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ーー到着した街の名前はファサン。
静かな街ね。街に入り、滞在する数日を治癒師として活動するために私は教会に赴く。
治療に関しては教会の神父やシスターが行っている場合が多く、知らずのうちに業務妨害や迷惑を掛けてしまうかもしれないからね。
「すみません。誰か居ませんか」
礼拝堂の奥から出てきたのは1人の老神父。
「どうされましたか」
「あの、私ゾエと言います。旅の治療師をしていて、数日間この街でお世話になろうと思っていてお伺いしました」
「本当ですか。それは大変有難い。実は、治療を担当していた者が先日亡くなりましてね。困っておったのです。そのうち、教会から派遣されてくるとは思うんですが、なんせ田舎なのでいつくるやら」
「ありがとうございます。数日間ですが、治療院を開くのに教会横のスペースをお借りしても良いですか?」
「もちろんです。こちらこそ助かります。宜しくお願いします」
良かった。無事に職にありつけたわ。馬車を教会横に止めて冒険者の店に向かう。
しっかりと旅の準備をしなくちゃね。正直、今の所持金では心許ない。お金がある程度貯まるまでは馬車泊だわ。
私は街の雑貨屋や洋服屋などに寄り、治療師の服と自炊セット、小瓶と蜜蝋等を購入して馬車に戻る。あら、早速誰か馬車前にいるわ。
「どうしました?」
腰を曲げたおばあちゃんが馬車前の切り株で座っているわ。
「神父様からここで治療を受けれると聞いて待っておったんじゃ」
「おばあちゃん、お代を頂くけれどいい?」
「もちろんじゃ」
その言葉で俄然やる気が出たわ。おばあちゃんの身体に魔力を纏わせて悪い所を調べていく。
「おばあちゃん咳が出るのね。腰は私では少ししか良くならない。ごめんね」
そう言って胸に治療の光を当て治療する。乾燥させた薬草を蜜蝋で混ぜて治療魔法をほんの少しだけ入れて瓶に詰める。
「おばあちゃんこれを腰の痛みや咳が出る時に塗ってね。お代は1000ルーよ」
「おぉ。良くなったよ。有難う」
ポーションや治療効果の高い物は作れないけど、これくらいなら作れるわ。おばあちゃんは感謝しながら家に帰っていった。
さて、馬車で治療師服に着替えて、髪の毛を整えているその時に気づいた。
私、髪の毛の色が変わっている!?
慌てて器に水を張り鏡のように使ってみたけど、以前は白金の髪色にエメラルドの目だったのだが、今は黒髪に黒目になっている。
どういう事かしら。魔法が掛かっていた?家族は金髪に青い目よ。これじゃまるで王族じゃない。平民が偽王族になってしまったわ。
不味い不味い。
魔力が高いと濃い色を帯びてくるのは知ってるわ。王族は魔力が高いので黒髪に黒い瞳なのよね。
前世を思い出して魔力もプラスに加算されたようだから黒と変わらない色に変化したの!?よく分からないけれど、王族の色は不味いわ。
なんとか魔法で髪も目もその場で薄いブラウンに変えたけれど。とっても焦ったわ。まさかの黒髪。
私は気を取り直してご飯を作る。ふぅ。やっぱり野菜スープは最高ね。
こういう時に前世の記憶があって助かるわ。16歳の市井に出た事のない令嬢はこんな事出来ないもの。
前世での私は子爵令嬢だったが、家は名ばかりの貧しさで父も母も朝から晩まで働き詰めだった。その貧乏さ加減は侍女や料理人も雇えない程。
私は長女として学校に通いつつ、家の事や内職をして生活を助けていたの。卒業してからは、高給が望める王宮魔術師として働きに出ていたのよね。だから大抵の事は1人で出来ていた。
懐かしい味についつい前世を思い出してしまった。
馬車の防犯用に結界杭を打ち込み、馬車内でのんびりくつろぐ。明日からの為に薬草と蜜蝋を混ぜて置かないとね。
魔法でいくつかの薬草を粉砕して細かな粉状にしてから蜜蝋と混ぜ合わせて瓶に詰めていく。日が落ちるのは早くてライト魔法を使っていたけれど、早目に寝るかな。
……ガヤガヤと何だか人の声がうるさいわ。
目を擦りながら幌の隙間からそっと覗いてみて見ると、人が列になっていたわ。
あれ?どういう事かしら。魔法でさっと身綺麗にして馬車を降りる。列はどうやら馬車の前で止まっているようだ。
「今日はお祭りか何かあるの?」
一番前のおばちゃんがびっくりして答える。
「えっ!?祭りは無いはずだよ。あたしゃこの街に治療師が来てるから治して貰えるって聞いたからさ、並んだんだ」
その言葉を聞いて私が反対に驚いた。まさかこの列が私の治療を待っていたなんて。
「分かりました。早速、治療を開始していきますね!」
食事もそこそこに治療を開始する。この人数では全身に魔力を掛けていたら魔力切れを起こすわ。問診しておおよその場所を特定してからよね。
そうして1人1000ルーを支払ってサクサクと診ていく。街の多くの人は腰の痛みだったり、手首の痛みなど働き過ぎからくる症状が多いわね。
「この街は皆働き者なのね」
気づかずに言葉を溢していた。
静かな街ね。街に入り、滞在する数日を治癒師として活動するために私は教会に赴く。
治療に関しては教会の神父やシスターが行っている場合が多く、知らずのうちに業務妨害や迷惑を掛けてしまうかもしれないからね。
「すみません。誰か居ませんか」
礼拝堂の奥から出てきたのは1人の老神父。
「どうされましたか」
「あの、私ゾエと言います。旅の治療師をしていて、数日間この街でお世話になろうと思っていてお伺いしました」
「本当ですか。それは大変有難い。実は、治療を担当していた者が先日亡くなりましてね。困っておったのです。そのうち、教会から派遣されてくるとは思うんですが、なんせ田舎なのでいつくるやら」
「ありがとうございます。数日間ですが、治療院を開くのに教会横のスペースをお借りしても良いですか?」
「もちろんです。こちらこそ助かります。宜しくお願いします」
良かった。無事に職にありつけたわ。馬車を教会横に止めて冒険者の店に向かう。
しっかりと旅の準備をしなくちゃね。正直、今の所持金では心許ない。お金がある程度貯まるまでは馬車泊だわ。
私は街の雑貨屋や洋服屋などに寄り、治療師の服と自炊セット、小瓶と蜜蝋等を購入して馬車に戻る。あら、早速誰か馬車前にいるわ。
「どうしました?」
腰を曲げたおばあちゃんが馬車前の切り株で座っているわ。
「神父様からここで治療を受けれると聞いて待っておったんじゃ」
「おばあちゃん、お代を頂くけれどいい?」
「もちろんじゃ」
その言葉で俄然やる気が出たわ。おばあちゃんの身体に魔力を纏わせて悪い所を調べていく。
「おばあちゃん咳が出るのね。腰は私では少ししか良くならない。ごめんね」
そう言って胸に治療の光を当て治療する。乾燥させた薬草を蜜蝋で混ぜて治療魔法をほんの少しだけ入れて瓶に詰める。
「おばあちゃんこれを腰の痛みや咳が出る時に塗ってね。お代は1000ルーよ」
「おぉ。良くなったよ。有難う」
ポーションや治療効果の高い物は作れないけど、これくらいなら作れるわ。おばあちゃんは感謝しながら家に帰っていった。
さて、馬車で治療師服に着替えて、髪の毛を整えているその時に気づいた。
私、髪の毛の色が変わっている!?
慌てて器に水を張り鏡のように使ってみたけど、以前は白金の髪色にエメラルドの目だったのだが、今は黒髪に黒目になっている。
どういう事かしら。魔法が掛かっていた?家族は金髪に青い目よ。これじゃまるで王族じゃない。平民が偽王族になってしまったわ。
不味い不味い。
魔力が高いと濃い色を帯びてくるのは知ってるわ。王族は魔力が高いので黒髪に黒い瞳なのよね。
前世を思い出して魔力もプラスに加算されたようだから黒と変わらない色に変化したの!?よく分からないけれど、王族の色は不味いわ。
なんとか魔法で髪も目もその場で薄いブラウンに変えたけれど。とっても焦ったわ。まさかの黒髪。
私は気を取り直してご飯を作る。ふぅ。やっぱり野菜スープは最高ね。
こういう時に前世の記憶があって助かるわ。16歳の市井に出た事のない令嬢はこんな事出来ないもの。
前世での私は子爵令嬢だったが、家は名ばかりの貧しさで父も母も朝から晩まで働き詰めだった。その貧乏さ加減は侍女や料理人も雇えない程。
私は長女として学校に通いつつ、家の事や内職をして生活を助けていたの。卒業してからは、高給が望める王宮魔術師として働きに出ていたのよね。だから大抵の事は1人で出来ていた。
懐かしい味についつい前世を思い出してしまった。
馬車の防犯用に結界杭を打ち込み、馬車内でのんびりくつろぐ。明日からの為に薬草と蜜蝋を混ぜて置かないとね。
魔法でいくつかの薬草を粉砕して細かな粉状にしてから蜜蝋と混ぜ合わせて瓶に詰めていく。日が落ちるのは早くてライト魔法を使っていたけれど、早目に寝るかな。
……ガヤガヤと何だか人の声がうるさいわ。
目を擦りながら幌の隙間からそっと覗いてみて見ると、人が列になっていたわ。
あれ?どういう事かしら。魔法でさっと身綺麗にして馬車を降りる。列はどうやら馬車の前で止まっているようだ。
「今日はお祭りか何かあるの?」
一番前のおばちゃんがびっくりして答える。
「えっ!?祭りは無いはずだよ。あたしゃこの街に治療師が来てるから治して貰えるって聞いたからさ、並んだんだ」
その言葉を聞いて私が反対に驚いた。まさかこの列が私の治療を待っていたなんて。
「分かりました。早速、治療を開始していきますね!」
食事もそこそこに治療を開始する。この人数では全身に魔力を掛けていたら魔力切れを起こすわ。問診しておおよその場所を特定してからよね。
そうして1人1000ルーを支払ってサクサクと診ていく。街の多くの人は腰の痛みだったり、手首の痛みなど働き過ぎからくる症状が多いわね。
「この街は皆働き者なのね」
気づかずに言葉を溢していた。
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