昔は勇者で、今は婆

鎌霧

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 さて……アニスの奴が街の掃除に出向いたわけだが、私が何もしないというのは良くない。
 そう思って依頼掲示板を上から確認していき、手頃な物を手に取って目を通す。

「婆さん、何受けるんだよ」
「ごく潰し共がやらないような奴だよ」

 手に取った依頼書をぺらぺらと仰いで、テーブルに座っていた冒険者に見せつける。
 そうして受付にその依頼書を提出し、この間と同じ手順でその依頼を受理する。

「いつもこんなのばかりで良いんですか?」
「富と名声に溺れるよりは真っ当だよ」
「張り出されている以上、誰かがやる物って事ですか」
「文字通りの汚い仕事はやらないしな」

 依頼書の控えを貰った後、一旦宿に戻って持ち物を整理してから街中に。



 
「いらっしゃい、珍しいね」
「回復と解毒、あと痛み止めと化膿止め、松明も数本」
「討伐依頼かい?」
「ちょっと地下に潜ってくるよ」
「ああー……毎年のあれか、少し安くしておくよ」

 計10本、回復4、解毒2、痛み止め2、化膿止め2の小瓶に入ったポーションと松明を銀2枚で購入し、割れないように細工しておいたポーチの中に入れてベルトに提げる。松明はそのまま2本纏めて括ったものを持っておく。

「最近はどうだい」
「冒険者が多いからぼちぼちだな、食うには困らんさ」
「うちで預かってるのがそのうち来るかもしれんから、その時は頼むよ」
「はいよ……んじゃ、良い狩りを」

 店主の言葉を背中に受けつつ、街の地下へと降りていく。
 先程受けた依頼だが、所謂地下の掃除になる。所謂水道なのだがこういう水場にはご定番のスライムだったり、鼠やそこそこでかい虫が発生。当たり前だが季節的にも暖かくなってくるのでこういう魔物が沸いてくる。
 そして、大体は街からの依頼として冒険者ギルドに張り出されるのだが、汚い臭いきついの三拍子でやりたがるのがいない不人気依頼になる。
 あまりにも放置されると地上にも鼠が沸いて来たり、街自体が不衛生になってくるので依頼金が上がっていく傾向にあり、それを狙って依頼をする冒険者も少なからずいる。が、依頼金が上がるほど放置されていると、地下の状況もそれは酷くなるため、そこには目を瞑るしかない。

「状況見て、出来そうならアニスにもやらせるかね」

 予備の松明と杖をベルトに提げてから松明に火を付けて地下道を照らす。
 一応地下とは言え、魔力を使った灯りがあるので完全な暗闇と言う訳ではないのだが、昔ながらの癖みたいなものだ。それ以外にも使い所があるので用意したのもあるが。

「こういう仕事をしてる冒険者は嫌われるって言うけど、寧ろ感謝すべきとこだってのにね」

 歳のせいか匂いにあまり敏感じゃなくなったおかげで、あまり不快感も無く進めるようになったのは嬉しいのやら悲しいのやら。
 
 そして地下だが出てくるのはとにかく潰しておくに限る。
 まずはスライム、粘性のある水の塊がずるずると動いており、その塊の中にコアでもある丸い魔石が中に入っている。
 こいつは中々厄介で、打撃も効かなきゃ、斬撃も効かない、新人冒険者が舐めて掛かって結構痛い目を見る事が多い。構成している水は酸性なので防具や服、肌に掛かると溶けだすし、肌に付いたままだと内臓がポロリする。
 なので体に掛かった場合はとにかく振り払うか、水で洗い流すのが対処法になる。またちょっと違う対処としては回復ポーションを垂らすことでなぜか酸性が中和されるというのもあるが、水道が走っている地下道なのでさっさと飛び込んだ方が早い。
 倒す場合の対処方法は、魔石を貫いて割るか、魔法で吹き飛ばす、炙って水分を蒸発させる、塩を掛けて水分を飛ばす、この辺が基本になる。

 鼠の方は、群生と個々で動いているのだが、一匹ずつの強さは魔物としては最弱なのでとにかく蹴散らして燃やしていくのが良い。ただ、あまり油断すると群生で襲い掛かってくるので、下手に深追いするのは危険だと言われている。これも新人が舐めて掛かって泣いて帰ってくる事がある。

 最後の虫は、所謂黒くてかさかさと動くあれだ。素早く、大きさも中々、たまに飛んでくるので厄介な相手で数も多い。ただ、飛びかかっては来るものの、攻撃をしてくるわけではないので先手さえ取れれば難なく倒せる。ただ、放っておくとゴミは漁るわ、病気はまき散らすわ、見た目からして不快だわで、良いことが無いので、見つけ次第殺せと言われている。そして虫の生態に漏れず、繁殖するとかなりの数になるので卵も見つけたら潰すなり焼くなり、とにかく処理しないといけない。

 新人がこういうのを相手して、立ち回りや魔物相手の対処を覚えるというのは大事なのだが、依頼としては地味だからしょうがない。

「季節の変わり目は中々多いね」

 松明の火の先、大き目のスライムがいたり、うぞうぞと鼠共がいたり、たまに顔の横を虫が通って行く。

「全く、最近の若いのは綺麗な事しかやらないね」

 とりあえず近くにいたスライムに松明を近づけて炙って処理を始める。
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