【完結】魔女首のラナ

まるねこ

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ツィリル編

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「ツィリル様!ここにいたんですねっ」
「あぁ、シャロン。久しぶりだな」
「ツィリル様って凄いんですね。失われた魔法を復活させるなんて」

 聖女シャロンの目は輝いている。

 今日は魔法使い候補者選定の日。

 僕は、あ、もう大人になったから私と言わないとね。グリーヌに叱られてしまう。


 王城に魔法を使いたい希望者を募り、集まった。
 ラナは、魔力の有無は髪の毛や目の色に現れると言っていた。

 もちろん魔法が使える様になれば魔獣退治にも参加する覚悟のある者が条件なんだ。

 シャロンは聖女なので特別枠の参加となった。

 ラナの話から考えるとシャロンの魔力はとても少ない。辛うじて光魔法が使える程度。

 実際、私の方が光魔法の種類も使えるし効果も高い。だからといって否定はしてはいけない。

 長年国に協力してきた教会を立てておかないと色々と困るからね。



 今回城に集まった者は約三十人。

 平民が多いようだ。ラナの言っていた事は本当なのかと疑いながら調べていく。

「これより魔法使い希望者の選定に入る。今から私とここにいるアレフィオ、グリーヌが選定役を務める」

 私は集まった人々を整列させ、一人一人手を出させて魔力を流していく。
 やはり薄い髪の色をした平民は魔力を感じ取ることが出来ないようだ。

 こうしているとラナと初めて会った事を思い出す。

 僕はラナが大好きだった。
 今でも好きな気持ちは変わらないと思っている。
 けれど、最近、なんだか心が弾まないんだ。

 今はラナと一緒に居るより、魔法を広めたいと別の事に頭が占める様になった。

 何かを少しずつ忘れていくような感覚が何処かにあってその違和感が私にはよく分からない。

 グリーヌに聞いてもアレフィオに聞いても納得のいく答えは出てこないんだ。

 まぁ、そのうちその違和感に気づくかもしれないけれど、今はまだ魔法普及に向けて一歩を踏み出した所だ。

 今、気を抜く事は出来ない。

 そうして私達は魔力持ちを選別していった。

 残ったのは五人。
 やはり髪の毛の色が濃い貴族だった。
 さすがに嫡男はいなかったが。

 唯一青い髪と緑の目をしたシャロドア伯爵令嬢の長女フラヴィが今回の魔法使い希望者に参加していた。

 彼女の家は由緒正しいが家はあまり裕福ではない。

 弟の学費を稼ぐために今回参加したのだとか。彼女の髪の毛の色は私やアレフィオと同じくらい濃い色をしている。

 かなりの魔力量なのだろう。

 私が直接魔力を流すと、誰よりも反応が良かった。期待をしていいと思う。

 そうして五人の魔法使い候補者の訓練が始まった。

 私は執務もあって毎日参加出来ないが、アレフィオやグリーヌが代わりに指導をしている。

 私も成人して父の勧めもあり、グリーヌは乳母を卒業したんだ。

 寂しいけれど、グリーヌは魔法使いの育成担当になった。

 グリーヌは主に魔法円を扱う。
 僕専任の護衛であるアレフィオは魔法担当だ。

 予定としては五名を育て上げ、一人前の魔法使いとなった時に教師として今後は活躍してもらうつもりだ。

 そして素養のある小さな子のスカウト。
 幼少期からの訓練で魔力量が増えるのだ。
 一気に魔法使いを増やしていきたい。



「ツィリル王太子殿下、そろそろ婚約者をお決め下さい」

 執務室へ書類を届けに来たと思ったらまたそのことか。

 近頃、宰相が口うるさく私に言ってくる。これはグリーヌも同じ。

 候補者の名を見るけれど、あまり興味が引かれない。どうしても結婚しなければいけないと言うのなら魔力持ちがいい。

 平民の間では聖女と僕が結婚するのではないかとの噂で持ちきりなのだそう。

 おっと僕ってまた言ってしまった。

 彼女は可愛いし、優しいが、それだけだ。

 そう思えば私より年下だがフラヴィの方がしっかりしているし、才女だ。魔力量も豊富。

 金はないが、貴族であるし、由緒正しい家柄で申し分ない。

「よし、いいことを考えた。宰相、フラヴィ・シャロドア伯爵令嬢を婚約者はどうだ?彼女は今年15歳だ。年齢的にもいいだろう?」
「彼女は伯爵令嬢ではありますが、領地も森に囲まれて、収益も微々たる物。ツィリル王子の後ろ盾になりえません」
「いや、これからどこの領地よりも収益は望めるようになる。アレフィオ、そうだろう?」

 今日は私の護衛に就いていたアレフィオに話を振ってみる。

 私はアレフィオとグリーヌが一儲けしたのを知っているからね。

「……そうですね。彼女の家であれば魔獣退治を通して利益を大幅に上げる事が可能です。幸いな事に彼女は才女でもありますし、家のためなら喜んで殿下と結婚するでしょう」
「ほらっ。アレフィオもそう言っている」
「アレフィオ、それはどういう事だ?詳しく話してくれ」

「彼女は水魔法が使えると思われます。弟も水魔法や緑魔法が使える様になるでしょう。今、屑宝石と呼ばれている魔石は魔法を容れる事が可能なのです。現在もツィリル王太子殿下が装着している装具もその一つ。これが世に出れば、金銭的な問題は一気に解決するでしょう」

「そうか。他の家はどうなのだ?」
「残念ながら魔法使いを希望する貴族は今回の呼びかけに応じなかった。上位貴族であれば成れる者も多いでしょう。ですが、今後の彼等の活躍では貴族も挙って魔法使いになる動きが出てくるのだと思われます」
「そうか。では殿下の仰る通り、シャロドア伯爵家にすぐ打診をしてきます」
「あぁ、頼んだ」

 宰相は意気揚々と部屋を出て行った。反対に心配そうにしていたのはアレフィオだ。

「ツィリル様、突然にフラヴィ嬢の名を挙げて良かったのですか?」
「んーどうだろう? 伯爵自体は諸手に賛成してくれると思う。あの一族なら皆、魔法が使えるだろう? 弟に教えて、そこから家族に使える様にさせればいい。それに、フラヴィ嬢なんだが、きっと彼女も賛成してくれると思う」
「その根拠もないのに賛成とは可笑しくないですか? まぁ、家の経済状況を見れば嫁ぐのもやむなしと思われるのかもしれませんが」
「いや、そうじゃないよ!? 魔法が使えそうだから無理やり婚約者に挙げたって事じゃないからね? 何て言うのかな、難しいけれど、魔力の波長が僕としっくり合ったような感じなんだ。
 誰だっけ、確か僕のノートにも書いていただろう? まさにノートに書いていた感じだったんだ!」
「……そうでしたか。では何の問題もありませんね。では伯爵家に大きな財力を付ける手筈を整えておきますか」
「あぁ、宜しく頼む。屑魔石をありったけ買うように。シャロドア家に作らせてお前の所で売る手配をすればいいんじゃないか?」
「……バレていましたか。畏まりました」
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