上 下
88 / 143

88

しおりを挟む
 ワット神官の足以外は健康のようだ。

 義足が合っていたのだろうと思う。

 みるみる生えてくる足に神官は視線を離せないでいた。

「……足が。足が生えている。奇跡が! ナーニョ様! 有難う御座います」
「義足になってからかなりの年月が経っているようで出来るか少し不安でしたが、成功して良かったです」
「出来ない事もあるのでしょうか?」

 ワット神官は不安そうに聞いてきた。

「怪我人の持っているイメージを借りて足が元に戻るのです。
 生まれながらに欠損している人は残念ながら治せないと思います。
 不安だったのは義足で長年過ごしているから足の先を覚えていない、イメージ出来ない場合は成功率が下がります」

「そうなのですね。今、この街にいる人々は重症患者が少ない。魔獣による軽い怪我は一定数います。
 ですが治療するほどではないでしょう。ただ、昔に異次元の空間で出てきた魔獣達を倒す時に怪我をした者達は怪我のせいで行商にいけず、この街に留まっているのです。
 彼らは弟子や仲間が行商に行ってもらい足手まといの自分はこの街に留まる。
 苦しい胸の内を隠し、仲間を見送る。そうした者が多いのです。一人でも彼らの助けになってほしいのです」

 ワット神父は悲し気な表情を見せる。彼も辛い思いをしてきたし、見てきたのだろう。

「今回、この街に来るまでに魔獣が多くて到着に時間がかかりました。
 滞在中は騎士団の巡視に同行し、午後は治療に入りますね。欠損を治すのはとても難しい魔法なのです。
 欠損の程度にもよりますが、ワット神官くらいの怪我なら一日二人がやっとです。それでも構いませんか?」
「えぇ、もちろん。お願いします」

 ワット神父はホッとした表情になる。治療する人は商会長と話し合って決めるそうだ。

 その後、街の話を聞いた私達はエサイアス様のいる駐屯所に向かい、明日からの予定を話し合った。

 この街周辺は魔獣が多い。

 滞在期間も他の街よりも長くなるかもしれないという話だった。

 私が神官から聞いた話や治療の事も話をしておく。

 話し合いをした後、エサイアス様や隊長達と一緒に食事に出た。

 夕方も少し早い時間だったがお店は多く、選ぶのに迷ったくらだ。先に休養に入っていた騎士達の姿もチラホラ見受けられたわ。

 彼らも食事を楽しんでいるようだ。

 物流の中継地点なだけあって海産物も食べられるようだ。隊長達は王都の料理を懐かしく思うのか食べなれた物を注文する。エサイアス様も同じように注文していたわ。

 私は隣のテーブルの人が食べているのを見て同じものを注文することにした。

 以前マーサさんが私に作ってくれた料理に似ていたから。

「ナーニョ様、珍しいですね。普段食べている物とは違う気がするのですが」
「えぇ、以前エサイアス様の邸で過ごしていた時に侍女のマーサさんが家庭料理を私達に振舞ってくれたのです。それに似ていたのでつい、注文してしまいました」

「確か、マーサの母親は沿岸の出身だったような気がする。似たような食事があってもおかしくはないな。
 ナーニョ様、マーサが心配していると手紙が来ていた。巡視が終わったら邸で一緒にマーサの手料理を食べに来ませんか?」
「本当ですか!? マーサさんの作る手料理はとても美味しかったです。エサイアス様の邸の料理人が作る食事も美味しかったのですが、マーサさんの手料理をまた食べたいです」

 ナーニョは嬉しくて尻尾をフリフリしながら食事を口にする。マーサさんの手料理に近い味だ。

 お店の味ではあるので美味しいのだけれど、家庭料理とはまた少し違った味わいというのだろうか。

 雰囲気なのか心情がそうさせているのかは分からないけれど、マーサさんやロキアさん達を思い出しながら美味しく食べる事が出来た。

「皆様、本当にお疲れ様でした」

 私は神殿まで送ってもらい、護衛に挨拶をして部屋に入った。ホッと息を吐くことのできる瞬間。

 サッと湯浴みをした後、ローニャに今日露店で買った品物を紙袋ごと送った。

『お姉ちゃん、これ、どうしたの?』

 ローニャからすぐに返事がきた。どうやら部屋で勉強している最中だったようだ。

『今日、カールカールの街に着いたの。この街は物流の中継地点なんですって。
 それでね、魔獣の素材を専門に売っている店を見つけたの。
 その丸い玉、魔獣の身体の中に丸い玉があるものがいるんですって。
 心臓みたいなものじゃないかって店主は言っていたわ。あるのと無いのがいるみたい。珍しいし、何かの研究に使えないかなって思って買ってみたの』

 私がそう言うと、ローニャは丸い玉を手に取っていたようだ。

『不思議な玉ね。今魔力を流してみたんだけど、不思議な感じがする! 明日研究所に持ち込んでみるね! お姉ちゃん、ありがとう』
『良かった。それはそうと、王宮の方は大丈夫? 誰かに意地悪されてない?』

『んー、まぁ、相変わらずかな。私も最近やり返してるからあんまり気にしていないかな。兄様もお父様も味方だからね』
『そう、あまり無理はしないのよ? 何かあればすぐに飛んでくればいいわ』
『そうね! その手もあるね! じゃぁ勉強に戻るね』

 通信を終える頃にはローニャは明るい声になっていた。
 何もなければいいのだけど、不安は残った。

 今日も一日良く働いたわ。
 今は何も考えず明日の事に全力を尽くそう。私はベッドに寝っ転がり気が付けばそのまま眠りに落ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...