、トレニアちゃん。どんなタイプが好みなの?」
「えっと、尊敬出来る人でしょうか…?あと、裏切らないとか、嘘を付かないとか。私だけを生涯愛してくれて、大切にしてくれる人、ですね」
「俺なんかお勧めなんだけどなぁ?」
「ふふっ、冗談が好きなのですね。この間、王宮侍女さん達が食堂で大声でお話ししていましたよ?デートで髪飾りをプレゼントしてくれたとか。大喜びで語っていました」
私は暗に無理だわと匂わせる笑顔でラムダ副団長に話をした。ラムダ副団長はグッと言葉に詰まっている様子。
「トレニアも髪飾りが欲しいのかい?女の子は装飾品が好きって聞いた事がある。俺と買いに行くか」
レコルト薬師が話をしながらターナ薬師の隣に座った。ナザル薬師も調薬を終えたらしく、ラムダ副団長の横にボスンと勢いよく座った。
「さぁ、薬は出来たよ。残念だったね。ラムダ副団長。デートの機会は無いみたい。さぁさぁ、みんなが待っている。急いで、急いで」
ナザル薬師はラムダ副団長が口を開く前に大量の薬の入った籠を渡し、部屋から追い出した。
「トレニア薬師は髪飾りをプレゼントされると嬉しいのか?」
ターナ薬師はラムダ副団長が居なくなって静かになったソファで聞いてきた。
「えっと、まぁ、私も一応女の子ですのでプレゼントされると嬉しいですね」
ターナ薬師は何か考え事をしながら
「… そうか。分かった」
と座っていたソファから立ち上がり、どこかへふらふらと出て行ってしまったわ。ナザル薬師もレコルト薬師も気にしていないみたい。『あーぁ。いつもの閃きが始まったんだよ』と言いながら2人とも仕事に戻って行った。
暫くしてからターナ薬師は仕事に戻り、変わらず仕事をしている。
何だったのかしら?
そう思いつつ私も仕事に戻っていった。
ー 1週間後 ー
私がおはようございます。と薬師棟へ出勤し薬師達の朝の打ち合わせの後、ターナ薬師が話しかけてきた。
「トレニア、先週の事覚えているか?」
ターナ薬師はいつになく真剣な顔をしているわ。
「先週?ラムダ副団長が薬師棟へ来た事ですか?」
「あぁ。あの時、君は髪飾りをプレゼントされると嬉しいと言っていた。だからこれを作ってみた。良かったら使ってくれ」
そう言ってターナ薬師は一つの箱を私に差し出した。開けてみると、可愛い花を付けた薬草の髪飾りだった。よく見ると本物のようだわ。でも生花とは違うみたい。
「ターナ薬師。とっても可愛いですね。嬉しいです。でも、これ、生花ですか?」
「いや、我が家に咲いている薬草を摘み、アルコールに漬けてから着色し直して髪飾りにしてある。長持ちすると思う」
淡々と話をしているけれど。
ターナ薬師のお庭の薬草!?
しかも手作りなの!?
その話を聞いていた他の薬師も目を丸くしている。
「ターナ薬師、ありがとうございます。こんなに素晴らしい髪飾り初めてみました。生花みたい。それにこの薬草の花、とても可愛いし。大切にしますね」
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