43 / 52
42 王宮執務室・薬師長室
しおりを挟む
執務室では陛下と宰相、そしてディランが渋い顔で話をしていた。
「やはり駄目だ。どれだけ時間を費やしたと思っておるのだ。エレノア・ナラン子爵令嬢は王子妃の器では無い。他の者を連れて来いと言っているだろう。あれはよくても妾止まりだ」
「父上、私にはエレノア以外おりません」
ディランは必死に父親に訴えてかけている。
「少し前にお前が声を掛けたトレニア嬢。お前は姉が口うるさいと嫌っていたが、妹はお前の中でも妃として迎えられると声を掛けたのだろう?」
執務をこなしながらディランに問いかける。その様子はどこか苛立っている様子。
「トレニア嬢には断られました」
「トレニアは薬師だったな。確かにファームからも苦情が来ていた。このままトレニアを王子妃にするのではファームが黙っていないだろう。やはり王命で婚約者とするしかないな」
そう話をしていると横から宰相が口を開いた。
「陛下。トレニア薬師の事なのですが、無理でございます」
「何故だ?」
「以前、ディラン殿下がトレニア嬢を妃にすると話をしてから薬師長を始めとした薬師達はトレニア嬢を守るべく動いていました。そこから本格的に薬師達もトレニア嬢を妻として迎えるような動きをしており、他の貴族達と水面下でやり取りをしていたようです。
そしてトレニア薬師の帰国後すぐに婚約の手続きを行っております。婚約者のいない娘ならまだしも、理由なく婚約者を王命で変える事は貴族達の反発が予想されます。諦めた方が賢明かと」
チッと舌打ちをし、国王は苛立ちを隠さない。苦い顔をした宰相と暗い表情をしたディラン。陛下はディランに向かって万年筆を投げる。
「ディラン、お前に残された道は子爵家へ婿入りだ。分かったな」
「…はい。父上」
ー 薬師長室 ー
トレニアの帰宅後、トレニア以外の薬師達が薬師長室で話をしている。
「ターナ、トレニア薬師と婚約したのだな?」
「ファーム薬師長、正式な婚約の手続きを行ったので覆される事は無いでしょう」
「トレニア薬師はびっくりだろうね。急に婚約なんて言われて意味分かんなくない?」
ナザル薬師がお茶を飲みながら口を開く。
「そうだな。まぁ、お前達は妻に迎えたいと前々から牽制しながら動いていたのだから周囲はようやくかと思っていそうだがな」
「僕達はトレニアが薬草園に飛び込んできた時から好ましく思っていたしね。悔しいけど、ターナ薬師には敵わないし、トレニアが嫌がったら僕の妻に迎えるだけだよね」
ターナ薬師が眉間に皺を寄せながらナザル薬師の言葉に反応する。
「残念だが、俺はトレニアを不幸にしないからお前の出番は無い」
「それにしても焦りましたね。王家がまさかトレニア薬師を諦めていなかったとは。ノーム医務官から聞いた時には焦りましたよ。まさかトレニアに王命を出す手配をしていたなんて」
そう横から口を開いたのはヤーズ薬師。事前に掴んだ情報であり、今回のターナ薬師がトレニアにプロポーズを急がせた理由。
「ワシもな宰相から聞いて驚いたわ。まぁ、トレニアは優秀だからな。トレニアにしてみれば即婚約は心の準備も出来なかっただろうに。貴族なら仕方がない事なのだがな。平民となればもっと酷い扱いだったのだが、その辺トレニアは気づいておらんが。
結局、ガーランド侯爵家に戻ったのだな。まぁ、仕方がない。養女手続きに時間を取られている間に王家がトレニアを攫っていたかも知れんしな。
それにしても、ワシは娘の幸せを考えてお前達に厳しい課題を出してやったのにすぐこなしやがって!これだから優秀なやつは困る。
ターナ、急がせて申し訳無かったな。後はゆっくりトレニアと過ごすといい」
「もちろんですよ。ファーム薬師長。トレニア以外考えられないです。幸せにしますよ。遅かれ早かれ彼女にはプロポーズをする予定でしたからね。
彼女の父も他の貴族から王家に狙われていると聞いていたようで書類の準備や彼女の身を隠す準備は前以て用意していました。あぁ、それとトレニアの希望で生涯薬師として結婚してからも働きたいらしいです」
「なに!?トレニア薬師は働き続けてくれるの?嬉しいね。僕の子も産んでくれると助かるんだけどなぁ」
ナザル薬師が戯けたようにターナ薬師に話す。
「お前には指一本触れさせん!」
「やはり駄目だ。どれだけ時間を費やしたと思っておるのだ。エレノア・ナラン子爵令嬢は王子妃の器では無い。他の者を連れて来いと言っているだろう。あれはよくても妾止まりだ」
「父上、私にはエレノア以外おりません」
ディランは必死に父親に訴えてかけている。
「少し前にお前が声を掛けたトレニア嬢。お前は姉が口うるさいと嫌っていたが、妹はお前の中でも妃として迎えられると声を掛けたのだろう?」
執務をこなしながらディランに問いかける。その様子はどこか苛立っている様子。
「トレニア嬢には断られました」
「トレニアは薬師だったな。確かにファームからも苦情が来ていた。このままトレニアを王子妃にするのではファームが黙っていないだろう。やはり王命で婚約者とするしかないな」
そう話をしていると横から宰相が口を開いた。
「陛下。トレニア薬師の事なのですが、無理でございます」
「何故だ?」
「以前、ディラン殿下がトレニア嬢を妃にすると話をしてから薬師長を始めとした薬師達はトレニア嬢を守るべく動いていました。そこから本格的に薬師達もトレニア嬢を妻として迎えるような動きをしており、他の貴族達と水面下でやり取りをしていたようです。
そしてトレニア薬師の帰国後すぐに婚約の手続きを行っております。婚約者のいない娘ならまだしも、理由なく婚約者を王命で変える事は貴族達の反発が予想されます。諦めた方が賢明かと」
チッと舌打ちをし、国王は苛立ちを隠さない。苦い顔をした宰相と暗い表情をしたディラン。陛下はディランに向かって万年筆を投げる。
「ディラン、お前に残された道は子爵家へ婿入りだ。分かったな」
「…はい。父上」
ー 薬師長室 ー
トレニアの帰宅後、トレニア以外の薬師達が薬師長室で話をしている。
「ターナ、トレニア薬師と婚約したのだな?」
「ファーム薬師長、正式な婚約の手続きを行ったので覆される事は無いでしょう」
「トレニア薬師はびっくりだろうね。急に婚約なんて言われて意味分かんなくない?」
ナザル薬師がお茶を飲みながら口を開く。
「そうだな。まぁ、お前達は妻に迎えたいと前々から牽制しながら動いていたのだから周囲はようやくかと思っていそうだがな」
「僕達はトレニアが薬草園に飛び込んできた時から好ましく思っていたしね。悔しいけど、ターナ薬師には敵わないし、トレニアが嫌がったら僕の妻に迎えるだけだよね」
ターナ薬師が眉間に皺を寄せながらナザル薬師の言葉に反応する。
「残念だが、俺はトレニアを不幸にしないからお前の出番は無い」
「それにしても焦りましたね。王家がまさかトレニア薬師を諦めていなかったとは。ノーム医務官から聞いた時には焦りましたよ。まさかトレニアに王命を出す手配をしていたなんて」
そう横から口を開いたのはヤーズ薬師。事前に掴んだ情報であり、今回のターナ薬師がトレニアにプロポーズを急がせた理由。
「ワシもな宰相から聞いて驚いたわ。まぁ、トレニアは優秀だからな。トレニアにしてみれば即婚約は心の準備も出来なかっただろうに。貴族なら仕方がない事なのだがな。平民となればもっと酷い扱いだったのだが、その辺トレニアは気づいておらんが。
結局、ガーランド侯爵家に戻ったのだな。まぁ、仕方がない。養女手続きに時間を取られている間に王家がトレニアを攫っていたかも知れんしな。
それにしても、ワシは娘の幸せを考えてお前達に厳しい課題を出してやったのにすぐこなしやがって!これだから優秀なやつは困る。
ターナ、急がせて申し訳無かったな。後はゆっくりトレニアと過ごすといい」
「もちろんですよ。ファーム薬師長。トレニア以外考えられないです。幸せにしますよ。遅かれ早かれ彼女にはプロポーズをする予定でしたからね。
彼女の父も他の貴族から王家に狙われていると聞いていたようで書類の準備や彼女の身を隠す準備は前以て用意していました。あぁ、それとトレニアの希望で生涯薬師として結婚してからも働きたいらしいです」
「なに!?トレニア薬師は働き続けてくれるの?嬉しいね。僕の子も産んでくれると助かるんだけどなぁ」
ナザル薬師が戯けたようにターナ薬師に話す。
「お前には指一本触れさせん!」
223
お気に入りに追加
4,833
あなたにおすすめの小説

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。

婚約破棄ですか。お好きにどうぞ
神崎葵
恋愛
シェリル・アンダーソンは侯爵家の一人娘として育った。だが十歳のある日、病弱だった母が息を引き取り――その一年後、父親が新しい妻と、そしてシェリルと一歳しか違わない娘を家に連れてきた。
これまで苦労させたから、と継母と妹を甘やかす父。これまで贅沢してきたのでしょう、とシェリルのものを妹に与える継母。あれが欲しいこれが欲しい、と我侭ばかりの妹。
シェリルが十六を迎える頃には、自分の訴えが通らないことに慣れ切ってしまっていた。
そうしたある日、婚約者である公爵令息サイラスが婚約を破棄したいとシェリルに訴えた。
シェリルの頭に浮かんだのは、数日前に見た――二人で歩く妹とサイラスの姿。
またか、と思ったシェリルはサイラスの訴えに応じることにした。
――はずなのに、何故かそれ以来サイラスがよく絡んでくるようになった。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる