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カナンナの街に入り、騎士達は駐屯所に各々荷物を運んでいく。

私はこの街の神官に案内されて神殿の客室に向かう。荷物を置いてポフリとベッドに寝っ転がった私。

先ほどのエサイアス様の言葉を思い出す。

ジワジワと湧き出てくる想い。

……素直に嬉しいと思った。でも、不安な気持ちはかき消せない。

私が素直にエサイアス様の言葉を受け入れてもいいのだろうか?
父は反対するだろうか?

養女とはいえ王女の私が勝手に返事をしてはいけないのだろうか。悶々と一人考えていると、ローニャから連絡が入った。

『お姉ちゃん、そろそろ街についた?』
『今、部屋で荷物を降ろしたところよ。そっちはどう?変わった事はない?』
『こっちは変わらずかなぁ。あ、でも、研究所の人達が言ってたんだけど、今神殿で預かっている子供の魔力を測っているんだけど、魔力の訓練を早めに受けると伸びがいいらしいって。
必死に訓練していけば私達と同じくらいの魔力になるかもしれないんだって。凄いよね。やっぱり人間と獣人との差なのかなぁ。
ちょっと悔しいなって思ったんだ。
でも、私達位の魔力の人達が増えれば私達の持つ役割も減って少しは自由も増えるんじゃないかなって思ってる。
王女様ってドレスを着てキラキラしていて綺麗だけど、色々窮屈なのが分かったわ』

『ふふっ。ローニャはドレスを着て舞踏会で踊ってみたいって言ってたわね。相手は見つかりそうなの?』
『うーん。どうかなぁ。あんまり考えた事がないし、いないかなぁ。
いたとしても兄様が全部反対して結婚出来なさそうだよね。おねえちゃんはいいよね。エサイアス様がいるんだし』

私はローニャの言葉にドキリとした。

『エサイアス様?』
『え? おねえちゃん気づいてないの?』
『……どういうこと?』
『え? エサイアス様ってヘタレだし、お姉ちゃんも鈍感すぎて周りがヤキモキしっぱなしだよ!』

ローニャの言葉に衝撃を受けた私。私ってそんなに鈍感だったの!?それに周りは知っていた??

『ローニャ、みんな知っていたの?』
『え!? えーーっ!? 鈍感過ぎるよ……。エサイアス様って会った時からお姉ちゃんに好き好きビ光線出してたよ?
兄様をあからさまに牽制していたし。他の騎士達が話しかけようもんなら威嚇して追い払っていたのに』
『そうなの??』

『エサイアス様がいつ告白するか賭けてる騎士もいたんだよ。ヘタレだよね』
『この間、エサイアス様からこの巡視が終わったら結婚してほしいって言われたの。でも、悩んでる』
『どうして?悩むことなんてあった?』
『だってエサイアス様はこの国の英雄なのよ?私なんかが一緒になっていいのかなって思って』
『おねえちゃん……。あのね、エサイアス様がこの国の英雄ならお姉ちゃんはこの世界の聖女なんだよ?
英雄と聖女が結婚なんて伝説になるしかないじゃない。あ、因みに私は伝説の魔法使いになるつもりだからね!』
『え?私は聖女、なの?』
『そうだよ? 指輪の聖女って呼ばれているのを知らないの?
いくらお姉ちゃんが否定してもお姉ちゃんより治癒魔法が上手な人はいないからね?治療した人達はみんなお姉ちゃんの信者。
むしろエサイアス様がお姉ちゃんと結婚するために必死になってると思うわ』

『全く知らなかった。でも、エサイアス様と結婚なんてお父様達は許してくれるのかな?』
『許すと思うよ? むしろエサイアス様以外とは結婚させないんじゃないかな? そっちの方は安心していいと思うよ。
お姉ちゃんの気持ちで決めていいんじゃない?』
『……そっか。分かった。しっかり考えるね』

そうして妹と話を終えた。

……私の気持ち、か。

それにしても指輪の聖女って呼ばれていたのね。

全く知らなかった。

聖女と言われ否定していたけれど、いつの間にか否定する事もなくなった。

みんなの感謝の気持ちを沢山受け取るようになって呼ばれ方も気にしなくなっていた。

グリークス神官長も言っていたのはきっとこのことなのだと今更ながら理解する。


私は我儘を言ってもいいのかな。
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