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 翌日からの私は毎日薬師の制服を着て出勤し、薬草園の手入れや薬の補給に精を出していた。ズボンはかなり楽なのね。



毎日の制服にも慣れてきた頃、いつものように王宮医務室に薬を届けに行く途中、扉の前で声を掛けられた。

「君がグリシーヌの妹、トレニア嬢か?」

私は声のする方に振り向くとそこには第二王子のディラン様が立っていた。私は慌てて礼をする。

「確かに私はグリシーヌ・ガーランド侯爵令嬢の妹でしたが、私に何か御用ですか」

「いや、アイツの妹が王宮で働いていると噂を聞いたので見に来たのだ。ちょっとお茶を付き合え」

なんだか面倒事が襲ってきそうな予感。私は学生の頃からディラン殿下と全く会う事が無かったのよね。姉を毛嫌いして近づいて来なかったのかは分からないけれど。

「私は貴族籍を抜け平民となりましたので現在はグリシーヌ様とは何の関係もありません。御用が無ければ失礼致します」

私は失礼のないように礼をして部屋に入ろうとするが、腕を掴まれる。はぁ、仕方がないわ。私は医務室の医務官に薬を渡し、ヤーズ薬師にディラン殿下に呼ばれたと話をして持ち場を離れる。

ディラン殿下はまだかと苛立ちながら私を待っていたが、従者と共に私達はディラン殿下の執務室へと入った。

「トレニアは薬師として働いていて優秀なのだな。グリシーヌも我儘で口煩く無ければ妃教育をこなせる美女なのにな」

文句を言いにわざわざ呼んだの?何が言いたいのかさっぱり分からないわ。ちょっとイライラするけれど、そこは捨てていた淑女の仮面を拾って付けたわ。

「トレニア、単刀直入に言う。我が妃になれ」

えっと、突然過ぎない?我が妃?王子妃?私が?全く意味が分からないわ。

「ディラン殿下、仰っている意味が分かりませんわ」

「トレニアはグリシーヌより優秀なのだ。私の正妃となるべきだ。王子妃となれば今より贅沢な暮らしが出来る。素晴らしいだろう?姉も見返せるし、嬉しいだろう」

「ディラン殿下、私は今の暮らしにとても満足しておりますわ。幸せ一杯です。それに、エレノア・ナラン様はどうされたのですか?私は姉が断罪されたあの場に居ましたが殿下は真実の愛だと仰っていたではありませんか」

私はにっこりと微笑みを返す。

「…陛下からエレノアは妃に出来ないと言われたのだ。もっと優秀な者を連れてこいと。だが!トレニアが正妃となり、エレノアが妾妃となれば王国も安泰するし、皆が納得するはずだ。心配せずとも大丈夫だ、グリシーヌより美人でなくとも子が生まれるまでトレニアを愛してやる」

ディラン殿下はお茶を飲みながら和かに言い放った。それが私にとっての幸せだろうと言わんばかりに。私が断るなんて微塵も考えていなさそう。

冗談じゃないわ。そして私に対して失礼過ぎる。

「殿下、エレノア様は王子妃教育を終えた姉と婚約破棄をしてまで手に入れた真実の愛なのでしょう?そして私を巻き込むのはお辞め下さいませ。私は今の生活を満喫しております。王子妃になるのは真実の愛であるエレノア様なのでしょう?

今更、グリシーヌの妹だからと私に面倒事を押し付けられても困ります。私はそもそも平民に降りた身。身分違いも甚だしいです。真実の愛で結ばれたエレノア様が正妃になれるように支えるのがディラン殿下の愛ではないですか?」

イライラしてつい指摘してしまったわ。殿下ってこういう人だったのね。グリシーヌとお似合いだったのでは?破れ鍋に綴じ蓋で。

「…そう、だな」

ディラン殿下はぐっと言葉に詰まり、痛い所を突かれた顔をしている。

全く。なんなの!?

真実の愛とか結婚とかもう沢山なのよ。

なに?愛してやる?

私からは特に話す事もないので、お茶を飲み干し、礼をしてからディラン殿下の執務室を後にする。ディラン殿下はブツブツと何か呟いていたけれど気付かないフリをした。

私は平民なんだから王族とは結婚出来ないでしょうに。何だかモヤモヤが晴れないわ。



「トレニア薬師、どうした?イライラしおって」

「ファーム薬師長、聞いて下さい!先程ディラン殿下がね…」

とりあえずファーム薬師長に先程の話をして憂さ晴らしをする。ファーム薬師長ははははっと笑い飛ばして後で陛下に伝えておくよと言ってくれた。

殿下の真実の愛って小さいわ。丸めた紙屑位の価値しか無いんじゃないかしら?黙ってグリシーヌと結婚して、エレノア様を妾妃にすれば良かったのに。

ズバッと言ってやりたかったが、長い物には巻かれろ、権力者には媚びへつらえ精神が私を邪魔したわ。まぁ、しっかりと言ったのだからもう来る事は無いでしょう。
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