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 私とニコライ様は木刀を構える。

「レディに対して剣を向けるなんて気が向かないが、まぁ、程々に切り結べば合格だな」
「あら、ニコライ様。余裕ですわね。宜しくお願い致しますわ」

 そうして先生の合図で戦闘が始まる。

 対人戦は苦手なのよね。どうせなら魔獣とがっつり戦いたい。
 私の考えがファルスには伝わっているようだ。

「マーロアお嬢様、魔獣の事を考えをしていないでちゃんと戦って下さいね」
「もう! そんなことないからっ」

 私はファルスと話をしながらニコライ様の一振りをさっと躱す。

 彼は騎士団長の息子らしい。どうりで剣に自信があるのね。彼の剣は自信で一杯ね。力で押すタイプなのかしら。私にしたら隙だらけなのよね。

 もしかして、ワザと隙を作っているのかしら?

 彼がまた斜めから袈裟切りのように切り込もうとしているので咄嗟に同じ方向に足払いをして転ばせてみた。

 そしてそのまま彼は勢いよく転んでしまった。私はそのまま木刀を彼の前にそっと木刀を突きつけて試合は終了となった。ニコライ様はとても納得のいく結果では無かったようだ。

 私はニコライ様に手を差し伸べて微笑む。

「全く。どういう事だ。足払いをするなんて」
「ふふっ。先生は何にも仰っておりませんでしたわ」
「そうだぞ。ニコライ君、君の下半身は隙だらけだった。もっと練習するように。マーロア君の実力がこれでは少しもわからんな」
「では私が相手をしましょう」

 そういってニコニコと前に出てきたシェルマン殿下。ニコライ様から木刀を受け取り何度か素振りして確認をしている。

 その様子から見てもニコライ様より強い事は間違いないわ。

 ニコライ様は本当に側近なのかしら? この授業の様子は側近の誰かから絶対王宮に報告がいくわよね。彼は後で地獄の特訓が待っているに違いない。

「シェルマン君、とマーロア君いい勝負を期待しているよ。では、はじめ!」

 私とシェルマン殿下は一定の距離を取ってお互い動かず。

「マーロア、君が来ないなら私から行こう」

 そう言うと、スッと踏み込んできた。下からか。私は下からすくい上げるように来た木刀を上手く外側に力を逃がすようにはじく。

 どうしても男の人とでは力負けしてしまうが、レコは『力を逃がすようにすればいいんですよ。お嬢様』なんて飄々と言っていたわ。

 レコは優男だと思っていたけど、力を付ければ付ける程レコの存在が大きいと感じる。

 シェルマン殿下は何度も切り込んでくるけれど、私はその度に外側に力を逃がしていく。殿下はとても楽しそうに見えるわ。

 殿下が私に突いた瞬間、私は横に飛びのき、足元の石を殿下へと投げつける。

 その間に態勢を整えて次の一手を考えていると、先生から終了の声が掛かった。

「二人とも凄かったぞ」

 先生はそう言って褒めてくれたわ。そして一人ひとりにあったメニューをその場で指示していった。流石はSクラスの先生。

 もしかして元騎士団長だったりして。私がちょっと感動しているとシェルマン殿下が声を掛けてきた。

「マーロア、君もファルスも強いね。私の側近にどうかな?」
「シェルマン殿下には及びませんわ。それに私は対人戦が苦手で魔獣専門ですの。側近は辞退致します。ファルスはどう? 騎士になりたかったわよね?」
「俺は、将来の夢は騎士ですが、今はお嬢様の従者ですよ」
「対人戦が苦手なのかい?」
「お嬢様の剣は魔物を屠る為にありますからね」
「ふぅん。魔力無しでここまで強いと他の者は形無しだね。騎士科に入ったのだから騎士になるのだと思っていたよ」
「私は将来冒険者になる予定で、ファルスは騎士団長です」

 そうして雑談していると、

「お前ら、いい度胸だな。サボッて雑談か? 腕立て伏せ二百回、素振り二百回追加だ」
「「「……」」」

 先生は眉をヒクヒクしながら基礎訓練を始めるように促した。きっとシェルマン殿下と雑談していたから二百回という微妙な多さで済んだのかしら。

 私たちはいつものように息を切らす事無くモーガン先生のメニューをこなしていった。

 その後の授業は全て座学であった。

「マーロア様、ごきげんよう」
「エレノア様、ハノン様ごきげんよう」

 私もファルスも今日は何だか疲れたので(気分的に)食堂で食事をしてから早々に部屋に帰る事になった。

「今日は平民の食堂へいく?」
「今の時間だとランチの争奪戦よね。Aランチは残っていないかもしれないわ。貴族食堂へ行きましょう」
「そうだな。俺も肉が食いたい。あいつ来ないといいけどな」
「…… そうね。そういう時に限って、ね」

 私たちは貴族食堂でランチを注文し、席に着いた。私とファルスはがっつりステーキを頼んだ。身体を動かした後はやはり英気を養う必要があるわよね。もぐもぐと食べていると、

「ここ良いかな?」

 と声を掛けられた。その声の主はアルノルド先輩だった。

「どうぞ。アルノルド先輩、どうしたのですか?」

 先輩は食堂の従者に『彼女たちと同じものを』と注文してからニコニコと微笑みながら私たちの問いに答える。

「週末にちょっと付いてきてもらいたくてね」
「何か欲しい素材でもあるのですか?」
「あぁ。どうやら北の森に蜘蛛が巣を作っているのだが、その巣と蜘蛛が欲しくてね」
「ギルドで仲間募集すれば良いのではないでしょうか? こんな私のようなか弱い令嬢に蜘蛛狩りをさせるなんて」

 大げさに言ってみる。するとファルスは横でフッと鼻で笑っている。

「もうっ! ファルスったら。本当のことよ」
「いや、誰も嘘だなんて一言も言っていないですよ」
「聞いたぞ? 君たちは入学試験で騎士団長と打ち合いをして合格をもらったのだろう?」
「あの方は騎士団長さんだったのね。それは強いに決まっていますね」

 彼はそれはそうだろうと頷いている。

「で、だ。今回はDランクの蜘蛛。討伐を一緒に付いてきて欲しい」

 蜘蛛と呼んだそれはイエロースパイダーと呼ばれ、普段はDランクなのだが、数や腹の色によってはCランクの魔物に変化している事がある。ボアと同じようにごくごく偶にキングが存在しており、Aランクになるほどの強さとは聞いたことがある。

 私は考えるフリをしていると、ファルスが笑っているわ。

「もうっ。ファルスったら」
「お嬢様、週末はどうせギルドの予定ですし、いいではありませんか」
「ファルスは乗り気のようね。いいですよ。アルノルド先輩、今週末でよければご一緒致します」
「それは助かる。俺は今Cランクなんだ。素材集めをしている間にそのランクにはなったのだが、ここからは一人で難しくてな。素材集めばかりだとあまり募集を掛けてもこないんだよ。残念ながら」

 アルノルド先輩は運ばれてきた料理を美味しそうに食べながら話をしている。私たちもアルノルド先輩に興味本位で錬金の話を聞いてみた。すると彼は『一年生はここからだね』と途端に錬金のいろはのいを饒舌に語ってくれている。

 彼は将来王宮錬金術師になる予定なのだとか。

 そして週末の打ち合わせをしてこの日は食堂解散となった。

 なんだかんだと少し楽しみだったりする。だってずっと先生たちと討伐するかファルスと二人で討伐するのが普通だった。

 全くの他人と討伐なんて思ってもみなかったんだもの。
 週末までの間にやらなければいけない課題やレポート。鍛錬をこなしてその日を待った。
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