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 昨日はモヤモヤした気分になったけれど、今日は気を取り直していかなければね。私がサロンに入ると、ローガン様はスッと立ち上がり、私を席までエスコートしてくれるようだ。

「クレア様、先日の裁判でようやく憂いが晴らされてよかったです。とても心配しておりました」

「有難う。私一人では何の力もない、みんなのおかげだと思っているわ」

 私は席に着いた後、マヤが淹れたお茶を口にする。外交官のサロンとはまた一味違った王宮のサロン。ここは名画が並べられており、王城の風格を漂わせる場所となっている。

「あぁ、そうだ。今日はクレア陛下へ贈り物をお持ちしました」

控えていた従者が箱を私の手元まで持ってきた。

「何かしら?開けても宜しくて?」

「えぇ、もちろん。喜んで下さるとよいのですが」

 私はピンクのリボンを解き、箱を開けると、中には黒い猫のぬいぐるみが入っていた。首輪には小さな宝石も付けられている。

「かっ、可愛いわっ!!なんて可愛いのっっ」

早速箱の中からぬいぐるみを取り出してギュッと抱っこする。

「ハッ!ご、ごめんなさい。取り乱してしまったわ」

「ふふっ、構いませんよ。クレア様はクマのぬいぐるみを持っている姿も可愛く思っておりました。気に入ってもらえて良かった」

 ローガン様はいつもクマのぬいぐるみを持ち歩く私を見ていたのね。昔は城で生き物を飼っていたけれど、私達の代わりに変死する事が多くて私はぬいぐるみを傍に置くようになった。

ヌーちゃんは私の最愛の友達であり、家族なの。私は黒猫を膝に乗せて撫でながらローガン様と会話する。どことなく今日はローガン様も優しい顔をしているわ。

「そういえば、先日のお茶会で陛下からアクセサリを送られたそうですね。参加された令嬢の一人が自慢していたようで従妹がとても羨ましいと言っていました。私も陛下が作ったアクセサリを着けてみたいものです」

「あら、大した物ではないのよ?気持ち程度の効果しかないのだから。今度用意しておくわ」

「嬉しいですね。みんなに自慢して歩けそうだ。魔力はそこそこあるのですが、制御も得意ではないし、魔法陣を使用したとなると夢のまた夢なので羨ましい限りです」

ローガン様はそう言って苦笑いを浮かべた。

「ローガン様にも苦手な分野があるのですね。とても文学に優秀で剣もお使いになると聞いていたので少しホッとします。私は魔法しか得意ではありませんもの。いつも尊敬しているんですよ?」

「そう言われると嬉しいですね」

 なんだかお互い褒め合っている感じでこそばゆい。でも素直に嬉しいと思える。ローガン様も私と同じ気持ちだと嬉しいわ。

その後も雑談をして時間ギリギリまで話をした。

 話が途切れる事もなく穏やかな時間が過ごせたと思う。それにこの子猫ちゃんも素敵。

 部屋に戻ってから気づいたけれど、薄っすらだけどこの子猫のぬいぐるみに魔力を吸われていたわ。不思議に思ってよく見てみると、首輪に付いていた宝石に魔法陣が刻まれていたの。

魔法と物理攻撃反射の魔法陣。

 この刻み方を見るとローガン様自身が刻んだような感じがするの。苦手だと言っていたけれど私のために、って思うと心が温かい気持ちになったわ。どのプレゼントよりも嬉しいと思う。


 翌日からはまた執務に追われた。早朝から身体強化で書類を捌いていく。執務が滞った時は終わりの見えない疲労感で一杯だったけれど、人も増えた事で先が見えてきた。魔法を使用せずに執務をこなせる日が来るのはあと少し。目まぐるしく日々が過ぎていくわ。

「クレア陛下、本日は年に一度の王城主催の大舞踏会となっております」

「ロダ、人形を私の代わりにさせてはだめ?」

「もちろん駄目に決まっております。今夜の舞踏会で婚約者候補の方々とのダンス、貴族達と交流も欠かせません。まだまだクレア陛下を侮っている貴族への牽制も兼ねていますから。必ず出席していただかなければなりません」

「……はぁーい」

 渋々とマヤにドレスアップされていく。いつもながらに気が重いわ。見目麗しい殿方を引き下げて歩く私に妬む令嬢は必ずいるわ。本意ではないのよ?こればかりは仕方がないのよ?と、言い訳を頭の中で呟いてみる。

――クレア、良いではないか。反王族派の貴族の勢力は大方削れたであろう?これから王族派を中心として貴族達を纏めていくのに良い機会だ。
 グラン様、分かってはいるんです。ただ人が苦手なだけ。舞踏会の会場ではちゃんと頑張りますわ。

――うむ。儂も付いておる。大丈夫だ。
 ふふっ、そうでしたね。頑張ります。

「陛下、準備が整いました。やはり陛下が国一番の美女です。美しい!」

鼻息の荒くなったマヤの言葉にうんうんと他の侍女達も頷いている。

「ふふっ。マヤ達がそう言ってくれるだけで私は嬉しいわ」

「陛下は本当に美しいです。私達がこうしてクレア陛下に関われるだけで本当に名誉な事。決して大げさではありません」

私はマヤ達に褒められてくすぐったい気持ちを抱えながら重いドレスを引き下げてゆっくりと従者と共に会場へと入る。
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