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子爵邸で準備する物は大方手配出来たし、後は結婚を待つばかりなの。私が不安そうにしているのに気づいた母は心配そうに聞いてきた。

「シャロア、大丈夫? 最近疲れているの? 浮かない顔をして。もしかしてダイアンと喧嘩をしたのかしら?」
「お母様。喧嘩はしていないのですが、最近ダイアンは仕事が忙しいようで中々連絡が付かないのです」

「子爵家には帰っているの?」
「えぇ、帰ってはいるらしいのですが、夫人の話を聞くと朝はいつものように出勤して帰りは日付が替わるころに帰ってくると言っていました」
「あら? 彼ってまだ見習いよね? 領地課そんなに遅くまで残る仕事なんてあったかしら? ここ最近、災害はないはずだけど」

母の言葉に不安が過る。

まさか、よね。

彼に限ってそんな事はないわよね? もやもやとした思いが過去の記憶から滲み出てくる。

「明日の巡回は各部署を回るのでそれとなく聞いてみます」
「そうした方がいいわ。ただ単に忙しいと分かったらシャロアの不安も減るでしょう?」
「そうですね」
「きっと大丈夫。忙しいのよ。さぁ、私達も食事にしましょう」

母は不安を吹き飛ばすかのように元気な声で私を部屋から連れ出す。

相変わらず父は王族の警護で忙しくしており、今日も家には帰ってきていない。兄ジルドも今日はまだ王宮にいるようだ。

私は母と弟二人で今日はどんな事があったのか会話をしながら食事を摂る。弟達はまだ学生で勉強は得意ではないらしく、口癖のようにテストが嫌だと言っている。早く騎士になりたいとも。

ここで母からいつも苦言を呈されるのよね。『一介の騎士なら勉強が出来なくても問題はないわ。けれど、ジルドやクレートのようにエリートになりたいのなら勉強もしなくてはいけません』と。渋々頷く弟二人。

これが我が家のお決まりパターンなの。
いつもの賑やかな食卓。弟二人も食欲旺盛で山盛りになったお肉もペロリと平らげていく。

学生になって初めて知ったのだけれど、我が家の食卓は一般貴族の食卓とは少しだけ違うらしい。
出るメニューはさほど変わらないのだけれど、量が違うの。本当に山盛りなのよね。

私や姉は小盛だけど、それでも友人達からは多いと驚かれていたわ。騎士は身体が資本だから仕方がないわよね! などと自分に言い訳しつつ楽しい食卓を囲んだ。




翌日。

「ラダン・シャロア班、巡回に行ってまいります」

今日の巡回はラダン副団長と巡回。

「シャロア、最近元気がないが大丈夫なのか?」

ラダン副団長は私の小さな変化も見逃さない。気配りも素晴らしくて婚約者が居ないのが不思議でたまらない。

「うーん。大丈夫、ではないかもしれません。最近婚約者と会っていないのです。仕事が忙しいみたいで……。副団長、今日の各部署訪問時にそれとなく聞いてもいいですか?」
「あぁ、構わない。無理はするな」
「はい、有難うございます」

私達は各部署へと巡回していく。王都警備課は騒がしい。こちらは王都の街の警備を担当していてほぼ平民の騎士達が働いている。
軽く挨拶し、次は財務課に入る。

ここは先ほどとは違い、ひたすら機械式計算機の音が鳴っている。国のお金の管理を一括でしているとても偉い部署。エリートばかりでとても恐縮しちゃうわ。
あ、私もエリートの端っこにはいるわよ? 一応ね。

道路課、貴族課、外交部を回り、領地課へとやってきた。少し緊張する。部署を覗いてみるとダイアンは居ないみたい。何処へいったのだろう? 疑問に思いながら入り口の人に聞いてみた。

「巡回に来ました。最近は災害も領地争いもないと聞いていますが平和なのでしょうか?」
「えぇ、そうですね。今年は特に争いも起きず、収穫物も例年通り。私達の仕事も定時で帰れるほど穏やかで助かっていますよ」
「そうなんですね。やはり平和である事が一番ですね。私達騎士団の出番が無さそうでホッと一安心です」
「えぇ、本当に」

文官は気に留める様子も無くにこやかに答えた。私達は笑顔のまま挨拶し、次の部署へと足を向けた。笑顔を貼り付けたまま歩く。

……震えてはいないだろうか。

強張ってはいないだろうか。

「……ア、シャロア、大丈夫か?」
「ラダン副団長。どうしよう。私、怖い、です。もしかして、彼が、彼が嘘を吐いているんじゃないかってっ」
「そうだな。まぁ、今は大きく息を吸って、吐いて、次の侍女課へ向かう事に集中しろ」
「はい」

私は言われるがまま大きく息を吸って身体の中の澱みを全て出しきるように息を吐いてから侍女課へと向かった。集中、集中。

私は散乱しそうになる気持ちを必死に纏めながら扉を叩く。

私達が部屋に入ると丁度侍女達の交代時間と重なっていたようで部屋には沢山の侍女が雑談しながら準備をしていた。ここも特に問題はなさそう。

私達が一礼し、部屋を去ろうとした時。

「あ、待って。シャロアちゃん!」

私を呼ぶ声に振り向くとそこに居たのは姉の友達であるコラリー様が居た。
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