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「ファルス、とんでもない事になったわね。私たちに長期休暇はくるのかしら?」
「どうだろうな。当分は外へ出れなさそうだけどなぁ。まぁ、明後日の魔術大会が終われば当分の間貴族と会う事はないからそれだけは救いだよな。
翌週の卒業パーティはどうするんだ? アルノルド先輩に連絡を入れておいた方がいいんじゃないか?」
「そうよね。まだ魔術大会は見に行かなくても問題ないけれど、卒業パーティは先輩に影響が出てしまうものね」
私は溜息をつきながら先輩に手紙を書いて魔法便で送った。きっと父からも侯爵家に送っていると思う。
翌日、私たちはいつものように鍛錬を行ってから部屋で過ごす事にした。母の部屋から次々と荷物を運び出されている。
どうやら昨日のうちに離縁の書類を用意し、母にサインさせたらしい。
あれからオットー主導で母の部屋に入り、商会とのやり取りや証拠を探した。
出てきた証拠には紹介した人の名、やり取りをする手紙、人身売買の契約書の控えや日時などの書類がクローゼットの中で乱雑に仕舞われていた。
最後まで母はサラのためだと考え、私は商会長の後妻になるものだと思っていた。
彼らに良いように言いくるめられ、そのままサインをしたような感じだった。
そのことを含め、父が王宮へすぐに報告と証拠を提出した。
我が家は被害者という形になり、咎を受けることは免れた。
そして黒い噂の絶えない商会は我が家に残された書類が決定打となり、捕縛出来る状態になったようだ。
離縁された母は今日の午後には実家の子爵家に戻される。
子爵家でも母の存在は困るだろう。子爵家の方で修道院に送るか領地に送られるかは子爵の匙加減次第だ。
サラは母に付いていくのかしら。父からは選択権くらいは与えられると思う。今後どうするのかしら。まぁ、気にしても仕方がないわよね。
私は母と会うのも最後だと思い、母が子爵家へ送られる時に玄関ホールに見送りに出た。
母は質素なワンピースを着ていて部屋で暴れたのか髪も崩れてしまっている。母は私を見つけると大声で叫んだ。
「マーロアッ。貴女のせいよ!! 貴女が商会へ行かないから私がこんなことになっているのよ! 私は貴女の母親なのよ!」
母は私に掴みかかろうとするけれど護衛騎士に掴まれ動けないでいた。
「お母様、私は生まれてから抱かれた記憶も、一緒に遊んでもらった記憶もありません。私の母はビオレタなのです。これからちゃんとした家族としてやっていけたらと思っていたのに。とても残念でなりません。これからのお母様の人生に幸がありますように」
私は礼をして母を見送った。母と荷物が子爵家へと送られていくと、邸は静まり返った。
なんとも言えない虚しい気持ち。
夕食は部屋でファルスと摂る事にした。アンナは使用人と食事を摂ってはいけませんと言うと思ったけれど、静まり返った邸に思う所はあったのだと思う。
父はというと、朝から王宮へ出掛けてまだ帰ってきていない。普段の王宮での仕事もあるのだが、母の事を報告するのと手続きなど色々とあるらしい。
当分は邸に帰る事はできそうにないとオットーは言っていたわ。そして私に無理して魔術大会を見に行かなくてもいいと話をしていたらしい。
明日、アルノルド先輩とイェレ先輩の発表を見たらすぐに帰ろう。
ー魔術大会当日ー
「おはようございます。お嬢様」
ファルスの声で目覚める。もう鍛錬の時間ね。
「ファルス、おはよう。お父様は結局昨日帰ってきたの?」
「帰ってきていないみたいだった。どうやら王宮に泊まったらしい。明日か明後日には帰ってくるんじゃないか?」
「そうね。今から着替える」
「おう。いつもの場所で待っている」
私はさっと着替えて鍛錬場に行き鍛錬を行う。ここ数日の鬱憤を晴らすべく少し強めの打ち合いをする。その後は部屋に戻って制服を着て、食事を摂り、登校した。
……これからどうなるのかしら。
溜息しか出てこない。
私たちはいつものように徒歩で登校しているが、今日はいつもより学院は人の往来が多い。
保護者や王宮のスカウト担当者なども来ているし、殿下も今回文官科の人たち数人でグループワークの発表予定があるので護衛もいつもより多く配備されているらしい。
もうすぐ競技場で魔術師の大会が始まる時間となる。魔術師の大会を見るために一般客たちは先にそちらに向かうので比較的研究発表の場は静かなようだ。
私たちは競技場へ向かわず直接アルノルド先輩の発表しているブースへとやってきた。その途中、何人かは私を奇異な目で見ていたような気がしたけれど、気にしてはいけないと思う。
「アルノルド先輩、おはようございます」
「マーロア、ファルス。よく来てくれた。大変だったな」
「先輩、魔法便にも書きましたが、ご迷惑をおかけしました」
「マーロアのせいではないだろう。むしろ被害者だ」
「まぁ、そうなのですが」
「卒業パーティの事は気にするな。元々一人で参加予定だったからな。父も母も残念そうにしていたよ。次回の舞踏会には是非パートナーとして連れてこいと」
そう、あれから父の方でもアルノルド先輩の家にご迷惑は掛けられないとしてお断りを入れたのだ。こればかりは仕方がない。
後日、母のしでかした事は他の貴族にも影響があり、逮捕者も出た。
他家が今の我が家と交流を持つのは良くないイメージが付いてしまう可能性を考え、避けるのは当然だ。
先輩の両親から私を心配する手紙が送られてきたの。
「ふふっ。アルノルド先輩のご両親には感謝しかありません」
「そう言ってくれると両親も喜ぶな。そうだ、イェレも隣のブースだから顔を出すといい。奴は身体強化で色々と間に合わせたようだが、ぎりぎりまで何かやっていたようだしな」
「そうなのですね。では行ってみます」
私たちは先輩の錬金術で作り上げた作品を見て回った後、イェレ先輩のブースに向かった。
アルノルド先輩の作った作品は専門的で魔法を物質に変換するためのモジュールや生物の素材を金属に変換させるための補助ツールが展示されている。
きっと他の研究者からは喉から手が出るほど欲しいと思われる研究なのではないかと思っている。
「イェレ先輩、おはようございます」
私たちが先輩のブースを訪れると先輩は枯れていた。
カラカラに。
「イェレ先輩大丈夫ですか?」
ファルスが心配して駆け寄る。先輩は辛うじて椅子に座っているような感じだわ。
「いやぁ、展示ギリギリまで試行錯誤を繰り返していたらこうなってしまっただけだ。ファルス、頼む、魔力を分けてくれ」
「仕方がないですね」
ファルスはそう言うと、イェレ先輩の手を取り、ゆっくりと魔力を流し始めた。
「あーびりっびりだっ」
先輩はそう言いつつ、ファルスからの魔力を貰っている。
「先輩、俺、上手になったでしょ? ずっと練習しているんですよ、これでも」
ファルスは魔力をある程度渡し終えると、回復魔法を唱えた。
「あぁ、前よりは格段に良くなったな。言っておくが、まだまだだからな? 本当ならマーロアにお願いしたいところだ」
イェレ先輩は無事に復活出来たみたい。
どうやらイェレ先輩の術式は各国の魔術師たちが注目しているようで魔術大会をそっちのけで術式を見ては頷き、隣の人と話をして魔法円談義に花を咲かせている。
そしてなぜ各国と分かるのかといえば、ローブの色やバッヂ、服装が違っているからだ。とても興味深い。
「イェレ先輩、忙しそうなのでお邪魔になると思いますし、私たちはこれにて失礼しますわ」
「あぁ、わざわざありがとう。また魔法鳥を飛ばす」
イェレ先輩は挨拶をそこそこに他の人へ説明を始めた。
「マーロア、帰ろうぜ」
「そうね。今は動き回らない方がいいわよね」
そうして私たちは先輩たちのブースを後にした。そして邸に帰ってからはひたすら鍛錬の日々が始まった。
「どうだろうな。当分は外へ出れなさそうだけどなぁ。まぁ、明後日の魔術大会が終われば当分の間貴族と会う事はないからそれだけは救いだよな。
翌週の卒業パーティはどうするんだ? アルノルド先輩に連絡を入れておいた方がいいんじゃないか?」
「そうよね。まだ魔術大会は見に行かなくても問題ないけれど、卒業パーティは先輩に影響が出てしまうものね」
私は溜息をつきながら先輩に手紙を書いて魔法便で送った。きっと父からも侯爵家に送っていると思う。
翌日、私たちはいつものように鍛錬を行ってから部屋で過ごす事にした。母の部屋から次々と荷物を運び出されている。
どうやら昨日のうちに離縁の書類を用意し、母にサインさせたらしい。
あれからオットー主導で母の部屋に入り、商会とのやり取りや証拠を探した。
出てきた証拠には紹介した人の名、やり取りをする手紙、人身売買の契約書の控えや日時などの書類がクローゼットの中で乱雑に仕舞われていた。
最後まで母はサラのためだと考え、私は商会長の後妻になるものだと思っていた。
彼らに良いように言いくるめられ、そのままサインをしたような感じだった。
そのことを含め、父が王宮へすぐに報告と証拠を提出した。
我が家は被害者という形になり、咎を受けることは免れた。
そして黒い噂の絶えない商会は我が家に残された書類が決定打となり、捕縛出来る状態になったようだ。
離縁された母は今日の午後には実家の子爵家に戻される。
子爵家でも母の存在は困るだろう。子爵家の方で修道院に送るか領地に送られるかは子爵の匙加減次第だ。
サラは母に付いていくのかしら。父からは選択権くらいは与えられると思う。今後どうするのかしら。まぁ、気にしても仕方がないわよね。
私は母と会うのも最後だと思い、母が子爵家へ送られる時に玄関ホールに見送りに出た。
母は質素なワンピースを着ていて部屋で暴れたのか髪も崩れてしまっている。母は私を見つけると大声で叫んだ。
「マーロアッ。貴女のせいよ!! 貴女が商会へ行かないから私がこんなことになっているのよ! 私は貴女の母親なのよ!」
母は私に掴みかかろうとするけれど護衛騎士に掴まれ動けないでいた。
「お母様、私は生まれてから抱かれた記憶も、一緒に遊んでもらった記憶もありません。私の母はビオレタなのです。これからちゃんとした家族としてやっていけたらと思っていたのに。とても残念でなりません。これからのお母様の人生に幸がありますように」
私は礼をして母を見送った。母と荷物が子爵家へと送られていくと、邸は静まり返った。
なんとも言えない虚しい気持ち。
夕食は部屋でファルスと摂る事にした。アンナは使用人と食事を摂ってはいけませんと言うと思ったけれど、静まり返った邸に思う所はあったのだと思う。
父はというと、朝から王宮へ出掛けてまだ帰ってきていない。普段の王宮での仕事もあるのだが、母の事を報告するのと手続きなど色々とあるらしい。
当分は邸に帰る事はできそうにないとオットーは言っていたわ。そして私に無理して魔術大会を見に行かなくてもいいと話をしていたらしい。
明日、アルノルド先輩とイェレ先輩の発表を見たらすぐに帰ろう。
ー魔術大会当日ー
「おはようございます。お嬢様」
ファルスの声で目覚める。もう鍛錬の時間ね。
「ファルス、おはよう。お父様は結局昨日帰ってきたの?」
「帰ってきていないみたいだった。どうやら王宮に泊まったらしい。明日か明後日には帰ってくるんじゃないか?」
「そうね。今から着替える」
「おう。いつもの場所で待っている」
私はさっと着替えて鍛錬場に行き鍛錬を行う。ここ数日の鬱憤を晴らすべく少し強めの打ち合いをする。その後は部屋に戻って制服を着て、食事を摂り、登校した。
……これからどうなるのかしら。
溜息しか出てこない。
私たちはいつものように徒歩で登校しているが、今日はいつもより学院は人の往来が多い。
保護者や王宮のスカウト担当者なども来ているし、殿下も今回文官科の人たち数人でグループワークの発表予定があるので護衛もいつもより多く配備されているらしい。
もうすぐ競技場で魔術師の大会が始まる時間となる。魔術師の大会を見るために一般客たちは先にそちらに向かうので比較的研究発表の場は静かなようだ。
私たちは競技場へ向かわず直接アルノルド先輩の発表しているブースへとやってきた。その途中、何人かは私を奇異な目で見ていたような気がしたけれど、気にしてはいけないと思う。
「アルノルド先輩、おはようございます」
「マーロア、ファルス。よく来てくれた。大変だったな」
「先輩、魔法便にも書きましたが、ご迷惑をおかけしました」
「マーロアのせいではないだろう。むしろ被害者だ」
「まぁ、そうなのですが」
「卒業パーティの事は気にするな。元々一人で参加予定だったからな。父も母も残念そうにしていたよ。次回の舞踏会には是非パートナーとして連れてこいと」
そう、あれから父の方でもアルノルド先輩の家にご迷惑は掛けられないとしてお断りを入れたのだ。こればかりは仕方がない。
後日、母のしでかした事は他の貴族にも影響があり、逮捕者も出た。
他家が今の我が家と交流を持つのは良くないイメージが付いてしまう可能性を考え、避けるのは当然だ。
先輩の両親から私を心配する手紙が送られてきたの。
「ふふっ。アルノルド先輩のご両親には感謝しかありません」
「そう言ってくれると両親も喜ぶな。そうだ、イェレも隣のブースだから顔を出すといい。奴は身体強化で色々と間に合わせたようだが、ぎりぎりまで何かやっていたようだしな」
「そうなのですね。では行ってみます」
私たちは先輩の錬金術で作り上げた作品を見て回った後、イェレ先輩のブースに向かった。
アルノルド先輩の作った作品は専門的で魔法を物質に変換するためのモジュールや生物の素材を金属に変換させるための補助ツールが展示されている。
きっと他の研究者からは喉から手が出るほど欲しいと思われる研究なのではないかと思っている。
「イェレ先輩、おはようございます」
私たちが先輩のブースを訪れると先輩は枯れていた。
カラカラに。
「イェレ先輩大丈夫ですか?」
ファルスが心配して駆け寄る。先輩は辛うじて椅子に座っているような感じだわ。
「いやぁ、展示ギリギリまで試行錯誤を繰り返していたらこうなってしまっただけだ。ファルス、頼む、魔力を分けてくれ」
「仕方がないですね」
ファルスはそう言うと、イェレ先輩の手を取り、ゆっくりと魔力を流し始めた。
「あーびりっびりだっ」
先輩はそう言いつつ、ファルスからの魔力を貰っている。
「先輩、俺、上手になったでしょ? ずっと練習しているんですよ、これでも」
ファルスは魔力をある程度渡し終えると、回復魔法を唱えた。
「あぁ、前よりは格段に良くなったな。言っておくが、まだまだだからな? 本当ならマーロアにお願いしたいところだ」
イェレ先輩は無事に復活出来たみたい。
どうやらイェレ先輩の術式は各国の魔術師たちが注目しているようで魔術大会をそっちのけで術式を見ては頷き、隣の人と話をして魔法円談義に花を咲かせている。
そしてなぜ各国と分かるのかといえば、ローブの色やバッヂ、服装が違っているからだ。とても興味深い。
「イェレ先輩、忙しそうなのでお邪魔になると思いますし、私たちはこれにて失礼しますわ」
「あぁ、わざわざありがとう。また魔法鳥を飛ばす」
イェレ先輩は挨拶をそこそこに他の人へ説明を始めた。
「マーロア、帰ろうぜ」
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