上 下
50 / 143

50

しおりを挟む
「フォンスレイド様、今日の治療は終わりました。なんとか魔力も保って良かったです」
「ナーニョ様、有難うございます。魔獣を討伐してきた我々にとって万感の思いです。本当に良かった」

 聖騎士団長はエサイアス様と同様に苦労してきたのだろう。

 震えている彼に私は言葉を上手く口にする事が出来なかった。

 ……私の言葉はきっと軽い。

「ナーニョ様、菓子をどうぞ」
「マルカスさん、有難う。少しはしたないですが頂きますね」

 魔力の底は突いていなくてもかなり消費をしたので空腹で倒れそうな勢いの私。

 マナーを教えて貰ったけれど、マナーなんて言っていられるほどの余裕が無かった。

 口いっぱいに頬張ったお菓子はとても甘くて美味しかった。

「木の実も食べますか?」
「マルカスさん、有難う。もう大丈夫です。はしたないところを見せてしまい申し訳ありませんでした。ローニャのところへ戻りましょうか」
「ナーニョ様、大丈夫でしょうか?」
「体調に変化が出ていないし大丈夫です。それよりグリークス神官長が心配です。倒れていないと良いのですが」
「すぐに別の者を向かわせます」

 ボッシュ神官は私の様子を見て神官長が心配になったようだ。

 医務室に戻った私達はローニャを迎えにいった。

 騎士団の入院患者と違って騒がしい様子はない。

「ローニャ、治療は終わった?」
「うん! もうお腹ペコペコだよ。でもフェルナンドさんが木の実をくれて侍女さんも食べるものを持っていたから少し落ち着いたかな」

 私はその言葉にホッとして周りを見ると、怪我が治った人達はベッドの上で跪いてお祈りをしているようだ。

 治療した患者は十人程度だろうか。

 王宮で治していた人の数よりも少なく見える。

「ローニャ、治療は難しかったの? 前回よりも治した人数が少ないみたいだけれど」
「治療魔法の掛け方をさっき話をしていたでしょう? あの方法なら私にも出来るかなって思ってやってみたんだ! 今まで上手くいかなかったんだけど、少しずつ出来るようになってきたの!」

 ローニャは興奮しながら私達にそう話をした。

「ローニャ、良かったわね。でも、今はしない方が良かったかな」
「なんで?」
「見てごらんなさい。今、こうして治療を待っている人達は沢山いるの。
 古傷も治してあげたいけれど、待っている間、目に見えて悪くなる人もいるわ。魔力が尽きれば治療が行き届かなくなる。
 週に一度しか教会に来れないし、一人でも多くの怪我人を治療してあげないとね?」
「ご、ごめんなさい。そうだよね。私達を待っている人達は大勢いるから一人でも多く治療しなきゃいけないよね」

 ローニャはショボンと眉を下げナーニョの言葉を聞いて反省している。

「ナーニョ様、どうか、どうかローニャ様を責めないで頂きたい! 我々はこうして不自由なく動けるようになったのはナーニョ様のおかげなのです!! 私達は神に使える人間として動けなくなるまで魔物に立ち向かいます。
 怪我をして動けなくなっても後悔はないのです。そんな我らの事を考え、治療して頂けるだけで感謝しかありません」

 一人の聖騎士がそう口にすると、何人もの怪我人が相槌を打っている。怪我人達の言葉に動揺するナーニョ。

 何が正解なのだろう。

 自分が行っていた治療は本当に正解なのか分からない。

 大勢いる怪我人の痛みをいち早く取り除きたいと思う。一人を丁寧に治療するのが良のも分かっている。

 ナーニョが困惑してそれ以上口を開けないでいると、フォンスレイド様がフォローしてくれた。

「ローニャ様の行いは素晴らしい! だが、ナーニョ様の話も間違ってはいない。
 一人でも多くの者を癒したい、痛みを取り除きたいという崇高な考えの元、常に最良を考えて行動なさっている。
 どちらも我々の事を考えて下さっているのだ。二人の聖女様には感謝しかあるまい」

 フォンスレイド様がそう言うと、皆涙を流し感動している様子。

 そして誰からともなく聖女様という言葉が聞こえてきた。

 ナーニョもローニャも聖女という言葉を受け入れたわけではない。ローニャは

「私は聖女じゃなくて魔法使いになるのっ!得意魔法は土を改良する事なんだよっ」

 とぷんすこ反論していた。

 聖騎士達は感動しているせいかあまりローニャの言葉が入っていないような感じだ。

 ナーニョは否定も肯定しない様子。

 話を変えるようにナーニョはローニャに話し掛けた。

「でも、凄いわ。私が言っただけでローニャはすぐに出来てしまうんだから。
 私なんて何年も練習してようやく今のように治療が出来るようになったのよ? 私より魔法を扱うのが上手だし、身体が成長したら一流の魔法使いね」
「大きくなるのが待ち遠しいな。お姉ちゃんより上手になるって決めているの。
 ずっと私のために頑張ってくれているお姉ちゃんを楽させてあげたいもの」

「ふふっ。ローニャ有難う。嬉しいわ」
「ナーニョ様、ローニャ様、そろそろお時間となりました。お城へ戻る時間です」
「「はい」」
「ナーニョ様、ローニャ様、本日はお越しいただきありがとうございました。また来週も宜しくお願いします」



 侍女の言葉に私達は帰り支度をするとフォンスレイド様が笑顔で馬車まで送り届けてくれる。

「お姉ちゃん、今日は頑張ったからお腹ペコペコなの」
「そうね、ローニャはとっても頑張ったわ。お城に戻ったら何か用意してもらいましょうね」
「うん!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...