36 / 51
36
しおりを挟む
「陛下、証拠が揃いました。どうされますか?」
「……そうね。今回は謁見の間で罪状を述べて刑の執行をするわ」
裁判の間では被害者や加害者がいる時、貴族同士で争っている時に使用されるけれど、今回は隣国も絡んでいるので非公開にしなければならない部分も多くあり、捕縛人数も多いので謁見の間で行う事になった。
貴族間の裁判では色々と手続きが必要だけれど、行わない場合は手順を踏む事がないので私の裁量に任される。つまり私のさじ加減一つで決まるのだ。まぁ、私が立ち合う裁判でも同じようなものだけれど。
私は宰相と謁見の間に向かう。
謁見の間には今回の事件に関わった全ての人が猿轡と魔法錠をして膝をついている状態で待っていた。とても物々しい雰囲気の中、宰相が罪状の確認をするために最初の六名を前に出す。
「この者達は国境に一番近い場所、第一取引場所で取引を行った者達です。リーダー格の者と奴隷を馬車に詰め込む者、護衛です。リーダー格の者はファルム子爵の執事より指示を受け取引書に子爵のサインがある物をもっておりました」
「ではリーダー格の者は地下に十年の強制奪取。その他の者は五年の強制奪取。魔力の無い者は炭鉱へ送ること」
そうして五カ所で取引に関わった自国側の者達の刑を決めた。次に隣国側の取引に関わった者が前に呼び出された。
「彼等は隣国のヴィロ伯爵の指示により奴隷の売買を行っていました。隣国では奴隷売買は違法ではありませんが、我が国との奴隷の売買は禁止されており違法となっています。そして隣国のシュルヴェステル陛下より書状が来ております」
そう言うと、宰相は書状を読み上げた。奴隷売買に関わった者は奴隷落ちにして引き取りたい、伯爵は重い罰金刑にする、賠償金をこちらへ送るといったものだった。
まぁ、妥当なものよね。
「私もその刑の重さは当然だと考える。では奴隷売買の取引を行った者には奴隷の印を。フェルト」
私はそう言うと、フェルトは一礼した後、その場で奴隷印を刻んでいく。全員刻んだ後、隣国へ向かう馬車に乗せられるのだが、まだ終わった訳ではない。奴隷となった者達は騎士達に連れられて謁見の間を後にする。
「さて、奴隷の取引の現場にいた者達の刑は決まった。奴隷を持ち込み、労働力として働かせていたサンダー侯爵、及びファルム子爵は前へ出よ」
宰相の言葉に騎士達は前に出るように侯爵達の腕を取り、押し出すように前に座らせた。牢へ入れられてから毎日の尋問が堪えたのだろうか。二人とも窶れて苦しい表情をしている。二家の執事も加担したため前列に座らされた。家族達は二人の後ろに並び、俯いている。
その中には勿論彼の姿もあった。
「違法奴隷の持ち込み、強制労働、城への偽造書類、役人の買収、隣国との違法な取引も調べがついている。反論はあるか?」
「「……」」
二人とも沈黙を守っている。
「異論はないのだな」
宰相は尋ねるけれど二人とも口を開くことはない様子。
「異論はないようね。では、家族全てを地下へ。死ぬまで魔力を国に捧げよ」
私がそう言うと、後ろにいた侯爵夫人はガタガタと震えて倒れてしまった。他の家族達も震えて寄生を上げたり、嗚咽を漏らしたりしている人も出始めた。騒がしくなってきたため、彼等を牢へと下がらせる。
連れていかれる様子を見ていると、彼は私に軽く礼をしてからこの場を後にした。
その姿に胸を締め付けられる。
最初から分かっていたとはいえ、やるせない思いに心が砕かれる。
――クレア、儂が代わろう。少し休め。
私はグラン様の言う通りに交代する。
「……そうね。今回は謁見の間で罪状を述べて刑の執行をするわ」
裁判の間では被害者や加害者がいる時、貴族同士で争っている時に使用されるけれど、今回は隣国も絡んでいるので非公開にしなければならない部分も多くあり、捕縛人数も多いので謁見の間で行う事になった。
貴族間の裁判では色々と手続きが必要だけれど、行わない場合は手順を踏む事がないので私の裁量に任される。つまり私のさじ加減一つで決まるのだ。まぁ、私が立ち合う裁判でも同じようなものだけれど。
私は宰相と謁見の間に向かう。
謁見の間には今回の事件に関わった全ての人が猿轡と魔法錠をして膝をついている状態で待っていた。とても物々しい雰囲気の中、宰相が罪状の確認をするために最初の六名を前に出す。
「この者達は国境に一番近い場所、第一取引場所で取引を行った者達です。リーダー格の者と奴隷を馬車に詰め込む者、護衛です。リーダー格の者はファルム子爵の執事より指示を受け取引書に子爵のサインがある物をもっておりました」
「ではリーダー格の者は地下に十年の強制奪取。その他の者は五年の強制奪取。魔力の無い者は炭鉱へ送ること」
そうして五カ所で取引に関わった自国側の者達の刑を決めた。次に隣国側の取引に関わった者が前に呼び出された。
「彼等は隣国のヴィロ伯爵の指示により奴隷の売買を行っていました。隣国では奴隷売買は違法ではありませんが、我が国との奴隷の売買は禁止されており違法となっています。そして隣国のシュルヴェステル陛下より書状が来ております」
そう言うと、宰相は書状を読み上げた。奴隷売買に関わった者は奴隷落ちにして引き取りたい、伯爵は重い罰金刑にする、賠償金をこちらへ送るといったものだった。
まぁ、妥当なものよね。
「私もその刑の重さは当然だと考える。では奴隷売買の取引を行った者には奴隷の印を。フェルト」
私はそう言うと、フェルトは一礼した後、その場で奴隷印を刻んでいく。全員刻んだ後、隣国へ向かう馬車に乗せられるのだが、まだ終わった訳ではない。奴隷となった者達は騎士達に連れられて謁見の間を後にする。
「さて、奴隷の取引の現場にいた者達の刑は決まった。奴隷を持ち込み、労働力として働かせていたサンダー侯爵、及びファルム子爵は前へ出よ」
宰相の言葉に騎士達は前に出るように侯爵達の腕を取り、押し出すように前に座らせた。牢へ入れられてから毎日の尋問が堪えたのだろうか。二人とも窶れて苦しい表情をしている。二家の執事も加担したため前列に座らされた。家族達は二人の後ろに並び、俯いている。
その中には勿論彼の姿もあった。
「違法奴隷の持ち込み、強制労働、城への偽造書類、役人の買収、隣国との違法な取引も調べがついている。反論はあるか?」
「「……」」
二人とも沈黙を守っている。
「異論はないのだな」
宰相は尋ねるけれど二人とも口を開くことはない様子。
「異論はないようね。では、家族全てを地下へ。死ぬまで魔力を国に捧げよ」
私がそう言うと、後ろにいた侯爵夫人はガタガタと震えて倒れてしまった。他の家族達も震えて寄生を上げたり、嗚咽を漏らしたりしている人も出始めた。騒がしくなってきたため、彼等を牢へと下がらせる。
連れていかれる様子を見ていると、彼は私に軽く礼をしてからこの場を後にした。
その姿に胸を締め付けられる。
最初から分かっていたとはいえ、やるせない思いに心が砕かれる。
――クレア、儂が代わろう。少し休め。
私はグラン様の言う通りに交代する。
45
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる