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「イーリス、・・・久しぶりだな。君と会ったのは・・・」

「6年ぶりですわね、リューク様。父の仕事の為一緒に侯爵領を訪れた時ぶりですわ。まぁ、学院でリューク様をお見かけする事は何度かございましたが。帰って来たと思ったら突然部屋に入って来るとは失礼ではありませんか?」

「あぁ、すまん。急ぎの話だった」

「・・・それでご用件は?」

「来週の王宮の舞踏会に君を連れて参加する事になった。すぐに用意してほしい」

・・・王宮の舞踏会?

来週?

あまりの突然の出来事に驚きを隠せないでいる。

「無理ですわ。ドレスがありませんもの」

「何か騒ぎが聞こえたのだけれど、どうしたのかしら?」

「お義母様」

「母上!」

きっと執事が彼の帰宅を知らせてくれたのだろう。

「来週の王宮で開かれる舞踏会に参加するためにイーリスに伝えに来たんだ。王都の伯爵家に行ったが、イーリスがうちの領地にいると聞いて急いできた」

お義母様は頭を抑えている。

「リューク。貴方、非常識にも程があるわ。王宮の舞踏会なら半年前から分かっていることよね?それにドレスも今日、明日で出来る物ではないと知っているでしょう?」

「知っているさ。今回の舞踏会は婚約者同伴だったから不参加にしていたんだが、殿下から婚約者を連れて参加するように言われたんだよ」

なんという迷惑な話でしょうか。きっと殿下が直々に言うくらいなのだからリシェ様絡みの事に違いないわ。私は本をそっと本棚にしまい、ドレスの事を考える。

「イーリスさん、この間商会が来た時に一緒に注文したドレスならもう出来上がっていると思うわ。すぐに商会へ連絡しましょう。リューク、貴方いい加減にしなさいね。もう式も近いの、いつまでも聖女様に熱を上げていられないのよ」

「・・・言われなくても分かっている。それにリシェになんて熱を上げるわけがない」

リューク様は苦虫を噛み潰したような表情をして答えていた。

「ともかく、来週の王宮の舞踏会に参加するから。当日は伯爵家に迎えに行く」

「・・・分かりましたわ。伯爵家へ伝えておきます」

「イーリス、中庭でお茶でもどうか」

「お茶、ですか?」

リューク様からのお茶の誘い。今日は部屋でゆっくりしていたかったのだけれど。

「外は少し肌寒くなってきたのでこのままお部屋で頂きませんか?」

「・・・ああ、そうだった。確かに外は令嬢にとっては肌寒いかもしれない。気づかなかった」

リューク様は少しばつが悪そうにしている。

だが、ソファへ座ると私の淹れたお茶を美味しそうに飲んでいる。お茶を気に入ってもらえたようで良かったわ。

けれどその側でお義母様は物凄く私の為に怒ってくれているわ。もっと婚約者を大切にしなさいとか、家に帰ってきなさいとか、それはもう、色々と。

リューク様はお義母様の小言に居づらさを感じたのかしら早々王都へと戻っていった。

本当に困ったわ。

 私はマーラにお願いして伯爵家へと連絡を取った。突然の舞踏会の為に帰ってくる娘に何も言わず準備しておくと返事が返ってきた。夫人はリューク様の勝手な事にまた小言を溢しながらすぐに商会へと連絡してくれてドレスを準備してくれたわ。

どうやらすぐに持ってきてくれるそうだ。

間に合って良かった。

それにしてもリューク様は何を考えているのでしょうか?

 今は騎士として王宮で仕事をしているようですが王都にはタウンハウスは無いので寮に住んでいるのかしら。侯爵も夫人も私には極力彼の動向が目につかないように配慮されているようなのであまり気にしても意味はないですね。
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