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ロード国の姫

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 朝の清々しい空気の中、小鳥の囀りを聴きながらお茶をしていると、玄関扉をノックする音が聞こえる。


ー トントン ー


「はぁい」

 返事をしてからレースアイマスクを着け、扉を開けると若く、凛々しい姿の一人の騎士が立っていた。 

「魔女エキドナ様の家であっているか?」

「ええ。中へどうぞ。そこに座って。今、お茶を淹れるわ」

彼を部屋の中に招き入れ、部屋の真ん中にある椅子へ座らせる。彼は落ち着かないようで視線を彷徨わせながら部屋のあちこちを見ているわ。そして私の足に視線が向くとギクリと止まる。

「ふふっ。私の足が気になっているのかしら?」

 お茶を淹れてどうぞとテーブルに置くと彼は黙ったままお茶に口を付けて私の足から視線を逸らした。

「ところで、ここに来るって事は私に何かご用事かしら?」

「私、ロード国騎士団の副官をしているライアンといいます。実は先日、我が国の王女様が倒れたきりのまま目を覚さないのです。エキドナ様に診ていただきたくてやってきました」

「ふぅん。興味無いわ。聖女に診せればいいんじゃない?」

私はそう言うとテーブルを挟んでライアンの向かいに座り、にこりと微笑う。

「いえ、聖女様や王宮魔法使い、治癒師達にはもう既に診てもらったのです。ですが、王女様は目を覚す気配は無く、こうしてエキドナ様にお願いに上がったのです」

ライアンは眉を下げている。

「ふーん。でも興味が湧かないんだもの。だって私には何の利益も無いし。対価が有れば考えてもいいわ」

私はテーブルに肘を付けてカップを包むように両手に持ちニコニコしながらお茶を飲む。

「対価、ですか。これはどうでしょうか?」

ライアンが懐から差し出したのは金貨が入った袋だった。

「んー。要らないわ。だって国が変わったら使えなくなるもの。お金にも困っていないし。魔獣の素材を持って来てくれるなら考えてあげるわ」

「どのような素材が必要ですか?」

 私は棚な方を見ながら人差し指を曲げると、棚に置いてある水晶はふわりと浮きながら移動し、コトリとテーブルの上に乗った。水晶に手を翳して魔力を注ぎ視る。

「そうねぇ。ドラゴンハートにラミアの涙、虹の花よ。あと、ポイズンスパイダー1匹。ドラゴンはどの種類でも良いわ。まぁ、素材が集まったらまた来て頂戴」

ライアンは眉間に皺を寄せていたわ。私の出したお茶を一気に飲み干して「失礼します」と足早に帰って行ったけれど、大丈夫かしら?思い詰めないといいのだけれど、どうかしらね。私にすれば彼のような様子の人間はいつもの事なので気にも止めなかったけれど。

さて彼が再び来るまで家の横にある薬草畑で精を出すわ。魔女だからって畑仕事は怠らないものよ。




 半月ほどした頃、ライアンがまた訪ねて来た。

「エキドナ様、対価をお持ちしました。是非、王女様を診ていただきたい」

よく見ると、ライアンの右目は眼帯をして額から左頬まで魔獣にやられたような傷がある。そして左手の指も欠損しているようだった。

「・・・あらあら。まぁ、座りなさい。王女様は貴方の何かしらね?そんなになるまで頑張っちゃって。聖女は治してくれなかったの?」

 ライアンは自分の身を気にするより魔女に早く王女を診て欲しかったのかしら?私の言葉で彼の眉間に皺がよっている。毎回私の言葉で皺がよるのね。ふふっ。なんだか面白い反応だわ。

「・・・診て頂きました。ですが今代の聖女様は欠損や深い傷の治癒出来ないそうです。」

「あら、使えない聖女ちゃんね。勿体無いわ、貴方はとてもハンサムなのに。」

 私はテーブルを横に除けるとスッと立ち上がり、ライアンの膝の上に座ってライアンの頬を手で挟み、失った目を覗き込む。

彼はジッと固まったままになっている。

睫毛が長く顔はとても整っているわね。このままでも女の子達はライアンの格好良さから騎士を辞めても上手くやっていけそうよね。

 私はそのまま顔を近づけ、ライアンにゆっくりと口付ける。

そのままライアンの口を深く舐めとりながら魔法を使い、棚にある瓶を一つ手元に寄せ、特殊なビー玉を瓶から取り出した。

私はビー玉をライアンの眼球に入れ、魔力を流していく。暫くすると、ビー玉はぼんやりと脈打つように光りながら膨らみはじめている。

ライアンは自分の目に何が起こったのか分からず、混乱しながら私を身体から離すように押しのけた。

「ふふっ。顔が真っ赤よ?」

私は立ち上がると浮遊魔法でライアンを浮かせながらベッドへ運び、そっと寝かせる。『そのまま寝ていなさい』と声を出すと彼は目を閉じて静かに眠り始めた。

 寝ている間に彼の新しい眼球は定着するわ。後は指の欠損ね。ノームの粉に魔法液を混ぜながら捏ね、指の形を作ると、ライアンの欠損部分にくっ付けて魔法を唱える。
額の傷はどうしようかしら?
まぁ、そのままで良さそうね。腕の良い治療師が何度も魔法を使えば消えるんじゃないかしら?

 そんな事を考えつつ、王女の目を覚す物を作る。水晶で視た感じでは心を半分くらい食べられているわ。

放っておけばそのまま死ぬかもね。

虹の花を魔法で粉砕し、ラミアの涙を練り込む。呪文を唱え、術式の中にドラゴンハートを置き、先程練り込んだ物を魔力を少しずつ馴染ませながらドラゴンハートの中に移動させていく。

「出来たわ」

完成品を箱にしまい、後はライアンが目を覚すまで待ちますか。 




 ライアンは1時間しないうちにゆっくりと瞼を開いた。

「ライアン、おはよう。目覚めはどう?」

「エキドナ様、すみません。いつの間にか寝てしまいました」

ライアンは慌てたようにベッドから飛び起きた。

「大丈夫よ。寝かせたのは私だから。それより、目は馴染んだかしら?」

ライアンは言われて気付いたらしく、右目をぱちぱち瞬きし、両手を眺めて驚いている。

「エ、エキドナ様。見えます。しっかりと見えています。そして左指が、ありますっ」

「そうね。正確には義眼と義指よ。本来の指と変わらない動きが出来るけれど、聖女の解呪は避けて。指も目も取れちゃうからね?」

「分かりました」

「あと、これ。これで王女は目を覚すわ。そしてこのポイズンスパイダーの粉を王女の部屋の天井に向けて撒きなさい。そこに魔獣が隠れているはずよ」

 箱をテーブルの上に置き、私は素早くポイズンスパイダーを魔法で粉状にして瓶に詰める。毒だから周りにも気をつける事。注意はしたわ。

ライアンは深々と頭を下げてお城に戻って行った。さて、仕事も終わったし、お風呂に入るわ。


私は余った虹の花を瓶に詰めて風呂場へ向かう。今日も魔女のお仕事よく頑張ったわ。
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