上 下
108 / 143

108

しおりを挟む
「おねえちゃん、騎士さん達は凄いんだね! いつもこうして魔獣を討伐しているの?」
「そうよ。ほらっ余所見しないで。私達は魔獣の動きを止めるのよ」

私はスールンの指輪を付けて蔦で魔獣の動きを止める。ローニャはツィーランの指輪を付けて足元を凍り付かせ動きを止める。動けなくなった魔獣は騎士達が息の根を止めていく。

ローニャもいるおかげでいつもより短時間で討伐する事ができた。こと切れた魔獣たちを見てローニャが過去を思い出すのではないかと不安だったけれど、大丈夫だったようだ。

素材になる玉が欲しいと騎士達に取ってもらっている。

毎日研究所で勉強や研究をしていると言っていたから怖いというよりも、知りたい、素材が欲しい思いが強いようだ。

午前中に巡視が終わり、騎士達の午後は自由時間になる。
いつもは鍛錬をしたり、買い物をしたりしておもいおもいに過ごしているのだが、今回は街に人が戻りつつあるため手伝いをしている騎士の姿もあった。

「おねえちゃん、午後からは何をするの?」
「私は午後から怪我人の治療と畑や井戸に魔法を掛けて回るの。ローニャもついてくる?」
「うん! 行く! 畑や井戸がどんなものか見てみたかったんだ」

午前中だけでもかなり動いたけれど、疲れてはいないらしい。私達は食事を終えた後、村の方へ向かった。



「ナーニョ様!! 待っていました! お前、誰だ? あっ、ナーニョ様と同じ耳がある!」

私の姿を見て駆け寄ってきたカシュール君。ローニャを見て警戒している様子。ローニャはむっとしている。

「お前って失礼ね! 私はローニャよ! ナーニョお姉ちゃんの妹なんだから! 覚えておきなさいよね!」
「……ナーニョ様の妹。君も魔法が使えるの、か?」
「えぇ、もちろんよっ!」
「ローニャ、彼はカシュール君よ。ローニャの一つ下なの。彼は魔力持ちで今は封印しているわ」
「やば、封印!? カシュール君だっけ、何やったの? 聞いていたけど、街の人達は本当にみんな魔力を持っているのかな?」
「そうなの。全員をみたわけではないけれど、かなりの人数がいるわ」
「おねえちゃん! 凄いね!」

ローニャはカシュール君を気に留めることなく話をする。カシュール君はというと、少し不貞腐れているようだ。

「カシュール君、今日は治療する人はいるかな?」
「ナーニョ様、昨日治療してくれたから今日は大丈夫だよ」
「それなら良かったわ。じゃぁ、今日は畑を中心に魔法を掛けていくわ。畑に掛ける魔法はローニャの方が得意だからローニャにお願いしたいわ」
「もちろん! 研究所で一杯勉強してきたし、任せて」



カシュール君の案内で畑にやってきた。

「じゃぁ、やるね!『サーロー』」

ローニャが元気よく魔法を唱えると、畑が光った。同じ指輪を使っていても私の掛ける魔法とはやはり違う。植物もいきいきしている。

「凄い! ローニャ様、凄いよ! ちょっと疑ってた。ごめんなさい。凄いや。植物達が元気になっている!」
「でしょう? これで収穫量は例年の二倍はくだらないわ」

ローニャの言葉に眉を下げるカシュール君。

「カシュール君、どうしたの?」
「俺もやってみたい。今まで何も考えず好き放題使ってきたけど、ナーニョ様もローニャ様も一生懸命人々のために魔法を使っている。
俺も、もっと勉強したい。もっと魔法の事が知りたい、です」
「いいわ、教えてあげても。でも教科書は研究室内でしか読めないの。王都に来る勇気があるなら教えるわ」

ローニャは少しお姉さんぶってカシュール君に話をする。

「本当!? 俺、王都に行きたい連れて行って欲しいです!」

即答したカシュール。ローニャはエッヘンと声が聞こえそうなほど胸を張っている。

「カシュール君、魔法を学びたい気持ちは分かったわ。けれど、ご両親の許可が無い限りは王都に連れていく事はできないの。二人ともカシュール君の事を心配していたでしょう?」

本当なら一日でも早く魔法使いが増えるようにする方が良いが、やはり親元に居させてあげたい。私の言葉にカシュール君は眉を下げた。

「ナーニョ様、俺、いや、私は、それでも学びたいです。両親を説得してきます。許可が降りたらどうか王都に行かせて下さい」
「分かったわ。まずは子爵達を説得してきなさい」

カシュールの目は輝き、頭を下げた後、急いで両親の元へ戻っていった。

「ローニャ、カシュール君の事を頼めるかな?」
「お姉ちゃん、心配しないで? 大丈夫だよ」

私達はカシュール君の話をしながら歩いて街の方に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

処理中です...