上 下
16 / 20

16

しおりを挟む
 更に私は階下を広げていく。

 これだけ階層を広げても問題ないということはやはり王都は瘴気濃度は濃く発生する場所なのだろう。

 もしかしたらダンジョンがなければ魔王城に湧いていた瘴気と同じ濃さになっていたかもしれない。

 そうそう、初心者用ダンジョンに訪れる人間は途切れることがないようだ。

 人間とは良い関係を保っているはず。

 ダンジョン運営に順調な様子に胸を撫でおろしながら更に階層を広げる。

 地下七階は魔獣や魔人達の住居だ。今はまだ上階にある区画で事足りているけれど、人間達の街が発展していけば瘴気も増えていく。

 もし別ダンジョンに何かあった時、魔獣や魔人を避難させる場所を確保しておいた方がいい。

 人間と共に生きている以上、様々なトラブルに対処できるようにしておいて損はない。

 私は鼻歌を歌いながらコツコツとフロアを広げていく。



 どれくらい広げただろうか……。
 気づけば街が一つ分入るほどの広さ。

「ウォール様、立派なフロアになりましたね」
「そうでしょう? この広さなら当分人が居なくても建物だけで瘴気を減らせるわ!」
「近年、勇者の活躍が目覚しいと人間達が騒いでおります。この街以外の瘴気は増えているかもしれませんね」
「そうね! 張り切って作っていたから時間なんて気にしていなかったけど、そろそろ元に戻らないとね!」

 アラクネに種を託した後、私とカーくん、ドランは初心者用ダンジョンを後にした。

「ねぇ、ドラン。魔族会議で言っていた高濃度の瘴気が渦巻いている区画、あれはどうなったの?」
「ウォール様、宰相の話ではウォール様がフロアを嬉々として広げている間に濃い瘴気が溢れだし、どんどん区画を広げております。私も宰相と確認しに行ったのですが、中に入る事が出来ませんでした」
「……ドランが入れないほどの瘴気、ね。ファーが動けないのなら私が行くしかないわね。他の区画はどうなの?」
「他の区画は魔王様の種が新たに撒かれ、食い止めている状況です。あまり思わしくはない。魔王様からウォール様に早く動けとせっつかれております」
「そうだったのね! 言ってくれれば良かったのに」

 私はショボンとしながらドランに言うと、ドランは真面目に答えた。

「我々はウォール様がやりたい事を優先すべきものだと思っております」
「ふふっ、そうね。人間達なんて私達には関係ないもの。ファーは真面目よね」



 そこから私は最難関と呼ぶにふさわしいダンジョンを作り上げたの!!

 もちろんたまには他のダンジョンに顔を出しては手直しもしている。

 人間の時間で言う五年くらい? 

 他のダンジョンに比べたらかなり早く出来たんじゃないかしら?

 何故そんなに急いだのかと言えばやはり原因は瘴気。

 もともと最難関のダンジョンを作りたいと思っていたけれど、瘴気が強すぎて私以外が近づくことが出来なかったの。

 もちろんダンジョン内に住む魔族も瘴気が濃すぎて難しい。とりあえず外側だけを急いで作り上げ、魔木を植え浄化作用をしっかりと組み入れたわ。

 もちろん私も取り込んだわよ?

 そのおかげもあって徐々に瘴気が減り始め、強い魔人が辛うじて住めるほどになった。

 一フロアを作るのも時間が掛かっていたけれど、濃い瘴気のおかげでサクサク進んだわ。細部にまでこだわったダンジョンなの!



 ある日、ファーストから連絡が入った。
『ウォール、話がある』

 突然どうしたのかしら?

 私はファーストの呼び出しに驚きつつもファーストの元へ転移する。

「ファースト、急に呼び出すなんてどうしたの?」
「あぁ、ウォール。すまない」

 宰相達は変わらずに仕事をしている。

「宰相、今日から数日は休む。部屋には誰も近寄らせるな」
「畏まりました」

 ファーストの言葉に宰相は礼を取る。ファーストは立ち上がり、手を取って移動する。

「どうしたの? 突然」
「……あぁ。ここでは話せない」

 そう言うと、城の最深部の一室に連れてこられた私。
 どうやらここがファーストの部屋のようだ。

 私の部屋とは大違い。整理整頓がされているわ。
 私の部屋だって綺麗よ? ドランが片づけてくれているもの。

 私はベッドに腰かけてまた呼び出した理由を聞く。

「実はな、この城に勇者達がくる」
「勇者? 瘴気を増やしまくっているあの人間? 私のダンジョンを浄化しようとして〆たけど……」
「あぁそうだ。そいつらだ」
「あら、ファーなら大丈夫でしょう?」
「あぁ。俺もそう思ってはいるんだが、問題は聖女のようだ。瘴気を浄化させるからな。俺の中の瘴気に気づいて浄化魔法が掠り、瘴気が吹き出したら大変だろう?」

「まぁ、そうね。この辺一帯が吹き飛ぶじゃ済まないわ。世界の三分の一は瘴気に包まれるでしょうね」
「で、だ。ウォールに渡しておきたい」
「……本気なの?」
「本気だ」
「私に力を渡してしまえば貴方は弱くなるじゃない」
「お前がいれば俺は大丈夫だろう?」
「……でも」
「ウォール、お前だけにしか頼めないのは知っているだろう?」
「分かったわ。後で一杯こき使ってあげるんだから」

 ファーストは私の言葉にクスリと笑った。

 私達二人は特殊。

 昔は私達以外もいたけれど、もう私達しか残っていない。


 私は覚悟を決めてファーのベッドに横になる。ファーは優しく私に口づけをした後、そのまま力の譲渡に入る。

 長い時を生きてきたファーストが溜め込んだ瘴気を受け入れるだけの器があるのは私だけ。
 数時間での譲渡は難しい。
 肌を合わせて魔力を受け取っていく。
 ただの瘴気を受け取るだけではない。

 私達にとっては人間の繁殖に近い行動なのかもしれない。

 何日も何日もかかり、ようやく力を全て受けとった私。

「ファー。無事でいてね?」
「……必ずここに戻ってこい」
「もちろんよ」

 初めてファーと別れた時のことを思い出した。

 きっと大丈夫よね? 

 私は珍しくファーのことを気に掛けている。ファーストの力を受け取った私は身体に変化があった。

 背格好は変わらないけれど、身体の右半分が黒く染まっている。

 ファーストは私に大部分を譲渡したからファーストの力を使うことが出来るわ。

 ファーストもほんの少しだけど私の力がファーストへ流れたようでファーストの髪が一房ほど白く変化していた。

 私はファーの部屋から最難関ダンジョンへと転移した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

処理中です...