昔は勇者で、今は婆

鎌霧

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「検品は裏でお願いします、これをお持ちに」

 アニスが札を受け取って、検品と言うか、獲物の具合を確かめるために裏に回される。折角狩ってきた獲物が腐っていたり、品質の悪い物であった場合はもう一度取りに行ってこいって事や、報奨金が減らされると言ったこともある。とは言え、検品場と言うよりも、屠畜場と言った方が正しいな。
 食料、皮、内蔵や骨、魔物一匹でも使える所は多いので、肉だけの依頼でも獲物を丸ごと持ってきたとしても依頼主の注文している物以外はギルドで買い取ってもらえる。
 
「皮は結構傷ついてるな、婆さんにしてはしくじったか?」
「私は止めだけだよ」
「じゃあ、兄ちゃんがこれやったのか」
「ええ、そうです、もうちょっと上手くやれって言われましたが」

 少しため息交じりにアニスがアイテムボックスから獲物をどんどんと引き出していって台の上に並べていく。それを一つずつ確かめ、皮がダメだ、肉が良いなどと言われながらどんどんと職員がそれをばらす。相変わらずいい手際で解体していくのをそこらの椅子に座って眺める。

「内臓は何個かダメだな、どういう貫き方をしたんだ?」
「少し捻った技でな、確実な方法で仕留めたんだよ」
「珍しいな、いつもはそんな事しないのに」

 まあな、と一言呟いてからちらりとアニスの方を見て、少しだけ笑って一息。まさかこんなに必死になって助けてやらないといけないと本気で思うとはな。いつもならもうちょっと気を使って仕留めるというのに、技の威力と勢いだけで使ったせいだ。
 
「とりあえずうちのただ飯喰らいに解体の仕方を教えてやってくれんか」
「そこの兄ちゃんにか……俺は構わねえが、良いのか?」
「覚えが悪かったら拳骨の一発や二発落としてもいいぞ」

 勝手に2人で話を進めてくるので流石にアニスがカットインしてくるのだが、遮って話を進める。

「此れも勉強だよ、私がいない所でどうやって稼ぐんだい」
「まあ、それは、確かに……」
「そういう訳で仕込んでもらいな、とりあえずその熊の分だけでもな」

 解体している職員にアニスを預けてからギルドの方へといって、丸テーブルの一つに座って注文を一つ。と、言ってもただのお茶になる。そろそろ夕暮れ時で、混み始めているのが、そんな事は気にせずにまったり飲物一つでそこに居座る。

「婆さん一人か?」
「いや、うちの奴を待っている」
「あのお坊ちゃんか、よく続いてるな、こんな鬼婆に付き合って」

 いつぞやに私と会った時に減らず口を叩いていた冒険者の一人がそんな事を言いながら向かいの席に座る。こんな感じでずっと話すが、こいつがひよっこの頃から知っているので今更ではある。

「1日で泣きだして、脱走しようとした奴がよく言うね」
「はっはっは、何の事やら」
「それでも泣きながら1週間続けた根性は認めてやるが」

 ちみりちみりとお茶を啜りながら、思いっきり目の泳いでいる元教え子を見て楽しむ。よくもまあこんな調子のいい奴に……いや、調子が良かったのは最初からだったな。
 やんちゃしてたからってこいつの親が私に預けに来たわけだが、やんちゃをしていた割には根性無しだったな。散々けなしてやったらちっぽけなプライドなのか知らないが、べそかきながら1週間頑張ったのは認めてやれる。その後すぐに脱走したが。

「ま、お前より有望なのは確かだ」
「こりゃまた手厳しい」
「最近温い依頼しかしてないみたいだし、鍛え直すなら今の内だよ」
「どぶ攫いしてる方がましだよ、鬼婆」

 やだやだ、と言った感じに手を振りつつ、自分の分の酒を頼む。こいつの事を叩きあげたのは結構前だが、こんなやつでもこの街ではそれなりな実力と実績を持っているんだから不思議なもんだ。

「まあ、あいつはあいつであまり長い事いられないだろうしねえ」
「婆さんは俺含めて訳ありの連中ばっかり抱えてんな」
「……教育費でもせしめにいくかねえ」

 結構取れそうだろうしな。
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