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初めて見るサルドア国の王宮はラオワーダとはまた違った造りをしていて驚く事ばかりだ。
今回は親戚に会うという形で形式的な謁見室ではなく、王族専用のサロンへと私達は案内された。王族専用だから煌びやかなのかな?って思っていたけれど、そんな事はなかった。
むしろ裕福な平民が使っていそうな木の机や椅子。よく見てみると贅を凝らした至極の一品だけれど。気づかない人から見れば陳腐な感じにも見える。
私達はエリアス国王が来ると一礼をしてから席に座った。
「遠い所からよく来たね。今日はアインスと横にいる可愛い子だけかい?」
エリアス国王はアインス伯父さんと違ってシュッとした体型でいかにも王様の風格が漂ってくる感じだが、私達と話すと気のいいおじさんのようだ。エリアス国王陛下は従者達に下がるように指示をする。
これで完全に身内だけとなった。
「エリアス国王様、お初におめにかかります。モア・ウルダードです」
「あぁ、シーラから手紙を貰っているよ。モアは『時戻り』をしたんだって?」
「……はい」
「!!どういう事だい?『時戻り』って?」
伯父さんは私の言葉にとても驚いたようですぐに聞いてきた。
「おや、フルムから聞いていないのか?」
「あぁ、フルムのやつ。ダミアン君が理由あってこっちに移住したいから先にモアちゃんをこちらに呼び寄せて母に庇護してもらうと言っていたぞ?」
「まぁ、大体は合っているな。そもそもモアがこの国に移住を決めたのは『時戻り』をしたからだ。そうだな?」
エリアス国王陛下はそう私に確認した。私は一つ頷き口を開く。
「あのおとぎ話は迷信ではなかったのか」
伯父さんが呟く側で私は陛下に返事をした。
「……はい。母からエリアス国王様に宛てた手紙に詳しく書いていたと思うのですが、『時戻り』をする前、ウルダード家は王家により船舶を全て沈没させられて借金を背負わされました。その借金を帳消しにする代わりに私をクリストフェッル家に嫁がせるよう王命があったのです」
「王命を使ってまで、何故だ?」
「クリストフェッル家は王家の闇を担っていると婚姻してから教えられました。私を利用して更に情報を得る事を目的としていたようです。アルロア夫人が、話しておりました」
私は思い出すとやはり言葉が詰まってしまう。けれど、どんな事があっても覚えている事を全て話さなければいけない。
「モアちゃん、どんな事を話していたんだい?覚えている限りを詳しく教えて欲しい」
「……は、い。ですが、何分、私も抵抗したせいで薬を使って眠らされていたので、曖昧な部分も多いと思いますが……」
私は覚悟を決めて息を一つ吐いた後、話し始めた。
「死ぬ間際に言われた夫人の言葉。サルドア国を出し抜く事が出来たと言っていました」
あの後夫人は一人でずっと話していた。確かあの外交官の名前……。
「政治的な事は分からないのでどう出し抜いたのかは私には分からなかったです。ですが、サルドア国の外交官の名前はカルディオン・ヴァルーヒンという名でした」
私の言葉に二人とも顔を合わせて驚いたようだ。
「カルディオンからどう情報を得たのだ?」
「……あ、えっと、その……」
私は泣きたくなった。話さなくては信じて貰えないのは分かっているけれど、不確かな事だし、口に出すことでまた自分に対して嫌悪感が湧いてくる。
「ラオワーダで『紳士クラブ』という所へ連れていったようです。そこで、あの、……、……」
「そこでどうしたんだ?」
「……眠らされた、私を、抱いた、と。母に似た、私を使った、と言って、いました」
私は俯き涙を必死に堪えながらそう告げた。
一瞬、沈黙がサロンを包んだ。国王様もアインス伯父さんもそこから一段と声が低くなりながら話し始める。
「あいつめっ。まだシーラの事を思っていたのかっ」
アインス伯父さんは独り言のように口に出している。
「……そうか。辛い過去を思い出させて済まなかったな。だが、王太后に会った時に遡る前の話を詳しく聞かなければいけない。また辛い思いをさせてしまうだろう。だが、モアやウルダード家はこちらでしっかりと保護をするからその辺は心配しないで欲しい」
「……はい。すみません。私も、お婆様と話す時までにもっと整理して話せるようにしておきます」
「モアちゃん、辛かっただろう」
おじさんは私をギュッと抱きしめて背中をポンポンしている。子供をあやすように。
「こうしてモアが泣いている所を見ると幼いころのシーラを思い出すな。あぁぁぁ~、そう思うとアイツはやっぱり許せん!確か今外交官補佐をしておったな……」
エリアス国王様は何かを考えている。
「モアちゃん、はい、あーん」
伯父さんはテーブルに用意された一口サイズのドライフルーツを私の口に入れた。
「あぁ、やっぱり可愛いね。幼いころのシーラを見ているようだ。これをやるといつもシーラは怒っていたな」
「そうだな。モア、こっちへおいで」
そうして今度はエリアス国王様がクッキーを私の口元へ持ってきて食べる様に促す。毎回こんな事を母にしていたのだろうか?
さっきまでの悲しみがフッと去っていく。
きっと勝気な母は鬱陶しくなって怒っていたのかもしれない。もぐもぐと差し出されるお菓子を食べながら思った。
そこからは伯父さんとエリアス国王様は近況報告のような雑談をした後、侯爵家へと戻る事になった。
エリアス国王様からお婆様の離宮へ向かう時は王宮から馬車で連れていくと言われたわ。
その時に書記官を同席させるとのこと。きっちりと私の『時戻り』について記録を取らなければいけないらしい。
辛い記憶ではあるけれど、まだ私が眠らされている中での出来事だった事が救いだと思う。記憶がはっきりしていれば私はとうの昔に壊れていたに違いないもの。
大丈夫、私はまだ大丈夫よ。
人生のやり直しを今、しているのだもの。大丈夫。自分にそう言い聞かせる。
今回は親戚に会うという形で形式的な謁見室ではなく、王族専用のサロンへと私達は案内された。王族専用だから煌びやかなのかな?って思っていたけれど、そんな事はなかった。
むしろ裕福な平民が使っていそうな木の机や椅子。よく見てみると贅を凝らした至極の一品だけれど。気づかない人から見れば陳腐な感じにも見える。
私達はエリアス国王が来ると一礼をしてから席に座った。
「遠い所からよく来たね。今日はアインスと横にいる可愛い子だけかい?」
エリアス国王はアインス伯父さんと違ってシュッとした体型でいかにも王様の風格が漂ってくる感じだが、私達と話すと気のいいおじさんのようだ。エリアス国王陛下は従者達に下がるように指示をする。
これで完全に身内だけとなった。
「エリアス国王様、お初におめにかかります。モア・ウルダードです」
「あぁ、シーラから手紙を貰っているよ。モアは『時戻り』をしたんだって?」
「……はい」
「!!どういう事だい?『時戻り』って?」
伯父さんは私の言葉にとても驚いたようですぐに聞いてきた。
「おや、フルムから聞いていないのか?」
「あぁ、フルムのやつ。ダミアン君が理由あってこっちに移住したいから先にモアちゃんをこちらに呼び寄せて母に庇護してもらうと言っていたぞ?」
「まぁ、大体は合っているな。そもそもモアがこの国に移住を決めたのは『時戻り』をしたからだ。そうだな?」
エリアス国王陛下はそう私に確認した。私は一つ頷き口を開く。
「あのおとぎ話は迷信ではなかったのか」
伯父さんが呟く側で私は陛下に返事をした。
「……はい。母からエリアス国王様に宛てた手紙に詳しく書いていたと思うのですが、『時戻り』をする前、ウルダード家は王家により船舶を全て沈没させられて借金を背負わされました。その借金を帳消しにする代わりに私をクリストフェッル家に嫁がせるよう王命があったのです」
「王命を使ってまで、何故だ?」
「クリストフェッル家は王家の闇を担っていると婚姻してから教えられました。私を利用して更に情報を得る事を目的としていたようです。アルロア夫人が、話しておりました」
私は思い出すとやはり言葉が詰まってしまう。けれど、どんな事があっても覚えている事を全て話さなければいけない。
「モアちゃん、どんな事を話していたんだい?覚えている限りを詳しく教えて欲しい」
「……は、い。ですが、何分、私も抵抗したせいで薬を使って眠らされていたので、曖昧な部分も多いと思いますが……」
私は覚悟を決めて息を一つ吐いた後、話し始めた。
「死ぬ間際に言われた夫人の言葉。サルドア国を出し抜く事が出来たと言っていました」
あの後夫人は一人でずっと話していた。確かあの外交官の名前……。
「政治的な事は分からないのでどう出し抜いたのかは私には分からなかったです。ですが、サルドア国の外交官の名前はカルディオン・ヴァルーヒンという名でした」
私の言葉に二人とも顔を合わせて驚いたようだ。
「カルディオンからどう情報を得たのだ?」
「……あ、えっと、その……」
私は泣きたくなった。話さなくては信じて貰えないのは分かっているけれど、不確かな事だし、口に出すことでまた自分に対して嫌悪感が湧いてくる。
「ラオワーダで『紳士クラブ』という所へ連れていったようです。そこで、あの、……、……」
「そこでどうしたんだ?」
「……眠らされた、私を、抱いた、と。母に似た、私を使った、と言って、いました」
私は俯き涙を必死に堪えながらそう告げた。
一瞬、沈黙がサロンを包んだ。国王様もアインス伯父さんもそこから一段と声が低くなりながら話し始める。
「あいつめっ。まだシーラの事を思っていたのかっ」
アインス伯父さんは独り言のように口に出している。
「……そうか。辛い過去を思い出させて済まなかったな。だが、王太后に会った時に遡る前の話を詳しく聞かなければいけない。また辛い思いをさせてしまうだろう。だが、モアやウルダード家はこちらでしっかりと保護をするからその辺は心配しないで欲しい」
「……はい。すみません。私も、お婆様と話す時までにもっと整理して話せるようにしておきます」
「モアちゃん、辛かっただろう」
おじさんは私をギュッと抱きしめて背中をポンポンしている。子供をあやすように。
「こうしてモアが泣いている所を見ると幼いころのシーラを思い出すな。あぁぁぁ~、そう思うとアイツはやっぱり許せん!確か今外交官補佐をしておったな……」
エリアス国王様は何かを考えている。
「モアちゃん、はい、あーん」
伯父さんはテーブルに用意された一口サイズのドライフルーツを私の口に入れた。
「あぁ、やっぱり可愛いね。幼いころのシーラを見ているようだ。これをやるといつもシーラは怒っていたな」
「そうだな。モア、こっちへおいで」
そうして今度はエリアス国王様がクッキーを私の口元へ持ってきて食べる様に促す。毎回こんな事を母にしていたのだろうか?
さっきまでの悲しみがフッと去っていく。
きっと勝気な母は鬱陶しくなって怒っていたのかもしれない。もぐもぐと差し出されるお菓子を食べながら思った。
そこからは伯父さんとエリアス国王様は近況報告のような雑談をした後、侯爵家へと戻る事になった。
エリアス国王様からお婆様の離宮へ向かう時は王宮から馬車で連れていくと言われたわ。
その時に書記官を同席させるとのこと。きっちりと私の『時戻り』について記録を取らなければいけないらしい。
辛い記憶ではあるけれど、まだ私が眠らされている中での出来事だった事が救いだと思う。記憶がはっきりしていれば私はとうの昔に壊れていたに違いないもの。
大丈夫、私はまだ大丈夫よ。
人生のやり直しを今、しているのだもの。大丈夫。自分にそう言い聞かせる。
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