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「ふむ。ではブラス・カミーロ。現在貴方は前国王であったマテウス陛下を殺害した容疑が掛かっている。指示をしたのか?」

 すると、彼は核心に迫った質問に抵抗しようとしているが、彼の意思とは反対にスルリと言葉が出てくる。

「そうだ。マテウスを殺すように命じたのは私だ」

 その言葉を聞いた会場がザワリとするが、続く質問を聞き逃さぬようにまた静かになった。

「それは何故か?」

「私の息子、ジャイロが新たな国王となるために邪魔だったからだ」

「簒奪の計画はいつからか?」

「エミディオ国王が戴冠する前から計画を立てていた。エミディオ達を殺した後、上手くいったと思い、その勢いでマテウスも排除してやった」

 ブラス・カミーロのその言葉に会場中は一気に騒めきだした。それもそうだろう。私の父や母は事故で亡くなったと処理されてしまっていたのだから。

「静粛に!!」

宰相も驚きを隠せないようだった。

「エミディオ国王夫妻を殺したのはカミーロ公爵なのか?」

彼は自分でもこれ以上口を開かないように尋問台に頭を打ち付けるが自白は止まらない。

「違う。俺は殺してはいない」

「ではエミディオ国王夫妻は殺されたのか?」

「彼等は殺された」

「誰によって?」

「ラヤン町の奥に拠点がある盗賊だ」

「どのようにして殺されたのか?」

「奴等は馬車を停めて馬を暴れさせて崖から落とした」

「指示したのは誰だ?」

「俺だ。俺がやった」

「他に関わっている者は?」

「隣国のオリバー・ゴルドン。フランとジャイロ、執事のダンだ」

 カミーロ公爵の夫人と息子、執事が関わっていたのね。犯罪集団に依頼し、自国の盗賊を使い殺害……。

「自白魔法の時間もある。次に聞くのはマテウス陛下の殺害についてだ。マテウス陛下の殺害に関与したのか?」

「……関与した」

「指示を出したのか?」

「執事に薬を飲ませるよう指示を出した」

「その薬はどのように入手したのか?」

「隣国の犯罪組織に依頼して禁止植物を入手し、ソフマン子爵に栽培を依頼した」

「ソフマン子爵から拒否はあったのか?」

「あいつは分家のくせに公爵家に楯突いたから病気の夫人を無理やり公爵家に引き取って夫人の命と引き換えに子爵家を黙らせた」

「禁止薬を作ってマテウス陛下に飲ませたのか?」

「あぁそうだ」

「執事に指示を出した?」

「あぁそうだ。城で働いている部下の何人かを経由して飲ませるよう指示を出した」

「それは何故?」

「複数人経由させれば出所なんて分からなくなるからな……」

 ザワザワとどよめきの中進められたが、どうやら魔法の効果が切れたようだ。カミーロ公爵は荒く短い息を繰り返しながら両膝を床について苦しそうにしている。無理やり自白させられた副作用のようだ。

「魔法が切れたようだ。カミーロ公爵、言いたい事はあるか?」

カミーロ公爵は小さく肩を振るわせていたのだが、それは恐怖からの震えとは違ったようだ。

「クッ、ククク……ハハ、アハハハッ!」

 先ほどとは打って変わり大笑いをし始めた公爵。その異様さに観衆達は息を飲んで彼の様子を眺めている。

「王は死んだ!この国は滅びへ向かっているんだ!!我が王となり新しい国を作るのだ!!」

 そうカミーロ公爵は叫び、首輪を引きちぎろうとしている。その異様な光景に隣にいた魔導士が止めに入る。後ろで控えていた騎士達も暴れる公爵を取り押さえた。

「カ、カミーロ公爵を押さえよ」

 宰相が焦ったように指示を出した。最悪首輪を無理やり引きちぎるとそのまま魔法により首が取れてしまう可能性があるからだ。私はカミーロ公爵の異常さに動けないでいた。

――クレア、儂が変わろう。

 グラン様はそう言うと、席から立ち上がり、スッとカミーロ公爵の目の前に移動した。

「カミーロよ。そんなに国王になりたかったのか。ならば一族諸共国の礎となり、生涯国のために働くといい」

 グラン様が手を挙げると、魔導士や騎士達は取り押さえていた手を放す。そして無詠唱で両手の肘下から切り落とし、火魔法で傷口を焼く。同様に足も大腿部から下を切り落とし傷口を焼く。公爵はあまりの痛みで叫ぶ。

その出来事に夫人達は倒れる者も出たようだ。叫ぶ公爵を魔法で黙らせた。

「さて、裁判官である宰相、そして貴族達。この者は私の父や母、兄である王族を殺した。ただ殺すだけでは私の気は晴れぬ。一族全て国のために永久に働いて貰おうと思う。使用人以下、それに関わった全ての者を結界の養分又は公開処刑する。それでよいな?」

宰相は唾を飲み込んだ後、「異存ありません」そう告げると、他の貴族達も頷き賛同する。


 グラン様はその答えを聞いた後、カミーロの額に手を翳して魔法陣を焼き付けるように刻み込む。

 グラン様の言っている国の結界とは薄い膜になっていて、ぼんやりとだが国全体の土壌や水源の安定を促すようになっている。普段は祭りや祈祷といった機会を作り、国民の善意で魔力を結界に流している。

これは国民全てに周知しており、国を国民が支えていると国民達は自覚している。公爵家のような高魔力の人達が常に魔力を流し続けるのだ、これから彼等が死ぬまでこの国は更に繁栄するだろう。

グラン様はまた席までスッと戻った。

「カミーロ公爵は犯罪者となった。自白魔法による裁判となったが、爵位剥奪は勿論、後日公爵家の者達には詳しい取り調べをした後、一族は生涯魔力を捧げる事とする。捕らえた使用人以下全ての魔力保持者を結界に、魔力を持っていない者は処刑とする。これにて裁判は、閉廷!」

宰相がそう宣言するとカミーロは騎士に抱えられ退室する。そして私も。

……ようやく。

ようやく兄達を殺したカミーロを捕まえる事が出来た。あいつ等はすぐに殺しはしない。

――クレア、これでようやく山は越えたな。これから奴等の処分も待っている。今は少し休むといい。
 ……グラン様っ。 


 その夜、私は熱を出した。

 今までの緊張と不安の糸が切れたように。夢の中に現れた家族。大好きな兄が頭を撫でて褒めてくれる。母が優しく抱きしめてくれる。その横で父が微笑んでいる。

あぁ、なんて幸せな夢なのかしら。願わくはこの夢から醒めたくない。

ずっとこうしていたい。

溢れる涙と共に目が覚めたと自覚する。家族は喜んでいるのか。

 苦しい思いに駆られながらもそっとベッドから起き上がり、水差しの水を口に含む。私が起きた事をマヤに魔法ベルで知らせる。
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