上 下
24 / 51

24

しおりを挟む
「クレア陛下、体調は、落ち着いたようですね。熱も下がったようですし、すぐに湯浴みの用意をします」

 マヤはすぐに体調を把握した後、ロダに連絡し、湯浴みの準備をする。熱が下がるのに二日も掛かってしまった。

「マヤ、滞っていた執務を行うわ。食事は執務室に運んで頂戴」

「畏まりました」

 そうして私は執務室へと入室する。部屋ではロダや側近達が仕事をしていて私を見て起立し、礼を執る。

「陛下、病気は大丈夫でしょうか?」

「ロダ、私はもう大丈夫よ。みんなにも迷惑を掛けたわね。あれからカミーロ一族はどうなったのかしら?」

「詳しくは今呼びにいっている宰相から話がありますので暫くお待ちください」

どことなくナーヤの表情が思わしくない。何かあるのかしら?

「ナーヤ、どうしたのかしら?」

「クレア陛下。折角事前に注意してもらっていたのにすみませんでした。家内が夫人と連絡を取っていたようです。既に宰相には知らせてあります」

 その言葉に他の二人も暗い表情をしている。内容によってはナーヤの家も対象に含まれてしまうもの。それに信頼が出来つつあったのに主君を殺された恨みの対象になりかねない。ナーヤ自身が違うとしても。

 それほどミカルもイクセルも兄の事を大事に思っていたもの。席に着いて書類に目を通しながらお茶を飲んでいると、宰相が部屋へとやってきた。

「おはようございます、陛下。体調はもう宜しいのでしょうか?」

「宰相、気を遣わせてしまったわね。カミーロ前公爵の調べは終わったのかしら?」

「はい。事前に調べてあった事もあり、昨日の時点で調査は大方終わりました。カミーロ前公爵家、ソフマン子爵家を含めた親戚筋四家全てに何らかの関与がありました。そして反王族派の貴族二家はカミーロ前公爵家の作った禁止薬を売買しようとしておりました。実際は購入までいっていなかったようですが。あと、城に入り込んでいる公爵家と繋がりのあった者、十五名を既に捕縛しております」

「そう。それでメグレ侯爵夫人はどう関与しているのかしら?」

「どうやらカミーロ公爵夫人と息子のジャイロを隣国への逃亡に手を貸していました」

……夫人達は既に牢に入っている。ナーヤの奥さんも捕まっているのかしら。

「何故、逃亡に手を貸したのかしら、ね」

私はそう小さく呟いた。

「ナーヤ、今奥さんは何をしているの?」

「はっ、妻とは既に離縁している状態です。そして現在、彼女は侯爵家の一室で監禁しております」

「奥さんの実家は確か伯爵家だったわよね?引き取る予定なのかしら?」

「いえ、伯爵家からは王族殺しに手を貸した者に容赦はしない、帰ってくれば命は無いと宣言されております」

「……まぁ、そうでしょうね」

 ナーヤの奥さんの実家は王族派の中心と言っても過言ではないほどの人物だもの。当時、反王族派と王族派の二人は障害を乗り越えて婚姻したのよ。

嫁いだとはいえ娘が仕出かした事は伯爵としても許せるものでは無かったはず。

――クレア、気持ちは理解するが、他の貴族の事も考えろ。甘い判断は王にとっては致命的になる。 
 ……はい。分かってはいるのです。自分の弱さがやるせない。もどかしい。

「陛下、処分をどうされますか?」

「……そうね。城で従事していた者はそのまま結界内への取り込み。禁止薬を売買をしようとしていたのは何処の家かしら?」
「フォレスター子爵家、フォントール男爵家です」

「そう、その二家はどうして売買しようとしていたのかしら?」

「カミーロから市場に流せと言われていたようです。市場に出回ってしまえば足が付きにくいと考えたようです」

関係している書類に目を通しながら宰相の話を聞いた。

「両家とも爵位、領地剥奪。それから、メグレ家については夫人は結界内への取り込み。侯爵家は子爵家へ降爵。領地の一部を返還。ナーヤ・メグレは側近を解雇とする。結界内に取り込む処置は私自身が立ち合うわ。ミカル、イクセル、新たな側近を速やかに二名選出して頂戴」

「「「畏まりました」」」

一同私の指示に緊張した面持ちで答える。ナーヤにとってはとても辛い事に違いない。ミカルとイクセルと宰相は慌ただしく今後の話をしながら執務室を出て行った。

「クレア陛下、折角側近にしてもらったのにっ。足を引っ張ってしまいました。本当に申し訳ございませんでした。全ては俺の責任です」

「ナーヤ、こんな結果になってしまったのは残念で仕方がないわ。貴方の実力は確かなもの。当分メグレ家は冷たい視線に晒されるでしょう。これからは子爵として頑張りなさい。さぁ、彼女と話す時間は必要でしょう、今日はもう帰りなさい」

「……はい。最後までご配慮頂き有難うございます」

 ナーヤは深く一礼してから部屋を出て行った。途端に執務室は広く静かな空間となった。

「ロダ、アーロンを呼んで頂戴」

「畏まりました」

 これで本当に良かったのかと自問自答しながら書類に目を通す。

「お呼びでしょうか」

「えぇ。ロダとアーロン以外は少し下がって頂戴」

 私はそう指示し、従者や護衛騎士は部屋を出る。念には念を入れて防音結界を張る。

「ロダ、アーロン。ソフマン子爵の事だけれど、お願いがあるの。いくらカミーロに無理やり従わされていたとはいえ、彼等は禁止植物を栽培したわ。確実に処刑となる。けれど、マレナ嬢は私に助けを求めた時、魔法契約を行ったの」

「魔法契約、ですか」

「えぇ、そうよ。内容は一番重い物よ。彼女の勇気を汲もうと思っているわ。それらしき犯罪者を人数分用意して頂戴」

「畏まりました。彼等は今後どうするのか聞いても?」

「生涯姿を変えてもらう事になるわ。全くの別人としてね。マレナと同様の契約を家族全員が署名しているの。まぁ、ソフマン子爵と夫人は使えないわ。二人には王都外でのんびり平民として暮らしてもらうしかないわね。

マレナは侍女として、マレナの兄は、そうね、騎士としての実力もそこそこらしいから従者か使えるなら影として使えればいいかしら。絶対に裏切る事の出来ない従者が手に入るの。どこかの遠縁の者として配属させて頂戴」

「……左様でしたか。では内密に用意しておきましょう」

アーロンとロダは頷き納得したようだ。

 そうして二週間が過ぎる頃には騒動もようやく落ち着いてきた。

 新たに私の側近となったのはマーク・リントン子爵子息とラウロ・リオネッリ伯爵子息。リントン子爵は現在外交官であり、息子である彼もまた外交面に長けている。

リオネッリ伯爵子息は兄の幼馴染だった人で私とは小さい時に何度か遊んでもらった記憶のある落ち着いた人。二人とも早く仕事に慣れてくれるといいなと願うばかりね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】黒の魔人と白の魔人

まるねこ
恋愛
瘴気が溢れる毒の沼で生まれた黒の彼と白の私。 瘴気を餌に成長していく二人。 成長した彼は魔王となった。 私は地下に潜り、ダンジョンを造る日々。 突然、私の前に現れた彼は私にある頼み事をした。 人間の街にダンジョンを作ってほしい、と。 最後の方に多少大人な雰囲気を出しております。ご注意下さい。 Copyright©︎2024-まるねこ

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

処理中です...