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「ウインドショット? 聞いたことがない魔法だな」

 アルノルド先輩は興味津々のようだ。

「零師団の方が編み出した魔法らしいです。風魔法の一つで空気を極限まで圧縮? させて撃つらしいのです。
 範囲が広いと風がぶつかるだけ、狭いと威力は上がるけれど命中率が下がるのです。距離も大事らしく、遠いと威力は落ちるので気を付けなければいけません。私はこの距離がギリギリなんですよね」

 先輩はフムフムと聞いている。とりあえず、残りの二頭を討伐しなければいけないのでまたコソコソと草むらの中を移動してワイバーンに近づきウインドショットを撃つ。二頭とも騒ぐ前に倒せたので万々歳だ。

 私とアルノルド先輩は早速リュックにワイバーンと卵を収納していく。けれど、運が悪かった。ちょうど番のワイバーンたちが餌を咥えて戻ってきてしまった。

 ワイバーンは餌を離すと私たちに向けて火球を吐いてきた。

 アルノルド先輩は素早くウォーターボールを出し、私はシールドを張る。上空でウォーターボールは火球とぶつかり、水蒸気爆発を起こした。その衝撃でワイバーンは体勢を崩すけれど、そこはBランク。落下する事はないようだ。

 アルノルド先輩がワイバーンに向けて塵旋風魔法を唱える。アルノルド先輩が唱えた塵旋風はワイバーンを巻き込んでいった。

 イェレ先輩が唱えると巨大な竜巻が出来てしまい、素材がボロボロになるのだろうけれど、アルノルド先輩はその辺の調整は上手よね。

 さすが錬金術師。翼が折れたワイバーンたちが落ちてきた所を剣で止めをさして完了。

 今日の討伐はこれで終了となった。

 私たちは村まで引き返し、宿に泊まることになった。別々の部屋と言いたい所だけれど、小さな村なので一組に一部屋しか取れない宿だった。

 部屋はベッドが二つ置かれただけの簡素なもの。私は野宿だと思っていたのでそこは少しホッとしたのは内緒ね。部屋で荷物を床に降ろして清浄魔法を掛けてからベッドに座ると反対側のベッドに座ったアルノルド先輩が聞いてきた。

「ロア、先ほど使ったウインドショットについてなんだが、ちょっと見せてくれ。やってみたい」

 えっと、今ここでやるの?

 そう思ったけれど、アルノルド先輩の興味は尽きなかったらしい。

 私はドゥーロさんがいつもやっているように掌から風を少しだけ圧縮させてアルノルド先輩に向けて打つ。

 軽く打ったので衝撃は殆ど無かったらしい。

 けれど、アルノルド先輩は何かを考えながらもう一度、もう一度、と何度も撃つように言われた。

 それから繰り返した後、リュックからパンを取り出し、これに指で撃ってみてくれと言われ、テーブルに置かれたパンを撃つ。

 魔法はパンを貫通してパンには穴が開いた。何度か撃ってみた後、アルノルド先輩はフムフムと頷いて見様見真似でパンに向かって撃ってみる。

 一発目は上手く圧縮した風が出なかったようでパンは風で少し動いた程度だったが、何度かやっている間にコツを掴んだようでパンに凹みができ、ついには穴が開いた。凄い! こんなに短時間で使えるようになるなんて。

「アルノルド先輩! 凄いですね! 私は撃ち落とすまでにかなり時間が掛かったのに」
「これなら明日は楽に倒せるような気がする。少し練習してくる」

 アルノルド先輩はフムフムと頭の中でまた何かを考えながら部屋から出て行ってしまったわ。きっと村はずれの木にでも打って練習するのかな。

 先輩は夕食の時間ぎりぎりに戻ってきた。でも、なぜか部屋を出て行った時よりも服装も髪型も乱れてボロボロになっていた。

「アルノルド先輩、どうしたのですか?」

 私は心配になり清浄魔法を掛けながら聞くと。

「あぁ、これは魔鳥にやられたんだ。あいつらを見つけたから練習ついでに狩ってみたんだが、中々に難しかった。明日の朝の食事は魔鳥だ」

 動く魔鳥で練習していたのね。アルノルド先輩と宿の夕食を摂ってこの日は早々に眠りについた。


 翌朝、早い間に朝食を摂ってから私たちは繁殖地へと向かう。宿のおかみさんからは頑張ってねと昼食のサンドイッチを頂いたわ。村にとっては死活問題だからワイバーンの討伐は成功してもらいたいのだろう。


 私たちは山へ入り、昨日とは違う場所へと向かった。山のいたる所に巣が設けられていたので見つけるのに苦労はしなかった。

 私とアルノルド先輩はウィンドショットを唱え、敵が騒ぐ前に倒していく。こんなに狩りが楽でいいのかな。

 私よりアルノルド先輩の方が射程は長いらしい。これは魔力量の差なのかもしれない。

 そうして規定数まで討伐して卵も回収した。先輩も楽に討伐が出来るとは思っていなかったようでいつもより上機嫌で誰かに連絡を取っている。

 アルノルド先輩はイェレ先輩の呼び出しに成功したようだ。

「おい! アルノルド。久々に呼んだかと思えばここは何処だ?」

 イェレ先輩はキョロキョロと辺りを見回している。

「イェレ先輩お久しぶりです」
「マーロア、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「私は元気です。ここは南の村の山で、ワイバーンの繁殖地で、さっきまでワイバーンを討伐していたんです」

「ふぅん。それで俺を呼んだ理由は?」
「あぁ、これだ。イェレが育てたいと欲しがっていただろう? あと、マーロアが面白い魔法を使っていたから呼んだ」

 そう言うと、リュックからワイバーンの卵をいくつか取り出してイェレ先輩に渡した。イェレ先輩はこんな事で呼ぶなといいつつ、ポケットに掛かっていると思われる収納スペースに卵を入れていた。

 イェレ先輩って実は動物大好きなのかもしれない。

「面白い魔法? なんだそれ? マーロア見せてみろ」

 私は言われるがまま一番近くにある木にウインドショットを撃つ。するとイェレ先輩は目を開いて興味を示した。

「どうだ? 凄いだろう?」

 アルノルド先輩も自慢するように私の隣で木を撃つ。

「おぉ、俺にも教えてくれ。見たところ風魔法っぽいな!」

 アルノルド先輩は上機嫌でイェレ先輩にやり方を説明している。私よりも詳しい説明で的確に説明しているわ。

 イェレ先輩はウキウキしながら試し撃ちを始めた。何度かしているうちに木に凹みが出来た。

 アルノルド先輩を上回るほどの速さ。天才はやはり違うようだ。

 自分との差にちょっとショックを受ける。短時間でしっかりと自分の物にしているイェレ先輩はやっぱり凄いわ。

「さて、魔法も覚えたし俺は帰る」
「もちろん私たちも付いていくからな」

 そう言うと、慣れたもので私もアルノルド先輩もイェレ先輩の側までさっと移動する。

 やれやれと言わんばかりに転移魔法を唱えるイェレ先輩もそんなものだと思ってくれているのかもしれない。

 帰りは楽できて良かった。
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