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後ろから聞こえてくる令嬢たちの声援。私は何事かと黙って状況を見守る。
「何か用ですか?」
ローガン様はすっと無表情で声をかけてきた令嬢に答える。
「あ、あのっ。今度、ベイリー公爵家で開かれる舞踏会の招待状と指輪が届いて、嬉しかったですっ。わ、私を本命として選んでいただいて」
招待状?あら、私の知らない所でお茶会が開催されるのね。黙って令嬢の話を聞いていると、どうやらローガン様がこの女性をエスコートするのでしょうか?
ローガン様もあの方と同じなの?
ふと不安な気持ちになる。
――クレアよ。不安な気持ちは隠すべきではないぞ?口に出さねばならん時もある。
グラン様、でも。ローガン様は彼と同じだったらどうしましょう。
――聞いてみれば良いではないか。お前は女王なのだぞ?木っ端の令嬢より大事にされていいはずだ。
感情を表に出してはいけない、思ったことをそのまま口に出してはいけないと教えられてきているので口に出すのは躊躇うけれど、意を決して口にしてみた。
「ローガン様、そちらの方は誰ですか?」
話し掛けてきた令嬢は私に嫌悪感を出しながら答える。
「貴女には関係ないわ。貴女こそ誰なの?ローガン様と一緒にいるなんて許せないわ」
ローガン様に恥ずかしがるように話し掛けていたのに私にはあからさまに態度が違う。
こ、怖いわっ。
これこそ女の闇の部分ではないかしらっ。
言って差し上げた方がよいのかしら?するとローガン様は私の手をそっと包むように手を乗せて微笑む。大丈夫ですと言わんばかりの微笑みに私は少しドキドキしてしまう。
「そもそも貴女は誰ですか?名乗りもしない」
ローガンは冷たい視線で令嬢を射貫くように問う。
「わ、私はエイミーです」
エイミー?もしかしてエイミー・シュロスター伯爵令嬢かしら?頭の中で貴族の名前を一致させる。
「エイミー?誰でしたか?残念ながら私は存じませんね」
「え、エイミー・シュロスターです。父がお世話になっております」
「あぁ、シュロスター伯爵令嬢でしたか。何を勘違いなさっているのか分かりませんが、指輪を送ったのは私ではありませんよ。きっと今度の舞踏会で行われる余興の一環でしょうね」
ローガン様は顔色一つ変えることなくそう答える。
「えっ。だって、公爵家の印が付いていて、声をかけるまで誰とも踊らないようにと書いてありましたわ」
「もう一度言いましょうか?貴女の勘違いです。公爵家主催の舞踏会の余興ですよ。私には関係ありませんから。もういいですか?貴女と話している時間が勿体ない」
ローガン様の言葉に令嬢は泣き出しそうだ。そして彼女は私をキッと睨みつける。どうやら矛先が私に向いたようだ。彼女は私が誰かまだ分かっていない様子。はぁ、と溜息を一つ吐いて私が答えようとしたけれど、ローガン様が私を抱き寄せてそれを止める。
「愛おしい彼女との時間を邪魔されたくないんだ。あっちへ行ってくれないか」
令嬢は目に涙を溜めて後ろの令嬢達の方へ戻っていった。令嬢の中には私が誰か分かった人もいたようね。私と目が合った瞬間から目を見開いて驚いた途端に顔色が白くなったもの。
「クレア、ここは騒がしい。別の所に案内してもよいですか?」
「えぇ。皆様、お騒がせ致しましたわ。お時間を買い取りますわ。どうぞ好きな物をお食べになって下さいませ」
店員に客の食事代を後日王宮に回して欲しいと頼んでから店を後にする。
「クレア、気を遣わせてすみません。私としたことが迂闊でした」
「ローガン様、守ってくれて、とても、嬉しかったです」
「私は貴女しか見ていませんから、心配しないで」
「……はい」
「まだあと少しだけ、私に時間をくれますか?」
そう言って手を引かれて向かったのは一軒の店。そこにはぬいぐるみがところせましと並べられている。
「ここにクレアを連れて着たかったのです」
クマや犬、猫、鳥など様々な動物のぬいぐるみが置かれてあり、どれも丁寧に作られているわ。
「ローガン様っ!嬉しいわっ。ありがとうっ」
――クレア、言葉が戻っておるぞ。
だ、だって。こんなに愛くるしい姿をしたぬいぐるみ達が私を見ているのですもの。
――一つ、二つだけだぞ?部屋にあるぬいぐるみ達がやきもちを焼いてしまうかもしれんな。
!!。そうですね。浮気はいけませんっ。
私はグラン様の言葉でグッと欲しい気持ちを抑え込む。
「クレア?どうしたのですか?気に入りませんでしたか?」
ローガン様は心配するように私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫ですわっ。目移りしてしまうくらいどの子も可愛いのですが、ヌーちゃんや黒猫ちゃんがやきもちを焼いてしまうので買うのは我慢しようと考えていたのです」
「ふふっ。可愛い人だ。ここの店を買い取るのも簡単なのに。今日は見るだけにしてまたこの店にきますか?」
「ええ。そうね!また来たいわっ。約束っ」
そう言ってローガン様と店内を見て回った。子犬のぬいぐるみも可愛くて欲しかったけれど、我慢出来た自分が偉いとこの時ばかりは思ったわ。
そうして私達は店を見回った後、馬車に乗り込み城へと帰った。行きとは違い、ローガン様とお店の話をしたり、ケーキの話をしたりしたわ。ローガン様のエスコートで住居エリアの前まで着くと、少し名残惜しいような寂しいような気持ちになった。
「ローガン様、今日はとても楽しかったです。有難うございました」
彼はふわりと笑いポケットから小さな包み紙を手渡した。
「これをどうぞ。これならペーパーウェイトとして執務室にお迎え出来ますよ」
「開けても?」
「もちろん」
私は包み紙を開くとそこには小さな子犬のぬいぐるみが現れた。
「なんて可愛いのっ!ローガン様っ。嬉しいわっ。ありがとう」
「そんなに喜んで貰えるとは。私としても嬉しい限りです。ではまたお会い出来る事を楽しみにしています」
颯爽と帰っていくローガン様。
部屋に戻ってすぐにマヤに湯浴みの準備をしてもらった。その間、話が止まらなかったのは言うまでもないわね。
「何か用ですか?」
ローガン様はすっと無表情で声をかけてきた令嬢に答える。
「あ、あのっ。今度、ベイリー公爵家で開かれる舞踏会の招待状と指輪が届いて、嬉しかったですっ。わ、私を本命として選んでいただいて」
招待状?あら、私の知らない所でお茶会が開催されるのね。黙って令嬢の話を聞いていると、どうやらローガン様がこの女性をエスコートするのでしょうか?
ローガン様もあの方と同じなの?
ふと不安な気持ちになる。
――クレアよ。不安な気持ちは隠すべきではないぞ?口に出さねばならん時もある。
グラン様、でも。ローガン様は彼と同じだったらどうしましょう。
――聞いてみれば良いではないか。お前は女王なのだぞ?木っ端の令嬢より大事にされていいはずだ。
感情を表に出してはいけない、思ったことをそのまま口に出してはいけないと教えられてきているので口に出すのは躊躇うけれど、意を決して口にしてみた。
「ローガン様、そちらの方は誰ですか?」
話し掛けてきた令嬢は私に嫌悪感を出しながら答える。
「貴女には関係ないわ。貴女こそ誰なの?ローガン様と一緒にいるなんて許せないわ」
ローガン様に恥ずかしがるように話し掛けていたのに私にはあからさまに態度が違う。
こ、怖いわっ。
これこそ女の闇の部分ではないかしらっ。
言って差し上げた方がよいのかしら?するとローガン様は私の手をそっと包むように手を乗せて微笑む。大丈夫ですと言わんばかりの微笑みに私は少しドキドキしてしまう。
「そもそも貴女は誰ですか?名乗りもしない」
ローガンは冷たい視線で令嬢を射貫くように問う。
「わ、私はエイミーです」
エイミー?もしかしてエイミー・シュロスター伯爵令嬢かしら?頭の中で貴族の名前を一致させる。
「エイミー?誰でしたか?残念ながら私は存じませんね」
「え、エイミー・シュロスターです。父がお世話になっております」
「あぁ、シュロスター伯爵令嬢でしたか。何を勘違いなさっているのか分かりませんが、指輪を送ったのは私ではありませんよ。きっと今度の舞踏会で行われる余興の一環でしょうね」
ローガン様は顔色一つ変えることなくそう答える。
「えっ。だって、公爵家の印が付いていて、声をかけるまで誰とも踊らないようにと書いてありましたわ」
「もう一度言いましょうか?貴女の勘違いです。公爵家主催の舞踏会の余興ですよ。私には関係ありませんから。もういいですか?貴女と話している時間が勿体ない」
ローガン様の言葉に令嬢は泣き出しそうだ。そして彼女は私をキッと睨みつける。どうやら矛先が私に向いたようだ。彼女は私が誰かまだ分かっていない様子。はぁ、と溜息を一つ吐いて私が答えようとしたけれど、ローガン様が私を抱き寄せてそれを止める。
「愛おしい彼女との時間を邪魔されたくないんだ。あっちへ行ってくれないか」
令嬢は目に涙を溜めて後ろの令嬢達の方へ戻っていった。令嬢の中には私が誰か分かった人もいたようね。私と目が合った瞬間から目を見開いて驚いた途端に顔色が白くなったもの。
「クレア、ここは騒がしい。別の所に案内してもよいですか?」
「えぇ。皆様、お騒がせ致しましたわ。お時間を買い取りますわ。どうぞ好きな物をお食べになって下さいませ」
店員に客の食事代を後日王宮に回して欲しいと頼んでから店を後にする。
「クレア、気を遣わせてすみません。私としたことが迂闊でした」
「ローガン様、守ってくれて、とても、嬉しかったです」
「私は貴女しか見ていませんから、心配しないで」
「……はい」
「まだあと少しだけ、私に時間をくれますか?」
そう言って手を引かれて向かったのは一軒の店。そこにはぬいぐるみがところせましと並べられている。
「ここにクレアを連れて着たかったのです」
クマや犬、猫、鳥など様々な動物のぬいぐるみが置かれてあり、どれも丁寧に作られているわ。
「ローガン様っ!嬉しいわっ。ありがとうっ」
――クレア、言葉が戻っておるぞ。
だ、だって。こんなに愛くるしい姿をしたぬいぐるみ達が私を見ているのですもの。
――一つ、二つだけだぞ?部屋にあるぬいぐるみ達がやきもちを焼いてしまうかもしれんな。
!!。そうですね。浮気はいけませんっ。
私はグラン様の言葉でグッと欲しい気持ちを抑え込む。
「クレア?どうしたのですか?気に入りませんでしたか?」
ローガン様は心配するように私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫ですわっ。目移りしてしまうくらいどの子も可愛いのですが、ヌーちゃんや黒猫ちゃんがやきもちを焼いてしまうので買うのは我慢しようと考えていたのです」
「ふふっ。可愛い人だ。ここの店を買い取るのも簡単なのに。今日は見るだけにしてまたこの店にきますか?」
「ええ。そうね!また来たいわっ。約束っ」
そう言ってローガン様と店内を見て回った。子犬のぬいぐるみも可愛くて欲しかったけれど、我慢出来た自分が偉いとこの時ばかりは思ったわ。
そうして私達は店を見回った後、馬車に乗り込み城へと帰った。行きとは違い、ローガン様とお店の話をしたり、ケーキの話をしたりしたわ。ローガン様のエスコートで住居エリアの前まで着くと、少し名残惜しいような寂しいような気持ちになった。
「ローガン様、今日はとても楽しかったです。有難うございました」
彼はふわりと笑いポケットから小さな包み紙を手渡した。
「これをどうぞ。これならペーパーウェイトとして執務室にお迎え出来ますよ」
「開けても?」
「もちろん」
私は包み紙を開くとそこには小さな子犬のぬいぐるみが現れた。
「なんて可愛いのっ!ローガン様っ。嬉しいわっ。ありがとう」
「そんなに喜んで貰えるとは。私としても嬉しい限りです。ではまたお会い出来る事を楽しみにしています」
颯爽と帰っていくローガン様。
部屋に戻ってすぐにマヤに湯浴みの準備をしてもらった。その間、話が止まらなかったのは言うまでもないわね。
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