46 / 51
46
しおりを挟む
翌日は早朝から一人執務に励む。子犬のぬいぐるみを包み込むように執務室へとお迎えしたのは言うまでもない。
そして執務の時間になると一人、また一人とロダや側近達が執務室へとやってくる。
「クレア陛下、今日の予定は午前中は執務で午後からベイカー・フォレスト様との面会です。明日も午前中は執務で午後はアスター・コール様とお出かけ予定です。三日後はアーサー・テーラー様とのお出かけが決まっております」
「忙しくなりそうね。わかったわ」
そろそろ本当に王配を決めろってことよね。
「その後、陛下の休みが二日となっております」
さて、今日も頑張らねばね。休みのために!私は身体強化Maxで執務をこなす。姿は見せないものの、ライは机に隣国の様子を報告書に纏めて置いてくれている。
今隣国は大騒ぎのようだ。マルタナヤール国の重要施設を破壊した事で修復に時間が掛かっているようだ。どうやら破壊しただけではなく、丁寧に燃やすこともしていのだとか。シュルヴェステル陛下や王子達は不眠不休で復興に当たっているようだ。この窮地に攻める事無く手を差し伸べる隣国達はとても強かだ。
そしてシュルヴェステル陛下は王妃、側妃も含め王子達にラグノア国を攻める事を一切しないように言い聞かせた。王子達は異論を唱えたようだが、あの場にいた側妃達が窘めるように言い聞かせ息子達を黙らせた。
兵士や魔法使い達も同様に口を噤んだ。あの場で対応した兵士達はラグノア国の者達に全く歯が立たなかったからだ。そして私が人形を使って行った事を恐怖として語られている様子。
可愛い人形が見た目とは裏腹に魔法を使い、殺戮をしたのだ。その驚きは言い表せないほどだったようだ。
そしてその場で死んだ兵士達は数多くいたのだ。クレア陛下が移動した後の広間には阿鼻叫喚が響いていた、と報告書には記されていた。
そんなに大量殺人をしたかしら?と思ったけれど、どうやら私が思っていたより被害は大きかったようだ。こればかりは仕方がない。
――そうだぞ、クレア。下手に手を抜いて相手を付け上がらせるより、徹底的に痛めつけて反撃出来ないようにするのが一番いい。
グラン様のお墨付きだ。これで良かったと自分で思う事にする。
「クレア様、婚約者様とのお茶の時間になりました。本日はベイカー・フォレスト様の希望により、中庭でお茶を用意しております」
「分かったわ」
私はそのまま席を立ち執務室を後にする。中庭に足を運ぶと、そこにはいつものように手を振って笑うベイカーがいた。
「ベイカー、この間はお疲れ様。大丈夫だったかしら?」
「俺が活躍する場はなかったぞ?魔力を陣に注いだだけだ。疲れたのはクレアの方だろう。そうだ、この間持って帰ってきたグレイシア人形を持ってきたんだ」
そう言うと、ローブの袖口から焦げて見るも無残な人形を出してテーブルの上に置いた。私やベイカーは特に何も思わなかったけれど、やはりマリルは引いてしまっている。私の後ろにいた護衛騎士達も一瞬眉をひそめたわ。
頑張ったのにこの引かれよう、居た堪れないわ。
「これさ、俺達が転移した後の人形の記憶を見る事が出来るんだ。見てみるか?」
ベイカーはワクワクと嬉しそうな様子で言っている。
「私は自分がやった事だもの。恥ずかしいし、要らないわ」
私は断ったけれど、先程眉を顰めた護衛騎士達は口を開く事はないが、ベイカーの話に珍しく反応している。どうやら現場で何があったのか見てみたいらしい。
「……マリルに流血を見せるのは酷だわ」
「そうだな。じゃぁ、今度時間を取って会議室で見るのはどうだ?チュイン団長もフェルト団長も見たいだろうし」
「そんな事はないと思うわよ?私の魔法なんてつまらないものだもの」
「あーあぁ。分かっていないなぁ」
ベイカーはそう言うと、思い出したように手を叩く。
「そうだ、この間の襲撃で結界が破られただろう?また張りなおすから手を貸してくれ」
「今、良いの?私はいつでもいいわ」
「クレアが狙われるのを少しでも阻止したいからな」
ベイカーはそう言うと立ち上がり詠唱を始めた。私も慌ててベイカーのギリギリ近くに寄り、魔力を魔法陣に流し始める。前回と同じように結界が張られていく。
「……クレア陛下、完成だ。今回も上手く張れただろう?」
「そうねっ。前回襲撃された時の対策もされているみたいだし、凄いわっ」
「そうだろう、そうだろう。さて、疲れたし、俺、そろそろ戻るわ」
「早いわね」
「こんなもんだろ。どうせ人形の鑑賞会には参加しなくちゃいけないんだからな。零の奴等が煩いだろうからそれまでの間に身体を休めておくんだぞ?」
「ふふっ。そうね。今日は私も休むことにするわ」
「そうしろ、そうしろ。あぁ、そういえば、ナーヤの奴が心配していたぞ?早く嫁を貰って俺を安心させろってな」
「うーん。どうかしら?良い嫁を選べればいいけどね。不安だわ」
「ははっ。大丈夫だ。外れを引いたら子供だけ産んでポイすればいい。俺がずっと側で支えてやるから」
「ふふっ。相変わらずね。ではまた後日会いましょう」
ベイカーの言葉に寂しさを覚える。
――奴も苦しいのだ。このままの距離がお互いのためなのだろうな。
ええ、そうですね。彼は王配になる事を望んでいませんもの。これ以上辛い思いをさせてはいけませんね。
――泣きたければ、泣いてもいいのだぞ?クレアは我慢し過ぎだからな。それにもう少し人に寄りかかってもよかろう。皆、お前を心配しておるぞ。
ですがっ、私が寄りかかった人達は皆儚く散ってしまった。不安なのです。もう、あの苦しみを味わいたくないのです。
――そうだな。だが、儂はここにおる。マリルも魔法契約関係なく心配しておるぞ。アーロンだってそうだ。お前が思うよりずっとお前は愛されておる。大丈夫だ。
こうしてまた私はグラン様に慰められつつベッドで眠りにつく。
私は、私には出来るのかしら。
そして執務の時間になると一人、また一人とロダや側近達が執務室へとやってくる。
「クレア陛下、今日の予定は午前中は執務で午後からベイカー・フォレスト様との面会です。明日も午前中は執務で午後はアスター・コール様とお出かけ予定です。三日後はアーサー・テーラー様とのお出かけが決まっております」
「忙しくなりそうね。わかったわ」
そろそろ本当に王配を決めろってことよね。
「その後、陛下の休みが二日となっております」
さて、今日も頑張らねばね。休みのために!私は身体強化Maxで執務をこなす。姿は見せないものの、ライは机に隣国の様子を報告書に纏めて置いてくれている。
今隣国は大騒ぎのようだ。マルタナヤール国の重要施設を破壊した事で修復に時間が掛かっているようだ。どうやら破壊しただけではなく、丁寧に燃やすこともしていのだとか。シュルヴェステル陛下や王子達は不眠不休で復興に当たっているようだ。この窮地に攻める事無く手を差し伸べる隣国達はとても強かだ。
そしてシュルヴェステル陛下は王妃、側妃も含め王子達にラグノア国を攻める事を一切しないように言い聞かせた。王子達は異論を唱えたようだが、あの場にいた側妃達が窘めるように言い聞かせ息子達を黙らせた。
兵士や魔法使い達も同様に口を噤んだ。あの場で対応した兵士達はラグノア国の者達に全く歯が立たなかったからだ。そして私が人形を使って行った事を恐怖として語られている様子。
可愛い人形が見た目とは裏腹に魔法を使い、殺戮をしたのだ。その驚きは言い表せないほどだったようだ。
そしてその場で死んだ兵士達は数多くいたのだ。クレア陛下が移動した後の広間には阿鼻叫喚が響いていた、と報告書には記されていた。
そんなに大量殺人をしたかしら?と思ったけれど、どうやら私が思っていたより被害は大きかったようだ。こればかりは仕方がない。
――そうだぞ、クレア。下手に手を抜いて相手を付け上がらせるより、徹底的に痛めつけて反撃出来ないようにするのが一番いい。
グラン様のお墨付きだ。これで良かったと自分で思う事にする。
「クレア様、婚約者様とのお茶の時間になりました。本日はベイカー・フォレスト様の希望により、中庭でお茶を用意しております」
「分かったわ」
私はそのまま席を立ち執務室を後にする。中庭に足を運ぶと、そこにはいつものように手を振って笑うベイカーがいた。
「ベイカー、この間はお疲れ様。大丈夫だったかしら?」
「俺が活躍する場はなかったぞ?魔力を陣に注いだだけだ。疲れたのはクレアの方だろう。そうだ、この間持って帰ってきたグレイシア人形を持ってきたんだ」
そう言うと、ローブの袖口から焦げて見るも無残な人形を出してテーブルの上に置いた。私やベイカーは特に何も思わなかったけれど、やはりマリルは引いてしまっている。私の後ろにいた護衛騎士達も一瞬眉をひそめたわ。
頑張ったのにこの引かれよう、居た堪れないわ。
「これさ、俺達が転移した後の人形の記憶を見る事が出来るんだ。見てみるか?」
ベイカーはワクワクと嬉しそうな様子で言っている。
「私は自分がやった事だもの。恥ずかしいし、要らないわ」
私は断ったけれど、先程眉を顰めた護衛騎士達は口を開く事はないが、ベイカーの話に珍しく反応している。どうやら現場で何があったのか見てみたいらしい。
「……マリルに流血を見せるのは酷だわ」
「そうだな。じゃぁ、今度時間を取って会議室で見るのはどうだ?チュイン団長もフェルト団長も見たいだろうし」
「そんな事はないと思うわよ?私の魔法なんてつまらないものだもの」
「あーあぁ。分かっていないなぁ」
ベイカーはそう言うと、思い出したように手を叩く。
「そうだ、この間の襲撃で結界が破られただろう?また張りなおすから手を貸してくれ」
「今、良いの?私はいつでもいいわ」
「クレアが狙われるのを少しでも阻止したいからな」
ベイカーはそう言うと立ち上がり詠唱を始めた。私も慌ててベイカーのギリギリ近くに寄り、魔力を魔法陣に流し始める。前回と同じように結界が張られていく。
「……クレア陛下、完成だ。今回も上手く張れただろう?」
「そうねっ。前回襲撃された時の対策もされているみたいだし、凄いわっ」
「そうだろう、そうだろう。さて、疲れたし、俺、そろそろ戻るわ」
「早いわね」
「こんなもんだろ。どうせ人形の鑑賞会には参加しなくちゃいけないんだからな。零の奴等が煩いだろうからそれまでの間に身体を休めておくんだぞ?」
「ふふっ。そうね。今日は私も休むことにするわ」
「そうしろ、そうしろ。あぁ、そういえば、ナーヤの奴が心配していたぞ?早く嫁を貰って俺を安心させろってな」
「うーん。どうかしら?良い嫁を選べればいいけどね。不安だわ」
「ははっ。大丈夫だ。外れを引いたら子供だけ産んでポイすればいい。俺がずっと側で支えてやるから」
「ふふっ。相変わらずね。ではまた後日会いましょう」
ベイカーの言葉に寂しさを覚える。
――奴も苦しいのだ。このままの距離がお互いのためなのだろうな。
ええ、そうですね。彼は王配になる事を望んでいませんもの。これ以上辛い思いをさせてはいけませんね。
――泣きたければ、泣いてもいいのだぞ?クレアは我慢し過ぎだからな。それにもう少し人に寄りかかってもよかろう。皆、お前を心配しておるぞ。
ですがっ、私が寄りかかった人達は皆儚く散ってしまった。不安なのです。もう、あの苦しみを味わいたくないのです。
――そうだな。だが、儂はここにおる。マリルも魔法契約関係なく心配しておるぞ。アーロンだってそうだ。お前が思うよりずっとお前は愛されておる。大丈夫だ。
こうしてまた私はグラン様に慰められつつベッドで眠りにつく。
私は、私には出来るのかしら。
49
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。
束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢エニードは両親から告げられる。
クラウス公爵が結婚相手を探している、すでに申し込み済みだと。
二十歳になるまで結婚など考えていなかったエニードは、両親の希望でクラウス公爵に嫁ぐことになる。
けれど、クラウスは言う。「君を愛することはできない」と。
何故ならば、クラウスは騎士団長セツカに惚れているのだという。
クラウスが男性だと信じ込んでいる騎士団長セツカとは、エニードのことである。
確かに邪魔だから胸は潰して軍服を着ているが、顔も声も同じだというのに、何故気づかない――。
でも、男だと思って道ならぬ恋に身を焦がしているクラウスが、可哀想だからとても言えない。
とりあえず気づくのを待とう。うん。それがいい。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる