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浮かれた気持ちも萎んでしまう位の状況なの。本当に奴隷取引を阻止できるのか考えると心配で仕方がない。顔には出さないようにしているけれど、内心は不安で一杯なの。
誰にも相談出来ないし、私の行動一つで全てが実行されてしまう責任の重み。
でも、心折れてしまいそうになってもやらなければいけない。
私はフッと重くなった息を吐いて気を取り直し、執務を続ける。
その間にラウロは書類を人数分転写出来たみたい。そして書類の重要性に気づいたようで緊張した面持ちをしている。
「陛下、この会議には私達も参加するのでしょうか?」
「……そうね、軍務の処理をしているイクセル、財務の処理をしているミカルは一応参加しておいた方がいいわね。マークとラウロは明日の会議の議事録に目を通すだけでいいわ」
「畏まりました」
そうして残りの執務を終えて今日もゆっくりと自室で疲れを癒す。
―コンコンコンコン―
ノック音の後、マヤと一緒に一人の侍女が部屋へと入ってきた。
「失礼します。本日からクレア陛下の専属侍女になったマリルです。挨拶をしにきました。マリル、挨拶を」
マヤがそう言うと、一歩前に出て侍女の礼を執る。
「本日から陛下の専属侍女となりましたマリルです。宜しくお願いします」
「マリル、おめでとう。これからも宜しくねっ。マヤは厳しかったでしょう?」
私は微笑みながらマリルに聞いてみると、マリルは花が咲いたように笑顔で答える。
「マヤさんの指導はとても厳しいものでしたが、全てクレア陛下のためのもの。愛情に包まれていてしっかりと付いていく事が出来ました。陛下には感謝しかございません」
「ふふっ。よかったわっ」
「クレア陛下、マリルは明日から担当してもらう事になっております。エリオスは三日後から配属予定になっております」
「エリオスもようやく合格が出たのね。ふふっ。楽しみだわ。これから宜しくねっ」
そうしてマヤ達は挨拶をしてから退室した。少しでも身の回りを信用できる者で固めていきたいのは本音だけれど、そうすると他から不満が上がる。依怙贔屓だとね。難しい問題だわ。
私はネコちゃんを抱きしめながらソファでくつろぐ。このネコのぬいぐるみはとっても抱き心地がよくてすっかり手放せなくなった。ローガン様は普段微笑む姿をあまり見ないけれど、他の誰よりも気が利く人だと思う。
私がクマちゃんを持ち歩く事がなくなったのはグラン様が来てから。それ以前から私の事を知っていたのね。可笑しな奴だと思われていたのかしら?
ローガン様の心をもっと知りたいと思ってしまう。
けれど政略結婚だから国の事を一番に考えなければならないと複雑な気持ちが頭をもたげる。
翌日。
「急な会議を開いて申し訳ないわね。けれど、重要案件のため緊急に会議を開く事にしたわ。ミカル、資料の配布を」
昨日用意した資料を席に着いている者達に配布していく。宰相を始めとした大臣や騎士団長達が資料に目を通してざわついている。
「現在、我が国では奴隷制度を採用していない。だが、王家の弱体化により一部の貴族達に足元を見られているようだ。隣国からの奴隷が度々労働力として一部ではあるが取引を確認している。そして問題なのが、私の所までその情報が上がってこない所だ。どういう事かな?労働担当大臣、申し開きはあるかしら?」
資料には奴隷の売買の金額を記載した物と私にあげられている改変された資料の詳細が載っている。
舐められたものね。私は何も知らないと思っていたのかしら。
顔を青くしながら大臣は震えている様子。部下がやった事だとはいえ、知らなかったとは言わせないわ。
「……申し訳、ありません。承知しておりませんでした」
「あら、そうなの?貴方の副官はよくご存じではなくて?サンダー侯爵家からの贈答品に目がくらんだのかしら?」
「……」
「しっかりと仕事をしていれば分かるはずなのにね?能力が無いのなら罷免するしかないわ」
「お、お待ちください。お叱りは受けます。私が部下に任せきりで手を抜いておりました。すぐに改変されている資料と元の資料を揃えて提出させていただきます」
慌てたように大臣が答えた。
「……では、三日だ。三日以内に全ての書類を執務室へ。あぁ、副官は既に牢にいるぞ?お前も入る事にならなければよいな?」
威圧と共にガラリと雰囲気が変わった事に宰相も怯えている。最初にグラン様が注意した事が効いているのだろう。
労働担当大臣は慌てて会議室を出て行った。まぁ、これからの話はするつもりはなかったので資料も彼の物だけは少なくなっている。
――つい、出てしまった。後は見ているからクレア、頑張るのだぞ。
ふふっ、驚きました。グラン様、頑張ります。
「さて、ここからが本題。資料を見れば分かると思うけれど、問題となっている奴隷売買について。首謀者はサンダー侯爵。それと分家であるファルム子爵を捕らえる事になるわ。奴隷を隣国と取引する日を確認できた。場所は五カ所。国境付近など同日、同時刻に行われるわ。
相手はどこか一ヶ所でも取引を成功させられればいいと思っているようね。今回の奴隷取引に関して第二騎士団では人数が足りないため取引現場には第三騎士団に押さえて貰う予定よ。第二騎士団は情報収集を行う。けれど、第三騎士団でも人数は厳しい。零と魔導士とで共闘する予定にしてある。皆の意見が聞きたいわ」
そうして団長達を中心とした軍会議が始まった。グラン様が平定されて以降、国は大きな争い無く続いていたのだが、王族殺しの一件で緊張が走った事は否めない。
私の力がまだ弱いと考え、一部の貴族は王家から離れて独自のルートを開拓しようとしている事も。
誰にも相談出来ないし、私の行動一つで全てが実行されてしまう責任の重み。
でも、心折れてしまいそうになってもやらなければいけない。
私はフッと重くなった息を吐いて気を取り直し、執務を続ける。
その間にラウロは書類を人数分転写出来たみたい。そして書類の重要性に気づいたようで緊張した面持ちをしている。
「陛下、この会議には私達も参加するのでしょうか?」
「……そうね、軍務の処理をしているイクセル、財務の処理をしているミカルは一応参加しておいた方がいいわね。マークとラウロは明日の会議の議事録に目を通すだけでいいわ」
「畏まりました」
そうして残りの執務を終えて今日もゆっくりと自室で疲れを癒す。
―コンコンコンコン―
ノック音の後、マヤと一緒に一人の侍女が部屋へと入ってきた。
「失礼します。本日からクレア陛下の専属侍女になったマリルです。挨拶をしにきました。マリル、挨拶を」
マヤがそう言うと、一歩前に出て侍女の礼を執る。
「本日から陛下の専属侍女となりましたマリルです。宜しくお願いします」
「マリル、おめでとう。これからも宜しくねっ。マヤは厳しかったでしょう?」
私は微笑みながらマリルに聞いてみると、マリルは花が咲いたように笑顔で答える。
「マヤさんの指導はとても厳しいものでしたが、全てクレア陛下のためのもの。愛情に包まれていてしっかりと付いていく事が出来ました。陛下には感謝しかございません」
「ふふっ。よかったわっ」
「クレア陛下、マリルは明日から担当してもらう事になっております。エリオスは三日後から配属予定になっております」
「エリオスもようやく合格が出たのね。ふふっ。楽しみだわ。これから宜しくねっ」
そうしてマヤ達は挨拶をしてから退室した。少しでも身の回りを信用できる者で固めていきたいのは本音だけれど、そうすると他から不満が上がる。依怙贔屓だとね。難しい問題だわ。
私はネコちゃんを抱きしめながらソファでくつろぐ。このネコのぬいぐるみはとっても抱き心地がよくてすっかり手放せなくなった。ローガン様は普段微笑む姿をあまり見ないけれど、他の誰よりも気が利く人だと思う。
私がクマちゃんを持ち歩く事がなくなったのはグラン様が来てから。それ以前から私の事を知っていたのね。可笑しな奴だと思われていたのかしら?
ローガン様の心をもっと知りたいと思ってしまう。
けれど政略結婚だから国の事を一番に考えなければならないと複雑な気持ちが頭をもたげる。
翌日。
「急な会議を開いて申し訳ないわね。けれど、重要案件のため緊急に会議を開く事にしたわ。ミカル、資料の配布を」
昨日用意した資料を席に着いている者達に配布していく。宰相を始めとした大臣や騎士団長達が資料に目を通してざわついている。
「現在、我が国では奴隷制度を採用していない。だが、王家の弱体化により一部の貴族達に足元を見られているようだ。隣国からの奴隷が度々労働力として一部ではあるが取引を確認している。そして問題なのが、私の所までその情報が上がってこない所だ。どういう事かな?労働担当大臣、申し開きはあるかしら?」
資料には奴隷の売買の金額を記載した物と私にあげられている改変された資料の詳細が載っている。
舐められたものね。私は何も知らないと思っていたのかしら。
顔を青くしながら大臣は震えている様子。部下がやった事だとはいえ、知らなかったとは言わせないわ。
「……申し訳、ありません。承知しておりませんでした」
「あら、そうなの?貴方の副官はよくご存じではなくて?サンダー侯爵家からの贈答品に目がくらんだのかしら?」
「……」
「しっかりと仕事をしていれば分かるはずなのにね?能力が無いのなら罷免するしかないわ」
「お、お待ちください。お叱りは受けます。私が部下に任せきりで手を抜いておりました。すぐに改変されている資料と元の資料を揃えて提出させていただきます」
慌てたように大臣が答えた。
「……では、三日だ。三日以内に全ての書類を執務室へ。あぁ、副官は既に牢にいるぞ?お前も入る事にならなければよいな?」
威圧と共にガラリと雰囲気が変わった事に宰相も怯えている。最初にグラン様が注意した事が効いているのだろう。
労働担当大臣は慌てて会議室を出て行った。まぁ、これからの話はするつもりはなかったので資料も彼の物だけは少なくなっている。
――つい、出てしまった。後は見ているからクレア、頑張るのだぞ。
ふふっ、驚きました。グラン様、頑張ります。
「さて、ここからが本題。資料を見れば分かると思うけれど、問題となっている奴隷売買について。首謀者はサンダー侯爵。それと分家であるファルム子爵を捕らえる事になるわ。奴隷を隣国と取引する日を確認できた。場所は五カ所。国境付近など同日、同時刻に行われるわ。
相手はどこか一ヶ所でも取引を成功させられればいいと思っているようね。今回の奴隷取引に関して第二騎士団では人数が足りないため取引現場には第三騎士団に押さえて貰う予定よ。第二騎士団は情報収集を行う。けれど、第三騎士団でも人数は厳しい。零と魔導士とで共闘する予定にしてある。皆の意見が聞きたいわ」
そうして団長達を中心とした軍会議が始まった。グラン様が平定されて以降、国は大きな争い無く続いていたのだが、王族殺しの一件で緊張が走った事は否めない。
私の力がまだ弱いと考え、一部の貴族は王家から離れて独自のルートを開拓しようとしている事も。
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