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執事は何も言わずに私を父の執務室へと案内する。部屋では父と母がお茶を飲みながら過ごしていたようだ。そして父は1人で帰ってきた私を見て眉を顰めている。
「… イーリス、リューク君は?」
「聖女様とご一緒だと思いますわ」
「今日はどうだったのかしら?リューク君はしっかりイーリスの事をエスコートできたのかしら?」
「さぁ、どうでしょうか。聖女様はリューク様とファーストダンスを踊っておりましたわ。
リューク様はその後、私をダンスに誘おうとなさっておいででしたが、聖女様がリューク様、ディルク・エイントホーフェン伯爵子息様と一緒にいる事を望まれたので私とカノン様は居た堪れなくなり、帰ってきましたの。
結局リューク様と踊らず、ですわ」
私の説明に絶句しているわ。
そうよね。婚約者を目の前にファーストダンスを違う相手と踊るなんてありえない、非常識な話だもの。
「あと、カノン様と帰ろうと会場を出た時に第二王子殿下に呼ばれました。今日私達が急遽呼ばれた理由ですが、聖女様の行動を他の方たちに広めて王族と婚姻をさせない為だったそうですわ。
後日、ドレス等の掛かった費用は補填して下さるそうですの。それと私達の噂についてもいいようにして下さるらしいですわ。全く、有難い事ですわね」
最後の方は嫌味になってしまったが仕方がない事だと思う。
父としてもまさかここで殿下達が絡んでくるとは思わなかったようだ。だが今後の伯爵家への影響を考えているのか眉間に皺が寄っている。
「お父様、このまま聖女様はリューク様を始めとした5人の令息の誰かと無理やり縁を結ぶような事が起こるだろうと殿下は予想しておりましたわ。少なからず我が家にも影響が出るでしょう」
私は報告という感じで話をしてから部屋を出た。
今日一日色々な事がありすぎたわ。
私はドレスを脱ぎ、お風呂に入ってそのまますぐにベッドへと入った。マーラが心配してくれているけど、返事をする余裕もなかった。疲れて瞼が重い。
気づけば既に外は鳥たちが囀っていたわ。昨日は本当に疲れた。精神的に。これから私はどうなるのかしら。とりあえず侯爵家から帰る事になるのかもしれないわね。
でも、式まで2ヶ月を切っているわ。公爵家は無理やり介入してくるのかしら?それとも既婚者に手を出すのかしら。それでは本人の外聞はかなり悪いと思うのだけれど。
「お嬢様、おはようございます。朝食の準備が出来ております」
「マーラ、有難う」
私は支度をして朝食を食べに行く。私が部屋に入ると、既に家族達は集まっていたわ。家族はお祈りをした後、みんなで食べ始める。
「イーリス、昨日話を聞いてからランドル侯爵家へ知らせを出した。侯爵からの返事があるまで家で過ごすといい。夫人の勉強は一旦保留だ」
「分かりました」
ララとバルトも私が居ない間の事を聞いて聞いてと話しながら食事は進んでいった。
「リス姉さま、今日の午後はお庭でお茶をしましょう?」
「いいわよ。ではまた午後ね」
きっとその頃には侯爵家からの連絡が入ると思う。
私は食事を終えて部屋に戻って本を読む事にした。久々にゆっくり時間が流れている。夫人見習いで侯爵家に行ってからはこんな時間は殆ど取れなかったもの。取れたと思ったらリューク様が突撃してくるし。
私は気ままに時間を過ごしてからララとお茶を飲む為にお庭に出た。
「リス姉さま、こうしてまたお茶が出来るなんて嬉しいです。当分ここに居るのでしょう?」
「どうでしょうね。それはお父様が決める事でしょうけれど、どうなるのかしらね」
私達はマーラにお茶を淹れてもらいながら話をしていると、急に邸の玄関の方から騒がしくする音が聞こえてきた。
「何かあったのかしら」
私たちは声のする方を見ていると、そこに現れたのはリューク様だった。リューク様は私に向かって歩いてくる。そしてそれを止めようとしている執事。私は何が起こったのかいまいち理解出来なかった。
だって、来るはずの無い人が伯爵家にいるのだもの。
「イーリス!!」
私を見つけたようで彼は走って来た。花束を持って。
「リューク様?どうされたのでしょうか?」
「イーリスに謝りに来た。昨日はすまなかった」
リューク様は頭を下げる。
「・・・謝罪はいいですわ。優先されるのは聖女様ですから」
私は昨日の事を思い出し、つらつらと愚痴を溢したくなるのを我慢する。どうやらララは気を遣って部屋に戻ってくれるようだ。
「本当にすまなかった。婚約者なのにダンスも踊らずに帰してしまうなんて貴族として最もしてはいけない事だった。
俺は公爵から頼まれていたとはいえ 、幼馴染のリシェに請われても婚約者を優先しなくてはいけなかった。これからは良い婚約者、良い夫として君の傍に居させて欲しい」
どういう事かしら。
よくわからない。
「… イーリス、リューク君は?」
「聖女様とご一緒だと思いますわ」
「今日はどうだったのかしら?リューク君はしっかりイーリスの事をエスコートできたのかしら?」
「さぁ、どうでしょうか。聖女様はリューク様とファーストダンスを踊っておりましたわ。
リューク様はその後、私をダンスに誘おうとなさっておいででしたが、聖女様がリューク様、ディルク・エイントホーフェン伯爵子息様と一緒にいる事を望まれたので私とカノン様は居た堪れなくなり、帰ってきましたの。
結局リューク様と踊らず、ですわ」
私の説明に絶句しているわ。
そうよね。婚約者を目の前にファーストダンスを違う相手と踊るなんてありえない、非常識な話だもの。
「あと、カノン様と帰ろうと会場を出た時に第二王子殿下に呼ばれました。今日私達が急遽呼ばれた理由ですが、聖女様の行動を他の方たちに広めて王族と婚姻をさせない為だったそうですわ。
後日、ドレス等の掛かった費用は補填して下さるそうですの。それと私達の噂についてもいいようにして下さるらしいですわ。全く、有難い事ですわね」
最後の方は嫌味になってしまったが仕方がない事だと思う。
父としてもまさかここで殿下達が絡んでくるとは思わなかったようだ。だが今後の伯爵家への影響を考えているのか眉間に皺が寄っている。
「お父様、このまま聖女様はリューク様を始めとした5人の令息の誰かと無理やり縁を結ぶような事が起こるだろうと殿下は予想しておりましたわ。少なからず我が家にも影響が出るでしょう」
私は報告という感じで話をしてから部屋を出た。
今日一日色々な事がありすぎたわ。
私はドレスを脱ぎ、お風呂に入ってそのまますぐにベッドへと入った。マーラが心配してくれているけど、返事をする余裕もなかった。疲れて瞼が重い。
気づけば既に外は鳥たちが囀っていたわ。昨日は本当に疲れた。精神的に。これから私はどうなるのかしら。とりあえず侯爵家から帰る事になるのかもしれないわね。
でも、式まで2ヶ月を切っているわ。公爵家は無理やり介入してくるのかしら?それとも既婚者に手を出すのかしら。それでは本人の外聞はかなり悪いと思うのだけれど。
「お嬢様、おはようございます。朝食の準備が出来ております」
「マーラ、有難う」
私は支度をして朝食を食べに行く。私が部屋に入ると、既に家族達は集まっていたわ。家族はお祈りをした後、みんなで食べ始める。
「イーリス、昨日話を聞いてからランドル侯爵家へ知らせを出した。侯爵からの返事があるまで家で過ごすといい。夫人の勉強は一旦保留だ」
「分かりました」
ララとバルトも私が居ない間の事を聞いて聞いてと話しながら食事は進んでいった。
「リス姉さま、今日の午後はお庭でお茶をしましょう?」
「いいわよ。ではまた午後ね」
きっとその頃には侯爵家からの連絡が入ると思う。
私は食事を終えて部屋に戻って本を読む事にした。久々にゆっくり時間が流れている。夫人見習いで侯爵家に行ってからはこんな時間は殆ど取れなかったもの。取れたと思ったらリューク様が突撃してくるし。
私は気ままに時間を過ごしてからララとお茶を飲む為にお庭に出た。
「リス姉さま、こうしてまたお茶が出来るなんて嬉しいです。当分ここに居るのでしょう?」
「どうでしょうね。それはお父様が決める事でしょうけれど、どうなるのかしらね」
私達はマーラにお茶を淹れてもらいながら話をしていると、急に邸の玄関の方から騒がしくする音が聞こえてきた。
「何かあったのかしら」
私たちは声のする方を見ていると、そこに現れたのはリューク様だった。リューク様は私に向かって歩いてくる。そしてそれを止めようとしている執事。私は何が起こったのかいまいち理解出来なかった。
だって、来るはずの無い人が伯爵家にいるのだもの。
「イーリス!!」
私を見つけたようで彼は走って来た。花束を持って。
「リューク様?どうされたのでしょうか?」
「イーリスに謝りに来た。昨日はすまなかった」
リューク様は頭を下げる。
「・・・謝罪はいいですわ。優先されるのは聖女様ですから」
私は昨日の事を思い出し、つらつらと愚痴を溢したくなるのを我慢する。どうやらララは気を遣って部屋に戻ってくれるようだ。
「本当にすまなかった。婚約者なのにダンスも踊らずに帰してしまうなんて貴族として最もしてはいけない事だった。
俺は公爵から頼まれていたとはいえ 、幼馴染のリシェに請われても婚約者を優先しなくてはいけなかった。これからは良い婚約者、良い夫として君の傍に居させて欲しい」
どういう事かしら。
よくわからない。
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