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私は少ししてから駐屯所に向かった。エサイアス様と一緒に食事に行く約束をしたからだ。
「え、エサイアス様、お待たせしました。遅くなってごめんなさい」
エサイアス様の笑顔を見るとなんだか恥ずかしくて照れてしまう。
「待っていないよ。さぁ、行こうか」
私達は街の中を歩いていく。夕方なので店は閉店の準備をしているが、食堂や飲み屋は明かりが照らされ活気がある。店の外にいても笑い声が聞こえてくる。
「賑やかですね。このお店にしますか?」
「あぁ、ここにしようか」
私達は食堂に入っていった。店の中では店員が楽器を鳴らし、客が楽器に合わせて踊ったりととても賑やかな食堂だった。
「お兄さん達、注文はどうします?」
「フォッコの煮込みとシャーロ鳥の丸焼き、あとロティを二つ」
「フォッコとシャーロ、ロティ二つね!」
元気のいい掛け声と共に店員は厨房へ注文を出しにいく。
「この街は王都に近いからたまに騎士団も魔獣討伐に寄るんだ。
だから魔獣はあまりいないからこの街の滞在は数日程度になるかな」
「そうですね。ここに来る途中も出会った魔獣は一匹だけだったし、街が活気づいているのもそのおかげかもしれませんね」
「異次元の空間も閉じたから不安もかなり減ったんじゃないかな。魔獣の恐怖は本当に大きいからね」
注文した品物がすぐに運ばれてきた。私達はあえて王都に戻った時の話はせずに街の様子や明日の予定の話をしながら食事をしていると。
「英雄エサイアス様ですか?」
数名の女の子が私達のテーブルを囲むように声を掛けてきた。
護衛はすぐに私の側にきて離れるように話をする。けれど、女の子達は睨みながら私から距離を取るけれど、エサイアス様と話がしたいようで私達に構わず話を続けようとしている。
「君達は私に何か用なのかな?」
エサイアス様が一言口にすると女の子達は顔を赤らめて喜んでいる。その中の一人がモジモジしながら言った言葉に私は驚いた。
「あの、どうか私達と、この中の一人でもいいです。一晩共にしていただけませんか?」
巡視をしていると街や村の女性からモテるのは知っていたわ。滞在している間だけの恋人を作る騎士だっている。
理解はしているけれど、いい感情は持てない。
エサイアス様は断ってくれるのか?
まさか喜んでいるのか?
たった一瞬で色々な事を考えてしまう。私がここにいるのに、という感情が芽生える。すると彼は微笑みながら女の子達に向き合って話す。
「最近の女の子達は積極的なんだね。それは悪いことではないけれど感心しないな。
残念ながら私は君達に興味はないよ。
申し訳ないが食事中だ。他の誰かに声をかければいいんじゃないか?」
「で、でも。エサイアス様には婚約者がいないと聞きました。
ずっと憧れていて……。一夜だけで良いのです。誰にも言いません。どうか私達に一夜の夢をお与え下さい」
彼女達は引き下がらない様子。私が声をかければいいのかも迷ってしまう。どうしようかと護衛騎士に視線を向けると、護衛騎士はうんざりしている様子。
もしかして私が知らないところでこのようなやり取りがあったのかもしれない。
護衛騎士が女の子達に声をかけ、排除しようと動いた時。
「私は君達に興味がないと何度言えば分かってくれるのかな? 婚約者はいなくても好きな人がいるし、その人には誠実でありたいんだ」
「黙っていればばれないです。私達は絶対に話しません!」
「……黙っていればばれない、ねぇ。ナーニョ様にこんな阿婆擦れ女達を目に入れさせたくはない。帰ってくれるかな?」
「で、でも……」
あれだけ拒否されても引き下がろうとしない彼女達に内心は動転している。
「分からないのかな? バレなければいいという問題じゃないんだよ。私は今、口説き落とそうと必死だ。それを邪魔するのは許さない。
英雄と言われている私でさえ選ばれる身なのでね。彼女からすれば私なんて大勢いるうちの一人。
さぁ、私に構っていないで他をあたってくれ」
エサイアス様がそう言い終わると同時に護衛が彼女達を遠ざける。彼女達もようやくエサイアス様の言葉を理解したのだろう。私を一目見てから離れていった。
「ナーニョ様、ごめんね。不快な思いをさせてしまった」
「いいえ、私は構いません。女性から積極的に声をかけてきたのには驚きました」
獣人の世界は男女平等だ。
この世界に来て男尊女卑なのだと知った時は驚いた。
貴族と違い平民ならもう少し女性が強くて平等に近いと前にマイアさんが言っていたわ。巡視をしていく中でやはり男の人が女性を守るという意識が強いのは理解していたが、女性から積極的に何度も声を掛けてくるのは新鮮に思った。
「そうだね。私の肩書で声を掛けてくる女性はたまにいるけれど、私はナーニョ様以外に興味は全くない。私はずっとナーニョ様のことだけだよ」
私はその言葉を聞いて顔を赤くする。まさかこんな人の多いところで言われるとは思ってもみなかった。
「エサイアス様、その辺で……。ケイルート王太子殿下からも言われているでしょう?」
「あ、あぁ。そうだったな。殿下は相変わらず抜け目がない」
後から聞いたのだが、ケイルート兄様は護衛達に『ナーニョに近づく者全て排除せよ。エサイアスであってもだ! むしろエサイアスをメインに排除せよ』と言っていたらしい。
護衛達は苦笑していたわ。全く気づかない私も、私だ。
でも、こうして兄様達にずっと守られていたのか。
今まで苦労なくこれたのもみんなのおかげだ。
私達は食事を早々に終えて部屋に戻っていった。
「え、エサイアス様、お待たせしました。遅くなってごめんなさい」
エサイアス様の笑顔を見るとなんだか恥ずかしくて照れてしまう。
「待っていないよ。さぁ、行こうか」
私達は街の中を歩いていく。夕方なので店は閉店の準備をしているが、食堂や飲み屋は明かりが照らされ活気がある。店の外にいても笑い声が聞こえてくる。
「賑やかですね。このお店にしますか?」
「あぁ、ここにしようか」
私達は食堂に入っていった。店の中では店員が楽器を鳴らし、客が楽器に合わせて踊ったりととても賑やかな食堂だった。
「お兄さん達、注文はどうします?」
「フォッコの煮込みとシャーロ鳥の丸焼き、あとロティを二つ」
「フォッコとシャーロ、ロティ二つね!」
元気のいい掛け声と共に店員は厨房へ注文を出しにいく。
「この街は王都に近いからたまに騎士団も魔獣討伐に寄るんだ。
だから魔獣はあまりいないからこの街の滞在は数日程度になるかな」
「そうですね。ここに来る途中も出会った魔獣は一匹だけだったし、街が活気づいているのもそのおかげかもしれませんね」
「異次元の空間も閉じたから不安もかなり減ったんじゃないかな。魔獣の恐怖は本当に大きいからね」
注文した品物がすぐに運ばれてきた。私達はあえて王都に戻った時の話はせずに街の様子や明日の予定の話をしながら食事をしていると。
「英雄エサイアス様ですか?」
数名の女の子が私達のテーブルを囲むように声を掛けてきた。
護衛はすぐに私の側にきて離れるように話をする。けれど、女の子達は睨みながら私から距離を取るけれど、エサイアス様と話がしたいようで私達に構わず話を続けようとしている。
「君達は私に何か用なのかな?」
エサイアス様が一言口にすると女の子達は顔を赤らめて喜んでいる。その中の一人がモジモジしながら言った言葉に私は驚いた。
「あの、どうか私達と、この中の一人でもいいです。一晩共にしていただけませんか?」
巡視をしていると街や村の女性からモテるのは知っていたわ。滞在している間だけの恋人を作る騎士だっている。
理解はしているけれど、いい感情は持てない。
エサイアス様は断ってくれるのか?
まさか喜んでいるのか?
たった一瞬で色々な事を考えてしまう。私がここにいるのに、という感情が芽生える。すると彼は微笑みながら女の子達に向き合って話す。
「最近の女の子達は積極的なんだね。それは悪いことではないけれど感心しないな。
残念ながら私は君達に興味はないよ。
申し訳ないが食事中だ。他の誰かに声をかければいいんじゃないか?」
「で、でも。エサイアス様には婚約者がいないと聞きました。
ずっと憧れていて……。一夜だけで良いのです。誰にも言いません。どうか私達に一夜の夢をお与え下さい」
彼女達は引き下がらない様子。私が声をかければいいのかも迷ってしまう。どうしようかと護衛騎士に視線を向けると、護衛騎士はうんざりしている様子。
もしかして私が知らないところでこのようなやり取りがあったのかもしれない。
護衛騎士が女の子達に声をかけ、排除しようと動いた時。
「私は君達に興味がないと何度言えば分かってくれるのかな? 婚約者はいなくても好きな人がいるし、その人には誠実でありたいんだ」
「黙っていればばれないです。私達は絶対に話しません!」
「……黙っていればばれない、ねぇ。ナーニョ様にこんな阿婆擦れ女達を目に入れさせたくはない。帰ってくれるかな?」
「で、でも……」
あれだけ拒否されても引き下がろうとしない彼女達に内心は動転している。
「分からないのかな? バレなければいいという問題じゃないんだよ。私は今、口説き落とそうと必死だ。それを邪魔するのは許さない。
英雄と言われている私でさえ選ばれる身なのでね。彼女からすれば私なんて大勢いるうちの一人。
さぁ、私に構っていないで他をあたってくれ」
エサイアス様がそう言い終わると同時に護衛が彼女達を遠ざける。彼女達もようやくエサイアス様の言葉を理解したのだろう。私を一目見てから離れていった。
「ナーニョ様、ごめんね。不快な思いをさせてしまった」
「いいえ、私は構いません。女性から積極的に声をかけてきたのには驚きました」
獣人の世界は男女平等だ。
この世界に来て男尊女卑なのだと知った時は驚いた。
貴族と違い平民ならもう少し女性が強くて平等に近いと前にマイアさんが言っていたわ。巡視をしていく中でやはり男の人が女性を守るという意識が強いのは理解していたが、女性から積極的に何度も声を掛けてくるのは新鮮に思った。
「そうだね。私の肩書で声を掛けてくる女性はたまにいるけれど、私はナーニョ様以外に興味は全くない。私はずっとナーニョ様のことだけだよ」
私はその言葉を聞いて顔を赤くする。まさかこんな人の多いところで言われるとは思ってもみなかった。
「エサイアス様、その辺で……。ケイルート王太子殿下からも言われているでしょう?」
「あ、あぁ。そうだったな。殿下は相変わらず抜け目がない」
後から聞いたのだが、ケイルート兄様は護衛達に『ナーニョに近づく者全て排除せよ。エサイアスであってもだ! むしろエサイアスをメインに排除せよ』と言っていたらしい。
護衛達は苦笑していたわ。全く気づかない私も、私だ。
でも、こうして兄様達にずっと守られていたのか。
今まで苦労なくこれたのもみんなのおかげだ。
私達は食事を早々に終えて部屋に戻っていった。
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