上 下
2 / 51

2

しおりを挟む
 ここはラグノア国。私の名はクレア・ラグノア。歳は17歳。政務の合間の少しでも時間が取れると王宮の図書館へ入り、読書に勤しむ生活をしていた。友達は本と言っても過言では無い。

一応、王国一の才女として名高い王女。私、クレアはとてつも無く人見知りである。

 そしてこの世界には魔法という物が存在している。民は生活をする上で少しばかり使える程度、貴族は平民より多く魔法を使う事が出来るのだが、生活の上で魔法を使用する事がないためステータスのための魔法と化しているのが現状といったところだ。

 私を含む王族はみな多くの魔力を保持している。私は歴代一と言っても良いほどの魔力量を保持しているけれど、一般的な貴族の持つ魔力量と公表している。

理由はというと、私が女である事だ。

 兄であれば優秀な王として公表されるが、女である私が魔力を公表すると魔力を欲する貴族達の利権争いに関り、最悪な結果をもたらしかねないと両親は私の将来を考えた末、秘匿する事を決めたのだ。

将来は優しい兄が王となって私が女宰相か文官トップとして兄を支えていくはずだった。

 1年ほど前に父と母が亡くなり、先日兄も亡くなった。父と母は事故死。兄は病死となっている。一応。私は家族達の無念の死を嘆く事も許されず、兄の葬儀もそこそこに女王となった。

優しい家族はもう居ない。

貴族達は私の悲しみを他所に私を女王として担ぎ出し、すぐさま王配を決めるように迫ってきた。

 今、まさに私の目の前にいる王配候補者。彼等は貴族院や大臣達が選定してきた者達。貴族達の透けて見える思惑。何とかしなければ。けれど、私は公の場には最低限の行事のみでほぼ出た事が無かった。

そのせいで候補者達の事がよく分からない。

……困ったものだな。




 謁見の間は王の威厳を見せつけるような荘厳な作りになっている。敷き詰められた赤の絨毯は来訪者達が襟を正してしまう程の非日常を与えている。

本日の謁見の間はいつもと雰囲気が違い、面倒事は御免だとでも言いたげな重い空気を私に纏わせる。私は金細工の施された豪華な椅子にドスンと座り、足を組み、視線を前に向ける。その理由はと言うと、この婿選びである。

「クレア陛下、この者達が王配候補者五名となります。貴族院や大臣達から推薦された者達です」

 謁見の間で和かな顔をした宰相とその後ろに控える若い男達。どの候補者も背が高く見目麗しい。しかし、私を見て微笑む者、興味の無い者、態度は三者三様だった。

「では自己紹介を」

宰相が促すと、一番右の男が一歩前へ出て礼をし、自己紹介を始める。

「私、サンダー侯爵家三男、カイン・サンダーと申します。私が王配となった暁には国を活性化させ、さらに発展に導いて行く事をお約束します。是非、私を王配にお選び下さい」

翠眼で私を射抜くような強い視線。私ににこりと笑いながらもその眼の奥に潜む何かが不安を掻き立てる。

――胡散臭いな。 
 そうですね。私もこの方は不安な感じがしますっ。

「テーラー侯爵家三男のアーサー・テーラーです。クレア陛下、ようやくお目通りが叶いました。クレア陛下は噂に違わず美しい。世界中の花々はどれも美しく、素晴らしいが陛下の前では野に咲くあだ花。美しい姫君、是非我が伴侶とおなり下さい」

赤毛で長身の彼は先程のカインと違い、雰囲気も言葉の使い方も柔らかい。流れるように出てくる吟遊詩人のような言葉は大勢の女性と関わってきたのだろうか。


「ローガン・ベイリーです。現在、宰相補佐官を務めています。三大臣から推薦されこの場に立っております。現在、貴族達は王家の不幸が続き動揺が見られます。私を王配となった暁には貴族達を纏め安定した世を作っていきたいと思っております」

眼鏡を掛けた彼はこの中で1番優秀に見える。けれど、どこか硬い感じがする。

彼にとっての私は国を動かすための一つの駒なのかしら?

「俺はベイカー・フォレスト。現在王宮魔導士をしています。趣味は魔法研究。政治についてはからきしですが、他とは群を抜いた魔力量。王配となったらクレア陛下に尽くし、王家復興のため頑張ります」

彼はこの中で1番信頼できる。用事があるって言っていたのはこの事だったのね。何故入っているのかは謎だ。彼は自他ともに認める程の魔法オタク。

魔法にしか興味を持っていない。私との接点はもちろん魔法。魔力の多い私に訓練の手伝いをしてもらっていたし、たまに今でも魔法談義に花が咲く事がある。

――面白いな。自ら種馬になると言っておるぞ?
  た、種馬っ。

――良いではないか。政治はクレアが行い、ベイカーは補佐に回る。案外良いかもしれんな。

「私、第三騎士団副官のアスター・コールです。クレア陛下の王配候補に選んでいただき有り難き幸せ。命をかけてクレア陛下に尽くす所存です」

凄く真面目に見える。護衛の延長だと思っているのか?第一騎士団は花形でもあるから令嬢達は放っておかないだろう事は予想する。

「短い期間ではあるが候補者達としっかりと交流を持とうと考えておる。公務の合間に時間を設ける。詳しくは宰相から説明があるだろう」


そう言い残し席を立った。この後、宰相から詳しく説明があるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】黒の魔人と白の魔人

まるねこ
恋愛
瘴気が溢れる毒の沼で生まれた黒の彼と白の私。 瘴気を餌に成長していく二人。 成長した彼は魔王となった。 私は地下に潜り、ダンジョンを造る日々。 突然、私の前に現れた彼は私にある頼み事をした。 人間の街にダンジョンを作ってほしい、と。 最後の方に多少大人な雰囲気を出しております。ご注意下さい。 Copyright©︎2024-まるねこ

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

花婿が差し替えられました

凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。 元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。 その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。 ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。 ※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。 ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。 こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。 出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです! ※すみません、100000字くらいになりそうです…。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...