上 下
4 / 26

4

しおりを挟む
ーー到着した街の名前はファサン。

 静かな街ね。街に入り、滞在する数日を治癒師として活動するために私は教会に赴く。

治療に関しては教会の神父やシスターが行っている場合が多く、知らずのうちに業務妨害や迷惑を掛けてしまうかもしれないからね。

「すみません。誰か居ませんか」

礼拝堂の奥から出てきたのは1人の老神父。

「どうされましたか」

「あの、私ゾエと言います。旅の治療師をしていて、数日間この街でお世話になろうと思っていてお伺いしました」

「本当ですか。それは大変有難い。実は、治療を担当していた者が先日亡くなりましてね。困っておったのです。そのうち、教会から派遣されてくるとは思うんですが、なんせ田舎なのでいつくるやら」

「ありがとうございます。数日間ですが、治療院を開くのに教会横のスペースをお借りしても良いですか?」

「もちろんです。こちらこそ助かります。宜しくお願いします」

良かった。無事に職にありつけたわ。馬車を教会横に止めて冒険者の店に向かう。

しっかりと旅の準備をしなくちゃね。正直、今の所持金では心許ない。お金がある程度貯まるまでは馬車泊だわ。

私は街の雑貨屋や洋服屋などに寄り、治療師の服と自炊セット、小瓶と蜜蝋等を購入して馬車に戻る。あら、早速誰か馬車前にいるわ。

「どうしました?」

腰を曲げたおばあちゃんが馬車前の切り株で座っているわ。

「神父様からここで治療を受けれると聞いて待っておったんじゃ」

「おばあちゃん、お代を頂くけれどいい?」

「もちろんじゃ」

その言葉で俄然やる気が出たわ。おばあちゃんの身体に魔力を纏わせて悪い所を調べていく。

「おばあちゃん咳が出るのね。腰は私では少ししか良くならない。ごめんね」

そう言って胸に治療の光を当て治療する。乾燥させた薬草を蜜蝋で混ぜて治療魔法をほんの少しだけ入れて瓶に詰める。

「おばあちゃんこれを腰の痛みや咳が出る時に塗ってね。お代は1000ルーよ」

「おぉ。良くなったよ。有難う」

ポーションや治療効果の高い物は作れないけど、これくらいなら作れるわ。おばあちゃんは感謝しながら家に帰っていった。

 さて、馬車で治療師服に着替えて、髪の毛を整えているその時に気づいた。

私、髪の毛の色が変わっている!?

慌てて器に水を張り鏡のように使ってみたけど、以前は白金の髪色にエメラルドの目だったのだが、今は黒髪に黒目になっている。

どういう事かしら。魔法が掛かっていた?家族は金髪に青い目よ。これじゃまるで王族じゃない。平民が偽王族になってしまったわ。

不味い不味い。

魔力が高いと濃い色を帯びてくるのは知ってるわ。王族は魔力が高いので黒髪に黒い瞳なのよね。

 前世を思い出して魔力もプラスに加算されたようだから黒と変わらない色に変化したの!?よく分からないけれど、王族の色は不味いわ。

 なんとか魔法で髪も目もその場で薄いブラウンに変えたけれど。とっても焦ったわ。まさかの黒髪。

私は気を取り直してご飯を作る。ふぅ。やっぱり野菜スープは最高ね。

こういう時に前世の記憶があって助かるわ。16歳の市井に出た事のない令嬢はこんな事出来ないもの。

 前世での私は子爵令嬢だったが、家は名ばかりの貧しさで父も母も朝から晩まで働き詰めだった。その貧乏さ加減は侍女や料理人も雇えない程。

私は長女として学校に通いつつ、家の事や内職をして生活を助けていたの。卒業してからは、高給が望める王宮魔術師として働きに出ていたのよね。だから大抵の事は1人で出来ていた。

懐かしい味についつい前世を思い出してしまった。


 馬車の防犯用に結界杭を打ち込み、馬車内でのんびりくつろぐ。明日からの為に薬草と蜜蝋を混ぜて置かないとね。

魔法でいくつかの薬草を粉砕して細かな粉状にしてから蜜蝋と混ぜ合わせて瓶に詰めていく。日が落ちるのは早くてライト魔法を使っていたけれど、早目に寝るかな。


……ガヤガヤと何だか人の声がうるさいわ。


 目を擦りながら幌の隙間からそっと覗いてみて見ると、人が列になっていたわ。

あれ?どういう事かしら。魔法でさっと身綺麗にして馬車を降りる。列はどうやら馬車の前で止まっているようだ。

「今日はお祭りか何かあるの?」

一番前のおばちゃんがびっくりして答える。

「えっ!?祭りは無いはずだよ。あたしゃこの街に治療師が来てるから治して貰えるって聞いたからさ、並んだんだ」

その言葉を聞いて私が反対に驚いた。まさかこの列が私の治療を待っていたなんて。

「分かりました。早速、治療を開始していきますね!」

食事もそこそこに治療を開始する。この人数では全身に魔力を掛けていたら魔力切れを起こすわ。問診しておおよその場所を特定してからよね。

そうして1人1000ルーを支払ってサクサクと診ていく。街の多くの人は腰の痛みだったり、手首の痛みなど働き過ぎからくる症状が多いわね。

「この街は皆働き者なのね」

気づかずに言葉を溢していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

【書籍化により12/31で引き下げ】千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。

汐埼ゆたか
恋愛
書籍化により【2024/12/31】いっぱいで引き下げさせていただきます。 詳しくは近況ボードに書きましたのでご一読いただけたら幸いです。 今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ 美緒は生まれてから二十六年間誰もすきになったことがない。 その事情を話し『友人としてなら』と同僚男性と食事に行ったが、関係を迫られる。 あやうく部屋に連れ込まれかけたところに現れたのは――。 「僕と恋をしてみないか」 「きっと君は僕をすきになる」 「君が欲しい」 ――恋は嫌。 あんな思いはもうたくさんなの。 ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。. 。.:*・゚✽.。. 旧財閥系東雲家 御曹司『ECアーバン開発』社長 東雲 智景(しののめ ちかげ)33歳      × 東雲商事子会社『フォーミー』総務課 滝川 美緒(たきがわ みお)26歳 ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。. 。.:*・゚✽.。. 「やっと捕まえた。もう二度と手放さない」 ※他サイトでも公開中

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

処理中です...