上 下
8 / 16

8

しおりを挟む
 執事は何も言わずに私を父の執務室へと案内する。部屋では父と母がお茶を飲みながら過ごしていたようだ。そして父は1人で帰ってきた私を見て眉を顰めている。

「… イーリス、リューク君は?」

「聖女様とご一緒だと思いますわ」

「今日はどうだったのかしら?リューク君はしっかりイーリスの事をエスコートできたのかしら?」

「さぁ、どうでしょうか。聖女様はリューク様とファーストダンスを踊っておりましたわ。

リューク様はその後、私をダンスに誘おうとなさっておいででしたが、聖女様がリューク様、ディルク・エイントホーフェン伯爵子息様と一緒にいる事を望まれたので私とカノン様は居た堪れなくなり、帰ってきましたの。

結局リューク様と踊らず、ですわ」

私の説明に絶句しているわ。

そうよね。婚約者を目の前にファーストダンスを違う相手と踊るなんてありえない、非常識な話だもの。

「あと、カノン様と帰ろうと会場を出た時に第二王子殿下に呼ばれました。今日私達が急遽呼ばれた理由ですが、聖女様の行動を他の方たちに広めて王族と婚姻をさせない為だったそうですわ。

後日、ドレス等の掛かった費用は補填して下さるそうですの。それと私達の噂についてもいいようにして下さるらしいですわ。全く、有難い事ですわね」

 最後の方は嫌味になってしまったが仕方がない事だと思う。

父としてもまさかここで殿下達が絡んでくるとは思わなかったようだ。だが今後の伯爵家への影響を考えているのか眉間に皺が寄っている。

「お父様、このまま聖女様はリューク様を始めとした5人の令息の誰かと無理やり縁を結ぶような事が起こるだろうと殿下は予想しておりましたわ。少なからず我が家にも影響が出るでしょう」

私は報告という感じで話をしてから部屋を出た。

今日一日色々な事がありすぎたわ。

 私はドレスを脱ぎ、お風呂に入ってそのまますぐにベッドへと入った。マーラが心配してくれているけど、返事をする余裕もなかった。疲れて瞼が重い。


 気づけば既に外は鳥たちが囀っていたわ。昨日は本当に疲れた。精神的に。これから私はどうなるのかしら。とりあえず侯爵家から帰る事になるのかもしれないわね。

でも、式まで2ヶ月を切っているわ。公爵家は無理やり介入してくるのかしら?それとも既婚者に手を出すのかしら。それでは本人の外聞はかなり悪いと思うのだけれど。

「お嬢様、おはようございます。朝食の準備が出来ております」

「マーラ、有難う」

私は支度をして朝食を食べに行く。私が部屋に入ると、既に家族達は集まっていたわ。家族はお祈りをした後、みんなで食べ始める。

「イーリス、昨日話を聞いてからランドル侯爵家へ知らせを出した。侯爵からの返事があるまで家で過ごすといい。夫人の勉強は一旦保留だ」

「分かりました」

ララとバルトも私が居ない間の事を聞いて聞いてと話しながら食事は進んでいった。

「リス姉さま、今日の午後はお庭でお茶をしましょう?」

「いいわよ。ではまた午後ね」

きっとその頃には侯爵家からの連絡が入ると思う。

 私は食事を終えて部屋に戻って本を読む事にした。久々にゆっくり時間が流れている。夫人見習いで侯爵家に行ってからはこんな時間は殆ど取れなかったもの。取れたと思ったらリューク様が突撃してくるし。


私は気ままに時間を過ごしてからララとお茶を飲む為にお庭に出た。

「リス姉さま、こうしてまたお茶が出来るなんて嬉しいです。当分ここに居るのでしょう?」

「どうでしょうね。それはお父様が決める事でしょうけれど、どうなるのかしらね」

私達はマーラにお茶を淹れてもらいながら話をしていると、急に邸の玄関の方から騒がしくする音が聞こえてきた。

「何かあったのかしら」

 私たちは声のする方を見ていると、そこに現れたのはリューク様だった。リューク様は私に向かって歩いてくる。そしてそれを止めようとしている執事。私は何が起こったのかいまいち理解出来なかった。

だって、来るはずの無い人が伯爵家にいるのだもの。

「イーリス!!」

私を見つけたようで彼は走って来た。花束を持って。

「リューク様?どうされたのでしょうか?」

「イーリスに謝りに来た。昨日はすまなかった」

リューク様は頭を下げる。

「・・・謝罪はいいですわ。優先されるのは聖女様ですから」

私は昨日の事を思い出し、つらつらと愚痴を溢したくなるのを我慢する。どうやらララは気を遣って部屋に戻ってくれるようだ。

「本当にすまなかった。婚約者なのにダンスも踊らずに帰してしまうなんて貴族として最もしてはいけない事だった。

俺は公爵から頼まれていたとはいえ 、幼馴染のリシェに請われても婚約者を優先しなくてはいけなかった。これからは良い婚約者、良い夫として君の傍に居させて欲しい」

どういう事かしら。

よくわからない。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

処理中です...